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「言二葉」~掛川 享嗣
詩ページ:「言二葉」 |
作者サイト:slight-coma(閉鎖) |
興味深い多くの彼の作品の中でも、少し特異なものをまず取り上げてみた。 彼の作品には、まるで病魔に冒された医者が、自らその経過を凝視する執念のようなものが、極端に前面に出ているものが多いのだが、この作品においては、それらは影をひそめている。 私は「想い」という字が好きだが、ここに使われているその言葉からは、作者が、雪の静かに舞う世界に向けて、同時に、暖かい温もりを持つ「ひと」に向けて心を開いていることが切々と感じられ、胸を打たれる。 ”音楽も 詩も そう 人と人 誰かと誰か あなたとわたくしを 繋げる為に 生まれたのです。” まっすぐに書かれたこのような想いこそが、実は彼の本当の希いだったと、私は思っている。 ところが、現実には、音楽も詩も、彼の考えるようには、人と人を繋げることはなかった。 さらに、少なくとも、現代の多くの詩は、人間性の拒絶に満ちているか、逆に、個人的コマーシャリズムそのもののような流し目をくれるものでしかない、と言っても言い過ぎではないだろう。音楽も、実は、隔離された空間に自己をかくまうものでしかなくなってはいないだろうか。 現代という世界が、人間に与えている本当の作用について、私たちはもっと真剣に向き合う必要がある。そういう意味で、彼の詩は深い意味がある。 ”あなたの為に 伝える言葉があります。 「おやすみなさい」” この詩を、最初の沈鬱な書き出しから、次第に雪の舞う外界に向けられて清めらてゆく部分へ、そして、次第に読者へと語りかけるように優しくなってゆく部分へと読み進み、最後に伝えられる「おやすみなさい」という言葉を目にした時、私も思わず「おやすみなさい」と呟いていた。 2005/8/14 |