ウインドファーム 3
送電線 構造は、鋼線をアルミ線で何十にも覆ったもの。鳥がとまっても 感電はしない。 発電所で作られた電気は、いくつかの変電所を経由して各家庭ま で送られる。その際、電気の通り道となるのが、送電線である。 風力発電事業では、風車建設地に既存の送電線がない場合、事業 者が送電線の建設費用を出さなくてはならない。
『ピュンマ、お元気?』 フランソワーズから届いた手紙は、いきなり風車の話から始まっ ていた。 『千葉県に、新しい風車ができたのよ。鴨川にあるの。 形は、垂直ダリウス形風車。羽は、五枚もついてるわ。 作られた電気は、近くの施設で使われているんですって。 風力発電のしくみや、環境問題を考えてもらえるように、現地で 見学もできるし、解説もしてもらえるそうなの。 もし、興味があるなら、今度日本へ来たとき見学できるように、 予約をしておくわ。連絡してね。』 彼女にしては、めずらしく興奮している書き方だ。 でも、その後に「ジョー」の名前が出てきたので、納得する。 『この風車のこと、ジョーが教えてくれたの。 この間、千葉県にある風力発電施設を、いっしょに見に行ってき たわ。 本当は、そのまま東北地方もまわる予定だったのだけれど、ジェ ットが来てくれることになったから、日帰りで一旦帰ったの。 その後、もう一度、東北と北海道の風力発電施設を見てきたから、 そのレポートは、そのうちジョーが書いて送ると思うわ。 実は、発電施設を見てきて、驚いたことがあるのよ。 施設がある場所は、発電が見込める程の安定した風が吹くところ。 そうすると、海岸近くに作られることが多いの。 海辺が悪い、というわけじゃないのよ。 景観が悪くなる、とか、音がうるさい、とかいわれるけど。 もっと大きな問題は、送電線の設備が整っていない、ということ なの。 もちろん、現在風力発電用の風車がある所には、送電線があるわ。 作った電気を電力会社に送るために、必要ですもの。 ただ、風がよく吹く場所って、どちらかというと、人がそれほど 住んでいなくて、そんな所に発電用風車を建てるには、どうしても 新しく送電線を建設しなければならないんですって。 これは、かなりのお金がかかるそうよ。 それに、どんなに風力発電に適した場所でも、そこが自然保護区 だったら、建設はできないんですって。 日本は、海岸線が長いでしょう。海に囲まれているんですもの。 だから、風力発電の風車を、どこにでも建てられると思っていた の。日本中に風車が立って発電をすれば、もう、原子力発電や、火 力発電に頼らなくてもいいって思ったんだけど、現実には簡単にい かないのね。 北海道のウインドファームは、そんな悪条件を乗り越えて建設で きた所なのよ。苫前町にあって、日本最初のウインドファームで、 もう発電しているわ。 ここで稼働している風車は、プロペラ形。 最初に書いた、千葉・鴨川の風車は垂直軸だけど、苫前の風車は 水平軸よ。 何故、改めて、垂直か水平かと言うとね、発電機の組み込み位置 に違いがあるの。 構造上の問題で、水平軸のプロペラ形は、プロペラのすぐ後ろ側 に発電機が設置されていて、支柱の上の方に乗っている形なの。 でも、垂直軸の場合は、支柱の中に組み込む事ができるから、上 ではなくて、下の方にも設置が可能だそうよ。そうすると、安定が いいから、地形の悪いところでも、稼働できるんですって。例えば、 海岸近くの海の上につくる、洋上ウインドファームに採用したらど うかって、考えられているわ。 いろいろ難しい問題もあるけれど、一番大切なことは、もっと環 境問題や、自然エネルギーに関心を持つことだと思うわ。 必要と感じれば、困難なことにも立ち向かう勇気が出てくるもの。 目先の便利さに現をぬかさないで、長い視野に立ってお金を使う ことを考えてほしいわ。 そういえば、イワンが買った、あの風車。 わたしがヨーロッパから帰ってきたら、もう組み上がっていたの。 ジョーが一人で作ったにしては、丁寧すぎるのよ。あの時間で、 風車四基と立体ジグゾーパズルを完成させられる筈ないわ。 それに、ドルフィン号の燃料も減っていたし。 ジョーもジェットも何も教えてくれないけれど。 このまま、知らん顔していた方がいいかしら。 ねえ、ピュンマ?』 この手紙の返事、やっぱり書くべきだろうか。 ウインドファーム3 終
(C) 飛鳥 2003.12.1