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人類の夢 11 〜ゆめはうたかたに 11〜


 ジョーとフランソワーズが部屋を去ってしばらくすると、ハインリヒ、ギルモア博
士、グレートと張々湖もそれぞれ挨拶をして、寝室に下がってしまった。入れ代わり
に、ジョーが戻ってくる。
「よーし、そんじゃ、飲みなおしといこうぜ」
 ジェットが勢いよく、ビールを飲み干した。
「ジェットは、機嫌がいいと『ざる』になるから気をつけて」
 ジョーは、そっとピュンマとジェロニモに告げた。
 時、既におそし。
 ピュンマとジェロニモは思った。ジョーが戻ってくるまでの間に、ジェットは一人
で何本ものビール缶を開けていた。
「なあ、ジョー、先刻のマンガの話、教えろよ。サイボーグなんだって?」
「『サイボーグ009』だよ」
「どんな話なんだ」
 ジェットの質問に、ジョーは、再び考え込んだ。
「そんなに難しい話か?」
 ジェットの表情が曇る。ジョーは慌てて言った。
「いや、そうでもないよ。でも、一言で説明するのは……」
「誰も一言で、とは言ってないぜ。そうだ、ピュンマも読んだんだろう。どんなだ」
「そうだな。細かいところは覚えてないけど。確か、無理やりサイボーグに改造され
た人間が主人公で、悪の組織をやっつける話だった」
「ヒーロー物だな」
 そう、とピュンマが頷く。
「でも、その後も、話が続くんだよ」
 ジョーが言った。
「ピュンマが言ったのは、始めの方の話で、その後の話も面白いんだ」
「どんな風に」
 ジェットが身を乗り出して聞いてくる。
「サイボーグにされた主人公は、その後もさまざまな事件に遭遇する。悪人達を懲ら
しめた時もあったし、不可解な事件を解決した事もあった。歴史や神話伝説の類を題
材にした話もたくさんある。宇宙人と接触する話もあった。でも、全部が全部、はな
ばなしい勝利で終わるわけじゃないんだよ。戦いに勝っても、うれしいという感情よ
り、さびしさの方が勝っている、そんな話」
「ずいぶんあやふやな説明だな。具体的には、どうなんだ」
「長い話だから、一つ一つ説明できないよ」
 ジェットは、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
 次にジェロニモが質問する。
「それだけか」
「え?」
「ジョーが考えていたのは、それだけか。もっと、何か別の事を考えているように見
えた」
「んー……」
 ジョーの視線が、宙をさまよう。
「出たな、ジェロニモの第六感。どうなんだ、ジョー」
 からかうように、ピュンマが言う。
「そうだな。ジェットだったらどうする?気がついたら、自分の体が機械になってい
たら」
「なんだ、そりゃ」
「主人公は、意識のないうちに、サイボーグ手術を施されてしまうんだ。知らないう
ちに機械の体にされて、お前は兵器だ、って宣言されてしまう。ジェットならどうす
る」
「そりゃ、決まってるな。相手をぶっ飛ばす」
 それを聞いた三人は、笑い出した。
「何がおかしいんだ。当たり前だろう。何で俺がそんな勝手なことされなきゃならな
いんだ。俺の体だぞ。そんな理不尽な事をする奴らなんか、一人残らずやっつけてや
るぜ」
「そう。主人公達もそうしたんだ」
「主人公達?」
「全部で九人、いるんだよ」
「全員サイボーグか」
「そう。それで、ジェット、その後はどうする。悪い奴らをやっつけた後は」
「……そうだなあ」
 ジェットは、ビール缶をもてあそびながら、考えた。
「もとの生活に戻る、かな」
「うん、漫画でもそうなっているよ。でも、やっぱり事件に首を突っ込むんだ。それ
が使命とでもいうかのように」
「ふーん」
「主人公は決して戦いを望んでいた訳じゃない、と思う。サイボーグの自分は何なの
だろうって、戦いながら、ずっと考えていたんじゃないかな」
「考えていたって、言ってもな。所詮マンガの話だろ」
「そうなんだけど。そんなメッセージが込められているような気がするんだ。人間と
は、サイボーグとは何なのだろうって」
「生きている者」
 ふいにジェロニモが言った。
「人として生まれたら、人として死ぬ。生あれば死も必ずある。それが、命ある者の
定めだ」
 ピュンマも頷いた。
「そうだよね。サイボーグというのは、そもそも、特殊な環境下でも活動できるよう
に生体を改造することで、ロボットとは違うんだから」
「難しい事知ってんな、ピュンマは」
 ジェットが感心する。
「だてに三回も留学してないよ」
「言ったなー」
 再び、笑いが起こる。
「そういえば、ぼくたち全員出てくるんだよ、話の中に」
 ジョーの言葉に、ジェットが不思議がる。
「どういう事だ」
「名前だよ。主人公達の名前が、ぼくたちと同じなんだ。ぼくは009で、ピュンマ
は008、ジェロニモは005で、ジェットが002」
「なんだよ、その002ってのは」
「サイボーグの呼び名だよ。確か、ハインリヒとフランソワーズも出てた」
「へえー、おもしれえ。本、見せろよ、ジョー」
「いいよ。でも、ジェットは日本語、読めないじゃないか」
「ジョーが、通訳してくれれば問題なし。さあ、読もうぜ」
「えー、やだよ。あれ、ピュンマ、ジェロニモ?」
 ピュンマとジェロニモは、さっさと立ち上がって廊下への扉に手を掛けている。
「長くなりそうだから、先に休むよ。ジョー、健闘を祈る。おやすみ」
「おやすみ。しっかりな」
 ジェットがジョーの口を抑えて、にっこりと手を振った。



                                  人類の夢 11 〜ゆめはうたかたに 11〜
                                      

(C)飛鳥 2002.3.1

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