宵明けの上空に -6- ざっくざくぎっくぎく

  





風の止まった部屋、影が涼しい。
ひんやりとした空気で僕はうっとりしていた。
言葉は言葉。
聞こえの違うこの空間で僕は古い時代の科学に思いを馳せていた。


「ヒッポ、ビームライト借りるよ。」
「ライアン、いつも通り言うけれどそのちっちゃいの大事にしてね。」
「はいはい。」
「聞いてよ、全く。」


どちらかと言えば今回はこのちっちゃいのに興味があった。
ヒッポの発見だから、文句は言えない。


だからこっそり繋いでみた。
1505年あの彼の見た魚の夢の先の、何らかのアプローチになりそうだったからだ。

さすれば、僕は緑色の本を取り出して、ヒッポに読んでもらった。

「何この本。」

「その本は歴史ある本でね、昔の科学について書いてあるんだと思う。」
「魚の夢と何が違うの。」

「今度はルボータン王国のドリームだよ、きっとそうだね。」
「ライアンはいつこの本を手に入れたの。」

「ジョンさんが地上に降りてきたあたりかな。」
「そう、買い物ね。」

「それで、どうするの。」

「ここに、ちっちゃい結晶体を買ってきたんだ。そっちにもある。」
「本によると結晶体同士で会話できるらしい。」
「そんなの直接話せばいいじゃない。」

「まあまあ、ビームライトをつけるよ。」
「はい。」


僕がしゃべると、ヒッポが答える。
結晶体からは何も聞こえない。

「ライアン、これって教会の奇跡の別解でも探っているのかい。」
「違うんだけど、何も起きないね。」


そうして、ヒッポが結晶体に触っしまった。

「ヒッポ、普通それ触るかね。」
「触っちゃったんだからしょうがないでしょ。」

「何だ何だ。」

ヒッポが繰り返す。

「ライアン待って、何か変。教会の奇跡が止まったみたい。」
「ビームライトを切るよ。」

僕はパチッと切ってしまった。

「ビームライト関係ないね。この結晶体が凄いみたい」
「僕も触ってみたんだけどな。」

気になってもう片方を触ってみた。


「あれ、元通りだ。何が変だったんだろう。」

僕は何となくヒッポの触っている結晶体にビームライトを当ててみた。

「おお、まただ。何かが終わってるね。」
「こんなことがあるとはね。」


「ヒッポ、次のページを見てくれ。」

「何々、針金で絵を描くの。コサージュっていうんじゃなかったっけ。」
「新しいんだか古いんだか分からない技術だな。」

「もっとめくっていいかな。」
「お好きなように。」

「ゴールドの作り方だって。鍋、でっかいの。新鮮なとんがり頭。真っ赤な瞳。」
「薬草、真水、牛のあばら骨。」
「これビーフシチューじゃないの。これを器に入れて、黄金の太陽に照らして50年だって。」
「そうすると、ゴールドができるっていうけど分からないから飛ばそう。」

ガラガラ バシン


「ライアン、ヒッポ、何作っているの。」

ジラーが歌いながらやってきた。

「私たちを呼ばないのはずるい。」

ハントも歌っている。


「ライアンがビームライトを貸してほしいいうからきたのさ。」
「そういうことです。」

「そうなんだ、って何ですかその本。ライアンさん。私にも貸してくれないとっておきじゃないですか。」


「そうだったっけ。」


「そうですよ、世界を歩くと足が痛い理由なんて珍しい本だと思ったのですよ。」
「その答えもビームライトだったよな。」

「ジラーはいつの間に読んだんだっけ。」
「手段は選ばないさ。」

「神の狙い通りだな。」


「ライアン撃ってみて。」
「じゃあ横向いて。」

「首、腰、足。どう。」

ヒッポがくいっと向きを変えた。

「何これ。こんなの研究したらあっという間に人がいなくなるよ。」
「昔の技術なのではないかな。」


バン 

ハントが僕の目の前で本を閉じた。

「ライアンさん、この本は私がいただきです。今回は私がお代を払います。」

「1200トラスでどうですか。」

1200トラスも何も僕らは賞金の日からお小遣い制でやっている。

「2000トラスはするから失くすなよ。」

「ほいな。」






山積みの技術の前に僕らは圧倒された。
魔法使いの夢が達成されそうな本も中にはあるかもしれない。
しかし、技術で説明がつくこの時代の在り様に感謝があった。
魚の夢を叶えて一息と思ったら、
僕らは目まぐるしい技術の中で魔法使いになる夢をみていた。