宵明けの大空に -5- 触って欲しくないの

  





分かるかい、ライアン君。
これで良いとは思わないかい。

硬いレンガを齧るなら、何処から齧ろうか。
私は半分食べ終えた気分だよ。
だからこそだね、そのもう半分に気安く触って欲しくはないんだ。
レンガはね、幾ら晴れても雨が晒しても硬いんだよ。

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

食べられるわけないだろう、だってあれ硬いんだもん。
分かるかい。

あと、半分あるんだ。けれど、誰にも取られたくないんだよ、それ。

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

「美味しそうですね。」

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

「そうですね、美味しいですよ。」

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

「本当のこと、言いましょうよ。」

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

「ビスケット、ですか。」

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

「ショートブレッド、でしたっけ。」

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

「まるで、砂を食むかのようですね。」

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

「レンガではないのですか、これは。」

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

しゃくしゃく、しゃくしゃく
しゃくしゃく、しゃくしゃく

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり

じゃりじゃり、じゃりじゃり
じゃりじゃり、じゃりじゃり


「あと半分でしたね。」

「ライアン君でいいのかい、本当に。ハント君の方がいいんじゃないの。」
「怒りますよ、何度も申し上げたでしょう。」
「ライアン君を言い訳に使ったことは謝ります。」
「しかしね、そのレンガはあと半分あるんですよ。」

「普通、怒りますよね。」
「あと半分ですよ。」

「なら、何故ライアン君は気付かない。」
「お味噌ですよ。」

「そこまで期待してねえよ。」
「会長。」

「ったく。ライアン君、ライアン君。ほどほどにしとけよ。」
「こちとら食われてなんぼだっつーの。」

「あら、みなさん。」
「ハント君も、ジラー君もほどほどだと思いますよ。」
「ってことはよ、気付いたんじゃねえか。」

「そうですよ、なめられるのは間違いだと思いますよ。」
「だろうに。」
「ったく。」
「だとしたらね、何でライアン君は帰って来ないんだい。おかしいね。」
「ダメダメじゃねえか。」

「まずいね、どうにも。」
「どうしようか。」


困ったな、あんなに辛い思いをしたのははじめてだと言うつもりだったのに。
あいつじゃなくて誰だっていうんだい。
けれど、ダメ。それにダメ。
あと半分も飲み込んでいたら、どうなっていたのだろうか。





「レンガで殴ったほうが早いんじゃねえか。」
「と思うんだけどよ、何でこっち推すのか分かるか。」
「それ、おもしれえからだよ。」

「俺も馬鹿だなと思うんだよ。けどなそれで疎かじゃいけねえんだよ。」
「だからよ、そのレンガゆーっくり食べろ、味わって食え。」

「もう食えないよ。」「もう食べれないよ。」
「で、どうするよ。」

「ソロモンさん、私はそれでもライアン君を推すのですが。」
「ラークさん、そのお気持ちは分かりますが、まず、洗い出してからでも良いでしょう。」
「桁が足りないのですよ。」
「確かに。」

「じゃあ、一言言っとけよ。ったく、「殴れ。」それだけだ。」