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人類の夢 8 〜ゆめはうたかたに  8〜


 気がつくと、ジョーが三人のすぐ側にいた。
 ジェットはもちろん、ピュンマもジェロニモも一歩後退りする。
「三人で、何の話をしてるんだ」
 少々酒が入っているせいか、目は潤んでいるものの、目尻も口許も笑ってはいない。
 おずおずと、ジェロニモが説明する。
「ジョー、昼間機嫌、悪かったから、心配して、みんなで相談してた」
「ジェロニモ、英語でわざとたどたどしく言うのはやめろよ」
 ジョーの反応は、厳しい。
「しゃ、写真の事を聞いてたんだ。ほら、そのせいで喧嘩を……あ」
 ピュンマが慌ててフォローしようとするが、状況判断に欠けた発言となってしまっ
た。
「ジェットォ!まさか見せたんじゃないだろうねっ」
「見せてない、見せてない」
 ジョーの剣幕に、ジェットが首を振る。
「おい、どうした、ジョー」
 ハインリヒが、心配そうな口振りで声を掛けてきた。しかし、目元は笑っている。
 ジョーは、しまった、という顔をした。おずおずと、ドイツ語でハインリヒに話し
掛ける。
「ハインリヒ、君、確か英語は」
「ああ、お前たちの会話くらいは聞き取れる。写真がどうのと言っていたようだが。
実は、ジョー、オレもお前に写真を持って来たんだ。すっかり忘れてたよ」
 そして、ポケットから一枚の写真を取り出した。
「アルバムの整理をしていたら出てきた。ネガがないから、たぶんこれ一枚しか残っ
ていないと思う。ほら、子供の頃、川遊びした時の写真だ」
 写真を目の前でヒラヒラされて、ドイツ語が通じない三人も、ジョーと一緒になっ
て、ハインリヒを取り囲んだ。
 果して、その写真を手にしたのは、ジョーであった。ジョーは、素早くそれを隠す。
「おい、見せろよ、ジョー」
 ジェットが、真っ先に抗議の声を上げた。
「そうだよ。いいじゃないか。一枚くらい」
 ピュンマの声に、ジェロニモも頷く。
 しかし、ジョーは決して見せようとはしなかった。
 そんな様子を、おかしそうに見ていたハインリヒは、つとフランソワーズの方に向
き直り、こう告げた。
「後で、ジョーが、子供の頃の写真を、たくさん、見せてくれるそうだ。楽しみに
待ってるといい」
 フランソワーズは、ドイツ語が理解できる。彼女は、うれしそうに微笑んだ。
 一方のジョーは、その言葉を聞いて、愕然とした。たった今手に入れた写真を、奪
い取られたのも気付かぬくらいに。じっと動かぬジョーに、ジェットが声を掛けた。
ジョーは我に返ると、ジェットの腕を掴んで、有無を言わさず廊下へと引きずって
行った。


                                      人類の夢 8 〜ゆめはうたかたに  8〜
                                      

(C)飛鳥 2002.3.1

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