宵明けの青空に -3- レース「グレイトフル・ジ・アース」







ギィィィリャン、ギィィィリャン
ダン、ダン、ダン、ダン
カッ、カッ、カッ

ズキュ、ズキュ
ガカカカ、ガカ、ガカカカ

上々かな。
くすんだ部屋で
使い回した空気を、
朝日待つ外界へ
返す時がやってきた。
僕らの神様のお出ましだ。

「ヒッポ、そっち開けて。」
「え、開けるの。」
「だって、出来た。」
「分かった、開けるよ。」

「「せいの、せいの。どっせいの。」」

たった一枚、宵明けを阻むトタンを大きく開くと、ジラーとハントが待っていた。

「やっぱりか、全く。」
「そう言うジラーだって、寝てやしないんじゃないか。」
「ビットばあちゃん程じゃないと思いますよ。」
「朝方から騒々しいと思ったら、また、あんたかい。」

「毎度ありがとうございます。」
「なんだい、この格好いいヘンテコりんは。」
「はい、フィッシュ・ジェット2号です。」
「名前なんて聞いてやしないよ。まったく、昨日から眠れやしない。作るのは日中に正しなさいね。」
「すみません。」

「そうです、寝付くのは夜でも起きてしまえば朝ですよ。うまくやってくださいね、ライアンさん。」

そうですね、ハントさん。
シェルターの隣にはビットばあちゃんが住んでいて、僕ときたら前の日からガチャガチャやっていたのだ。
不眠不休。脇目も振らず、レース「グレイトフル・ジ・アース」に出場するためにフィッシュ・ジェット2号の内部に手を加えていた。
今年の優勝候補はツナグループ社長が引っ提げるスーパーマシンロケシアン14号。
前々年度の覇者である、アカデメイの上級生、エリマ・ドラゴの院生コンビによるエアロクラフト8号が出場し、総勢40のグループが最速を競う。

そして僕らのライバルはスパロ・スワロ兄弟が手掛けるハイ・ホワイトシュプール12号。

「あれか、スパロ兄弟のニューマシンは。」
「ボブスレーみたいですね。」
「いつものあれじゃないか。」
「わああああ、って奴か。」

「そのわああああ、ですが。」
「スワロじゃないか。」
「今年の1位は俺たちで決まりですな。」
「相変わらずの強気だな。」
「ライアンは慎重過ぎるのよ。」

ひょっこりとアルバが顔を出して言う。

「それより、ライバルは大勢いるわよ。」
「ライアン達と競えるとはな。兄さんにも報告しておくよ、とりあえず、挨拶でした。」
「ありがとな、スワロ。」

このレースの主旨は分かりやすい。スタートから、ゴールまでにあらゆる手段を講じて1番のりを目指す。
もちろん、レースコースは用意されているが、僕らはほとんど利用できない。
スタートとゴールの位置によっては考えなくもないのだが、どうも直線で結べる位置にはない。

僕らのマシンはフィッシュ・ジェット2号。

1号が網に引っ掛かり、ペンギンが消失したので、2号になる。
ただ、今回はこれだけではない。
レースもそうだが、僕らは命懸けなのだ。

そろそろスタートだろうか。

それぞれがスタートに着いて、マシンが横一列に並んだ。

用意、始め。
スタートの白旗が挙がった。

「3、2、1、点火。」
物凄い勢いでロケシアン14号がレースコースをつんざいていって。

ガカガカ、ルイーン。
ズゴン。
「わああああ。」
スパロ・スワロ兄弟が乗ったマシンが大砲からぶっ飛んでいく、

そうしたら、
ツィーン、トュルルルルルルル。
ブォッフ、ブォッフ、フォーン。

エリマ・ドラゴのマシンがやや浮き上がり、滑るように走り出すのである。

そうして、ハントが旗を振った。
急いでマッチを擦って、
シリンダーに投げ入れる。
シュコン
手早く2番のシリンダーにふたをする。

ズドン
ズキュ、ズキュ
ガカガカ、ガカ
ガカガカ、ガカ、ガラン
ギュキャキャキャキャ、ガロガン
ズギャキャキャキャキャキャ、ガロガン
ズキュルドュルグン
ガシコンック、ガシコンック
ガシコンック、ガシコンック

笛を吹き、機関室の鐘を4回鳴らす。
ピィー
ガンガンガンガン

「ヒッポ、シリンダーの温度はどうだい。」
「ええとね、いい感じ。」
ピィー
ガン

操縦室から合図があった。

「ハントはちゃんと乗ったかな。」
「たまにあるけどね。」
「だよね、ちゃんと居るといいんだけど。」

たまにハントが乗り遅れる。
僕らのコース取りは、空を泳ぐ直線ルート。
けれど、火山を迂回しなければならない。
その辺、ロケシアン14号は分かりやすい。とにかく速く走るマシンなのだ。
スパロ兄弟は大砲でぶっ飛んでいったけれども、彼らはそこからマシンで走り出すのである。
エリマ・ドラゴのマシンはホバークラフトである。きっとあの後分離するのだろう。
自分のマシン、コース取りが一番速いと皆、信じているのである。
そうして大体がリタイアしていくのである。
フィッシュ・ジェット2号だって負けてはいない。何を隠そう最下位を独走中だが、一番注目を浴びている。
大体、空を泳ぐことが難しいからなのだ。

ブォッフ、ブォッフ滑るエリマ・ドラゴのマシンが分離を果たし、歓声が起きた。
2台のマシンが協力しながら、1位を目指すのである。

ほれ、来た。
僕らの魚の真ん中に火が灯り、地上から浮き始めた。
「浮いたぞ。」
「まるで、錬金術じゃないか。」
「あの張りぼてどうなってるんだ。」
そんな声が聞こえそうな位の大きな喝采が、瞬く間に魚に向けられていたのである。


「高度1950。」
ハントが報告を入れてきた。

「2500まで上昇。背骨を伸ばす。同時に翼を暖めよう。」
ジラーの指示で機関室に向かう。

ハンドルを回すと、魚の背骨がのびていき、大気を取り込む音がする。
エアロクラフト8号が、ちょいと先を行っている。
スパロ兄弟は、はっきりと見えないが上手く行っていれば、僕らのずっと先を行くだろう。
場合によってはスタート地点で黒焦げになっている、ということもある。
「ライアン、ヒーターを点けるから、離れて。」
「了解。」
抵抗線が赤熱するのが見える。

ピィー、
ガン。

機関室から合図を出し操縦室に戻る途中、
雲が増えたにも関わらず、空は眩しいくらいに光が漏れていた。
「読みづらい天気だな。」
ヒッポが答える。
「なかなかね。」

風が穏やかで良かった。
白いカーテンの合間を縫うようにして、
やらかい風の遥かに上空を僕らは飛んでいた。



  
  
  
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