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人類の夢 9 〜ゆめはうたかたに 9〜


 結局、ジェットが持参した写真は、みんなに公開された。もちろん、ジョーは、
ジェットの反対にもかかわらず、事前に中身のチェックを敢行した。あらかじめ除か
れた写真は、後でフランソワーズにだけ見せる、ということで、ジェットも渋々了解
した。
 ギルモア博士もフランソワーズも、ジョーの幼い姿を写す写真に、大はしゃぎだっ
た。ギルモア邸に引き取られる以前の写真は皆無だったし、ジョー自身、アメリカで
の生活をほとんど覚えていない事もあって、二人はジェットの説明に熱心に耳を傾け
ている。ハインリヒとピュンマが交代で通訳をしてくれるので、今のフランソワーズ
には言葉の心配は無用であった。
 ジョーは、離れて立っていた。壁に寄り掛かり、にぎやかな一団を見つめている。
 そんな彼に、グレートと張々湖が声を掛けた。
「一緒に写真を見ないのか、ジョー」
「そうアル。あんたはんの写真アルよ」
 ジョーは首を振った。
「先刻見たから。それより、グレートや張大人こそ見てくればいいのに」
「ワイは、英語わからないアルよ」
「オレも後でいい。ギルモア博士に教えてもらうよ」
「そう……」
「どうした。元気ないなあ」
 グレートが、大げさに腕を振り回す。
「ほれ、これっくらいの元気、出せよ。先刻の勢いはどうした」
 思わず、ジョーの顔に笑みがうかんだ。
「うん、ありがと、グレート」
 それでも、また俯いてしまったジョーを見て、張々湖がためらいがちに言った。
「ホント、どうしたアルか、ジョー。気に入らない写真でもあったか。見られたくな
いなら、ワイら見ないアルよ」
「そ、そうじゃないよ」
 ジョーがびっくりしたように顔を上げた。
「……あの写真、ぼくしか写ってなかったから」
 グレートと張々湖は、お互い顔を見合わせる。
「そりゃあ、お前さんの、小さい時の写真だろう」
 グレートは言ってから、はっとした。張々湖が彼の肘をつついてくる。
「そうだよね。もともとあれは、ジェットの両親が撮ってくれたものだし。変な事
言ってごめん。もっと飲み物持ってくるよ」
 ジョーは、部屋を出でいった。
「ジョーは、両親が写っているかも、と思ったアルね」
 張々湖が静かに言った。
「写真、残ってないんだってな」
「そう聞いたアル。火事じゃ、しょうがないアルよ」
 しばらく考えて、グレートは張々湖の肩を叩いた。
「よし、手伝ってくれ、張大人」
「な、何アルか」
 グレートは、張々湖の背中を押して、部屋を出ていった。


                                     人類の夢 9 〜ゆめはうたかたに 9〜
                                      

(C)飛鳥 2002.3.1

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