宵明けの青空に -10- 教会の思惑

  








王国は防戦一方になるだろう、問題は教会だ。
このアカデメイでも、教会の奇跡とやらは再現できない。
やはり、お前が正しかったのか。

ロップの説が正しければ、教会の奇跡とはオーパーツが関与しているであろう。
しかし、トンデモ話としか思えなかった。

ライアン君が空を飛んだ、これだけならば我々もまだ隠し通す気でいた。
だが、ジラー君、特にハント君。
守り切れるだろうか。

そして、迷った末に私はロップの説を彼らに託した。
早計だったかと思うこともある。
だが、かつての私には出来なかった選択をしたことに私は誇りを感じていた。


それよりもアカデメイの学生に勧告するべきか、否か。

「ウル総長先生。レオン先生の教え子、エリマ一同です。お呼びでしょうか。」
「よく来た、君たち。かけなさい。」
「この度は良くライアン君たちを守ってくれた。」
「お褒めに預かり光栄です。」

「そこで、私から君たちに話がある。」
「これから、教会とアカデメイは戦争になる。」
学生たちが息を飲んでいる。
「アカデメイは錬金術師の側につく、教会は虐げすぎたのだ。」

エリマが口を開く、
「総長先生、なぜ戦争を始めなければならないのですか。」
「こういう物事は静かに始まっているものだ、技術戦争は既に始まっている。」

「良く考えてみたまえ、ルボータン王国は契約と言って錬金術師からその科学技術を搾取している。」
「カブラークス王国のエデュケスは教会の介入を許さない、カブラークスに優秀な人材が流れるのは自明だ。」
「この状況で何故カブラークス王国が攻め入らないと思う。」

「アカデメイの技術力がなおエデュケスを上回っているからでしょうか。」
「買いかぶりすぎだ、その理由は教会にあるのだ。」
「分かりません、どういうことでしょうか。」
「教会の奇跡、聞いたことはないか。錬金術師たちの多くが苦しめられているそれだ。」
「まさか、教会に王国を越える力があるということですか。」

「そうだ、教会による支配があるのだよ。」
「君たちにはアカデメイの学生を先導してもらいたい。」
「何をすればよいのでしょうか。」

学生たちが困惑しているのが分かる。
少々込み入っている話だ、全てを話すことが出来ていないのに、
理解をしろという此方が間違っている。
「心配することはない、表立ってドンシャンする戦争ではないのだ。」
「君たちに行って欲しいことは、エデュケスに負けないアカデメイにして欲しい。」
「その為に必要なことを、自分たちで探し出せるかね。」

何かに気付いたようにしているが、分かっているのだろうか。
学生たちが答える。
「分かりました。」

「レオン先生、辺境の地ララレイにいる錬金術師スノーに連絡を取って頂きたい。」
「はい。」


「総長先生、王国からのお達しです。」
科学技術の正当利用を誓うルボータン王国では、
文明を維持するために、錬金術を禁ずる。
空を飛ぶことは錬金術である。よって、これを禁じている。
空を飛んだアカデメイの学生4名の身柄を引き渡すこと。

「総長先生、教会からの通告です。」
「何、通告。」
教会の奇跡と称した、攻撃行為の一切を否定する。
教会ではそのような行為は行っていない。
教会を貶める事を目的とする集団として、
アカデメイと教会に於ける取り決めを白紙に戻す。
そして、錬金術師の養成機関と名を改めることを要求する。

「何てざまだ。」

分かっていたことだが、教会がついに動き出した。
だから、私も黙っているわけにはいかなかった。
「諸君、ここに錬金術を解禁する。」
「アカデメイは錬金術を認める、錬金術師たちを迎え入れろ。」

「教会の旗を下げ、同意の旗も取り下げろ。」
「王国、アカデメイ、錬金術の旗を揚げよ。」

「総長先生、王国が錬金術を認めるとは思えませんが。」
「アカデメイはそう小さな組織ではない。」
「今、科学技術を失えば、ルボータン王国は消えてしまうだろう。」
「だが、1人の命も失うな。王国だけは絶対に敵に回してはならないぞ。」

「諸君、分かるかね。」
「我々は純粋に自然世界への愛を謳うべきだ、人の管理など要らんのだよ。」


血が流れるかもしれない、決断を下すことは非常に難しかった。
教会の思惑が外れることを祈りたい、
私は攻めに転じていた。