宵明けの青空に -1- 飛びたがりのさかな

  
  
  
  
  
  
  
空を見定めたハントが僕らに合図を出した。
僕は急いでマッチを擦ってシリンダーへ投げ込んだ。

ズドンと音がすれば上手く行くだろう。
1505年、あの彼がみた魚の夢を僕らは信じていた。

シュコン
「とても軽い音がしたけれど、覗いてはいけないのだったな・・・」

水素ガスが足りないのだろう、
そうして僕はかろうじて動いているそいつに、
取りつけているボンベを交換してやろうとしたその時に

ズドン

ギュキャキャキャキャガロガン
ズギャキャキャキャキャガロガン
ズキュルドュルグン
ガシコンック、ガシコンック、ガシコンック
ガシコンック、ガシコンック、ガシコンック

慌てて僕は笛を吹き、紐のついたその大ぶりな鐘を
5回も6回も鳴らしたのだ。

何せこれは快挙である。

やっとのことで形になったこの魚だが、
まだ一度も飛んだ試しなどなく、
エンジンだって一度もまともにかかったことがなかった。

お粗末でなりの大きなゴミにほぼ等しかったこいつの
真ん中に火が灯ったのである。

僕は全く今日はどうかして、空が落ちるのだろうかなどと
浮かれていた。

あとはジラーがうまいことやって、もしかしてもしかしたら
僕らは僕らのつくったこの魚で空を飛べるんじゃないか、
そう思えたのである。

そのときハントがこの機関室に飛んで入ってこう言ったのだ。
「ライアンさん、こいつは宙を浮いているよ、早くもういいから早くいこう、
上だよ、そうだよ、操縦室だよ。」
「そうか、こいつは宙に浮いているのか、早く上に、
操縦室に行かなくてはいけないね。」

案外上手くいきすぎて、何処からか僕の声がするようだった。
「おいおい、しっかりしてくれよう、うちの機関士様ときたら困ったもんだい。」
「上にそのボンベは要らないからね。そうです、そのあなたが抱えているそれですよ。」
「それから2番の蒸気弁が開いてるんじゃないですか。いつもはゲージとにらめっこ、
こっちを振り向きもしないのに。ほらほら急いでくださいよ。」

ようやく地に足をつけない歩き方の分かった僕は、
急いでボンベを片づけて2番のゲージを確認したのだが、
こいつが一体どうしたことか、完全にゲージを振り切っていた。
シリンダーはいい温度になっているのに蒸気を全く吐かないままで、
だからといって故障している気配もなかった。

どうなっているのか分からなかったが、
シリンダーの辺りが仄かに明るく見えたのだった。

ピィー、ピピピピッ
ガンガンガンガンガン
「まあだですかあ、ライアンさん」
初めて耳にするジラーからの合図に被せて、
焦れた声が聞こえた。
「そうだね、行くよ。」

何にもまとまらない中、二人で機関室を出て
操縦室へ向かうのだった。
その途中、
「一体どうして動いたのですかね、
私にも教えて下さいね。」
僕が聞きたいくらいだったが、無理に口にはしなかった。
  
  
  
  
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