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人類の夢 10 〜ゆめはうたかたに 10〜


 ジョーが部屋に戻ると、グレートと張々湖の姿が見えなかった。ビール缶を持って
いるジョーに、ジェロニモが気がついて、運ぶのを手伝ってくれる。
「ジェロニモ。グレートと張大人、知らないかい」
「お前の後に、出ていった」
「どこへ」
「さあ?」
 ジョーが首を傾げていると、噂の二人が戻ってきた。重そうな箱を一つ、二人して
抱えて部屋に入ってくる。
「ふー、重たかったアルねー」
 箱を部屋の中央に下ろすと、張々湖はその場に坐り込んだ。
「なんだなんだ、案外か弱いじゃないか、張大人」
 グレートがからかう。
「グレートは、意外に力持ちアル」
「役者は体力勝負だからな」
 二人のやり取りに、ジョーが割って入った。
「一体何を運んできたんだい」
「ああ、ジョー、お前さんのだよ。昼間、物置で見つけたんだ」
「物置って?何を持ってきたのさ」
 ジョーの顔が強張る。
「心配すんな。変なものじゃない。ほら」
 グレートが蓋を開けると、中には。
 掌に乗るくらいの、自動車のおもちゃ。絵本と童話が数冊。他に、文庫本がぎっし
り詰まっていた。
「これは……」
 ジョーの言葉が詰まる。
「なんだよ。何をおっぱじめたんだ」
 ジェットが、覗きに来た。箱の中の本に気付いて、おどけた声を上げる。
「さすが、勉強家だな」
「そうじゃないよ。これは、ギルモア博士が買ってくれたんだ。ぼくが日本語をあま
り覚えていなかったから」
「へえ」
 ジェットは、一冊の絵本を取り上げた。
「これも日本の文字なのか」
 見ると、奇妙なアルファベットが並んでいる。
「違う。これは、ロシア文字だ。でも、こんな本、あったかな」
 ジョーが不思議がっていると、ギルモア博士がやって来て、その絵本を手に取った。
「これは、ウイスキー博士からいただいた本だよ」
「ウイスキー博士から?」
「ジョーの誕生日のお祝いに、と」
 ギルモア博士から絵本を受け取ると、ジョーはしばしそれに見入っていた。
「それじゃあ、これはイワンにあげよう。いいよね、博士」
「ああ、そうしなさい」
 ギルモア博士は、微笑んで頷いた。
「へえ、なつかしい物があるじゃないか」
 いつの間にか、ピュンマも箱を覗き込んでいた。文庫本を数冊、持ち上げる。
「ジョー、これ、貸してくれたよな。高校の時に」
「え?ああ、そうだね。よく覚えてたなあ、ピュンマ」
「もちろん。漫画を読んだのは、これが初めてだったから」
「マンガ?どんなマンガだ?」
 ジェットが興味深そうに聞いてくる。
「『サイボーグ009』という漫画だよ」
「サイボーグウ?なんだそりゃ」
 ジョーがどう説明をしようか、と考えていると、ハインリヒがジョーにそっと耳打
ちした。
「お姫様は、そろそろ退場の時間じゃないのか」
 えっ、と思い、フランソワーズを見ると、彼女はソファーの上で眠そうな顔をして
俯いている。
「そうだね」
 ありがとう、ハインリヒ。
 そう呟いて、ジョーはフランソワーズを連れて、部屋を出ていった。



                                   人類の夢 10 〜ゆめはうたかたに 10〜
                                      

(C)飛鳥 2002.3.1

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