「★☆?!☆★」 「……っってー?」 ジョーは、声にならない声を発し、ジェットは呻きながら、揃って目を覚ましまし た。二人の頭は、それぞれにジェロニモの手が添えられています。ソファーに坐る二 人の回りには、仲間が勢揃いしていました。 「やっと起きたか」 アルベルトが、呆れたように言いました。 「なかなか起きないから、心配したアル」 「寝る子はよく育つと言うが、お主たち、それ以上は、育ち過ぎだぞ」 張々湖とグレートの声がしました。 「仲がいいよね。一緒に昼寝している上に、寝言まで同じなんだから」 「そう。最後は、加速装置って言って、目を覚ましたのよ」 ピュンマとフランソワーズの笑う声が聞こえました。 (ぼくが起こそうとしたら、ジェロニモが、二人の頭を持って、ぶつけたんだよ) イワンが、フランソワーズの腕の中から、テレパシーを送ってきました。 「すまん、痛かったか」 ジェロニモが、二人に謝りました。 「あー……、いいって。気にすんな。イワンのテレパシー攻撃よりマシだ」 ジェットが、伸びをしながら答えると、ジョーも欠伸をした後に言いました。 「そんなに長いこと、眠ってた?」 「かれこれ、3時間」 アルベルトが、時計を見ながら言いました。 「ええっ、そんなに?」 「お前たち、一体どんな夢を見ていたんだ。二人して、会話をしていたぞ」 アルベルトが笑いを堪えたような顔で、聞いてきました。ジョーとジェットは、顔 を見合わせました。 「どんなって言われても」 「なあ?ほんとに、同じ夢を見ていたのか」 「話してみろよ」 「うん、それが、こんな夢で……」 ジョーが話しはじめると、ジェットも途中から口を挟み、結局二人が同じ夢を見て いたことがわかりました。 「フーン、ホントにあるんだね。同時に、同じ夢を見るなんて」 ピュンマが、不思議そうに首を傾げながら言いました。 (それで、二人とも、探し物はみつかったのかい) イワンの言葉に、又してもお互いの顔を見てしまう、ジョーとジェットでした。そ して、先にニヤリと笑ったのは、ジェットでした。 「おう、勿論、見つけたぜ。頼りになる兄貴を、な」 そう言って、ジェットは、ジェロニモに視線を投げかけました。ジェロニモは静か に笑って答えました。 「ジョー、お前さんは?」 グレートが、興味津々という顔で、聞きました。 「僕は……」 ジョーは、一端言葉を切り、一同の顔を見ました。それから、再び口を動かしまし た。 「僕は、仲間を見つけた。そして、その中にいる、 "僕"を見つけたよ」 「……ジョー」 フランソワーズが、ジョーに飛びつきました。 「わっ?ちょっと、フラン?」 「あー?しょーがねーな、お前ら、どさくさに紛れて。俺にも抱きつけ、フラン」 「いやよ」 (ぼくが抱きついてあげるよ、ジェット。放りだされちゃったから) イワンが、ジェットの首に取りつきました。 「いらねえ。やめろ、イワン」 ジェットが、さして嫌がりもせずに、イワンを抱き直しました。 そこへ、扉が開いて、ギルモアが黒い箱を手に持って、入ってきました。 「みんな、揃っているね。ちょうどよかった。誰が実験を手伝ってくれないか」 「実験ですか」 アルベルトが、ギルモアに近づき、黒い箱をギルモアから受け取りました。 「これの、ですか。博士」 「ああ、メル友の飛鳥さんがやっと新作を書いてくれて、完成したんだよ」 「何ですか、これは」 アルベルトが尋ねると、ギルモアは満面に笑みを浮かべて答えました。 「夢を見せる装置だ。眠っている人の脳波に働きかけて、予めセットしてある物語を、 その人に夢として見せることができる。本人は、物語の登場人物になった夢を見るん だよ」 その場にいた者全員が、ギルモアの言葉に集中しました。 「だから、今夜にでも、誰かに試してもらいたい」 ギルモアは、一同の顔を見回しました。 (博士、それに今、物語がセットされているの?) イワンが、ジェットの膝から飛び上がりました。 「ああ、ディスクが入っている。セットしたとき、間違って作動スイッチも入れてし まってね。後で、スイッチの場所を改良しないといけないな。先刻気がついて切った んだが。どうだね、誰か?」 今一度、ギルモアがみんなの顔を見回した時、ジェロニモがフランソワーズに声を かけました。 「フランソワーズも、見たのか」 「え?フランソワーズも」 ジョーが驚いて、フランソワーズの顔を見ました。彼女の顔は、真っ赤になってい ます。 「オレが、リビングに来たとき、一緒に眠っていた。みんなが入って来る前に起きた んだ」 と、ジェロニモが説明すると、フランソワーズはますます赤い顔をして叫びました。 「やだあ、ジェロニモったら。黙っていてって言ったのに」 ジェットが、ジョーの首に腕を回して言いました。 「と言うことは、お前ら……、夢の中でまで、いちゃついてたのか」 「ジェット、苦しいよ」 「ジェットったら、離しなさいよ。夢の話じゃないの」 「俺は、本気で心配したんだぞお」 こうして、三人は、ギルモアの話から離れてしまいました。 ギルモアには、彼らの話がわからず、とりあえず残りの面々にもう一度声をかけま した。 「どうだろうか」 すると、イワンが急に、 「アルベルト、抱っこして」 と言って、アルベルトの返事も待たずに、彼の胸に飛び込んできました。驚いたア ルベルトは、思わずイワンを抱き留め、そのために、ギルモアから預かった黒い箱を 落としてしまいました。更にまずいことに、足元がふらついてしまい、二三度足踏み をしたかと思った拍子に、黒い箱を踏み潰してしまいました。 黒い箱は、アルベルトとイワンの体重を受けて、真ん中がひしゃげました。ギルモ アは、驚きのあまり、声が出ません。そこへ、ピュンマがやって来て、 「博士、ディスクは無事かもしれませんよ。僕が見てみましょう。ジェロニモ、 ちょっと手伝ってくれないか」 と言って、箱を抱えると部屋の隅へ行き、ジェロニモと一緒に床に坐り込みました。 グレートと張々湖は、ギルモアの両横について、頻りに話しかけました。 「ピュンマに任せておけば、大丈夫アルヨ」 「そうそう、ディスクが無事なら、後で読ませてくださいよ。しかし、博士も隅にお けませんな。一体いつ、メル友と知りあったんですか」 「あー、インターネットをやっていて、だんだんと」 「今度、紹介してくださいよ」 「博士は、どんなホームページを見ているか、教えるヨロシ」 「うん、まあ、話題のアニメなんかが、面白くてな」 などど、いつの間にか世間話に花が咲くのでした。 そして、離れた所でそんな様子を見ていた、アルベルトは、そっと腕の中の赤ん坊 に声をかけました。 「イワン、お前、あんまり出番がなかったから、拗ねたんだろう」 「ちょっとね。アルベルトの方こそ」 「まあ、ちょっと、な」 それから、二人して見上げた空には、紫の雲が棚引き、その雲は赤い光で縁取られ ていました。こうして、ギルモア邸の午後は暮れていきました。 童話 太陽の花(五) |