宵明けの大空に -13- 曇り空の日

  




曇り空の湿気が澱んだ空気に混じる。
窓を開ければ、美味しい空気の予定が大きく外れた。
ハッチさんの偽物を逃がしたままで良いわけない、
けれど、何が不自由とも思わなかった。

「なあ、ライアン。」

ジラーから口火を切るのは珍しい。

「俺はライアンに120トラス借りたんだよな。」

「ほにゃ。」

「ああ、いや忘れているんなら良いんだ。」

「そう。じゃあ、ジラーが120トラス返して。」

「いまはちょっと。」


嘘のない世界にはジラーが2人はいるんだと思う、
嘘つきなジラーと噓つきじゃないジラーだ。

けど、僕らは不幸なことに、偽物のハッチさんとすれ違った。
そのせいで僕はラーク先生にも偽物がいるのではないかと、悩んでいるのである。

「ジラー、ハントと会ってくる。」

「じゃあ、俺も行くわ。」

「よし。」


何にも良くないのだった。このジラーはライアンと居て楽しいのだ。
一方、僕ときたら、このジラーが偽物に見えて一緒に居ると、
間違っているを突きつけたくなる、何も面白くないだろうと。
これは、ジラーがジラーじゃないと思うからだ。


カランコン、カランコ

「ハントは、いるかな。」

「ほいな。」

古びた書物の空気が頭を整える、ハントの書籍屋敷には毎度助かる。
しかし、今日はちょっと呼吸が整わない。

「偽物のジラーが反省する方法を知りたいんだ。」
「え、俺はジラーだぞ。」
「そうじゃなくてさ。」

「ライアンさんなら、そういう事言い出すと思ってましたよ。」

よっといせっとのほいほい

隣の机にハントが移った。

「これなんかどうです、教会について。」

「それだと俺は小っちゃくなっちゃうな。」

「何だ、教会に行くのか。」

「違いますよ、用があるんですかの話ですよ。」

「無いよ。」

「ですよね。」

僕としたことが、ハントにやっつけられた気分だった。全く心当たりがない。

「レクリエーションの本なんてどうですか。」

「それなら幼いころによく読んだな。」

「何だそれは、楽しそうでいいな。」

「ジラーさんはちょっと疑われていてくださいね。」

「はいはい。」

「楽しそうにしていればいいのですよ。」

「それじゃ逆だろ。」

「今日のライアンは失礼だな。」

一瞬だった。
ハントがしらけたのを感じ取った、ジラーがいなくなる。
その危うさを感じたのである。

「分かった、教会についてとレクリエーションの本を借りよう。」

「仕方ないですね、200トラスです。」

「あいさ。」


「ジラー、読むぞ。帰ったらレクリエーションだ。」

「ふざけるな、俺は嫌だぞ。」

「ライアンさんは確定ですね。」




空が薄く晴れた。
重たい一日になりそうだった、ジラーのご機嫌をとるのが精一杯。
ご機嫌なんて空模様みたいなものだ。

しかし、僕の証明が何になるのだろうか。
反省していたら、まるで偽物みたいではないか。