宵明けの晴天に -3- イカフライ

  






アカデメイはだいたい探しつくしたんだけど、
どこに落ちているんだろう。

何の気なしに落ちているから、集めるのが結構大変なんだ。
これの凄さはいくらライアンでも分からないだろうな。
次は市場のほうへ行ってみるか。

「っと、でも何に使えるんだろう。」

本当に何に使えるのか分からなかった、
だから、この街中にいくらでも落ちている。
そして市場での価値はまるで、磨かれていない石と同じだった。

けれど分かっていたのは、
「どこにあるんだ。」ってこと。

落ちていてだれも見向きもしないから、僕にとっては願ったり叶ったりだけれども、
道、ほんとうに道に落ちているから驚きなんだ。

「ほら、あった。」
石に紛れていた、小さな豆粒大の硬い物体。
今日の僕は既に6個は見つけた。

いつものように、ごみ屋に行くことにした。
店主にも顔を覚えられてしまった、トラットさんと言うらしいけど。
あまり人相はよろしくない。
実はさっきのあれが稀にここで売っている。

ここに並んでいるものの多くはライアンたちの言うオーパーツなんだと僕は思う。
はっきり言って何だか良く分からない代物しかない。
トラットさんも多くを語らない人だ、良く分からない。

「おじさん、この小さいの全部ちょうだい。」
「4つか、10トラスだ。40トラスでいいよ。」
「どうも。」

さらに、4つ手に入れた。いつも袋に入れて管理している。
だいたい60個くらいかな。なんかいつもより重たいんだ。

「ぼっちゃん、それ集めてるのか。」
「い。」

「集めてるのか。」
「はい。」
トラットさんに声かけられて背筋が凍りそうな思いがした。

「発掘現場って知ってるか、そこのよ。発掘ごみってとこにそれいっぱいあるから、取って来いよ。」
「え。」
「ちょいと行ってみな。」
「はい。」

トラットさんって商売上手だと思う。
僕もほどほどにしておけば、あんなにでっかく勝負することことなかったのになと思う。

だいたい発掘現場なんて、
アカデメイのエリートが全部取り仕切ってるに決まってるのだ。
僕みたいな訳の分かってないやつが、何しに行くんだろう。

「何しにきたの、君。」
言わんこっちゃない、聞かれちゃったじゃないの。
「このあたりに発掘ごみがあると聞いたのですが。」
「あるけど。何、君どこの研究室。」

「いえ、研究室じゃなくて。」
「ん、どういうこと。」
「トラットさんから紹介されました。」
「君、許可証持ってるか。」

「いいえ。」
「なるほどね。トラットさんだっけ、ツナグループ関係者なんじゃないかな。通行許可証なら、関係者は出せるから。貰ってきたらどうかな。」
「ありがとうございます。」

ちなみにこれで一往復なんだ、僕は泣かないからね。
ライアンみたいにすっごいの作るんだ。
それにしても、しっかりと聞いておけば始めから通行許可証を持って行くことができたのかな。

「どうも、こんにちはトラットさん。ヒッポと申します。」
「ん、どうだったよ。発掘ごみ、あったろ。」
「いや、通行許可書が無いと駄目だそうで。」
「そうか、ぼっちゃんの集めているそれがあるはずだよ。行ってごらん。」
「え。」
「ま、発掘現場手前の角を右に折れたところだな。」
「はい。」

人の言うことを聞くというのは、滅法な僕は理屈に合わないとやたらつらいのだ。
どんなに人の良心が働いていたとしても、
分からないが多いと分かるが多い人に騙された気分になるのだ。
しかし、これ本当に大丈夫なのだろうか。

通行許可証もなく、発掘ごみのある場所へと向かう。
トラットさんの許可は貰ったけど、
こういう時の大人の調子の良さったらないのですよ。
なんだっけな、あれ。
ライアンのテスト点数が良かったんだっけな、あれ。

テストの点数が良かったからって、ビットばあちゃんからご褒美に買い物行ってきてと言われたんだよね。
そしたら、普段よりずっと大変なおつかいだったってライアンが言ってた。
ライアンが文句を言ったら、ビットばあちゃんはこう言ったんだって。
「そんなこと言ったかしらね、ほら早く買い物に行ってきて。」
どえらい話聞いちまったな、そう思ったよ。
ああ、怖い怖い。

で、どうするんだろう。
こういうときはとりあえず行くんだ。

しかし、凄いところについてしまった。
「発掘ごみ置き場をとりあえず見つけたけど。」


「何だこれ、凄い。」
ちっこいそれに何やら金属線が付いていたのである。
この金属線2本をくっ付けてみたくなってしまったのだ。

パチーン

「うわわわわわ。」
何これ。

胸の高鳴りと、周りに誰かいないかどうかの警戒が止まらない。
30秒あっただろうか、
冷静に考えられるまで自分では待ったつもりだった。

そして、一度手に持ってしまったそれを置いて、
どうしたら、それを手に入れることができるかを考えた。

「交渉して来よう。」

距離にして、2度目の往復。
発掘現場に戻ったのだった。

「すみませーん、すみませーん。」
「何だい、君か。通行許可証でもあるのかい。」
「実はトラットさんから話を受けて、発掘現場に行ってきたのですけど。」
「はい。」

袋から一個だけ取り出して前にいる研究者に見せる。
「これと同じきれいな色した奴があったのですが一個分けては貰えませんか。」
「んん、その粒々なら沢山あっただろ。何に使うんだ。」
「実はちょっとだけですが、集めているのです。この色合いが良いですよね。」
「その集積所になら幾分あるだろ、トラットって奴に聞いてくるんだな。」

そして、僕ときたら負けずにごみ屋へ向かったのである。
「トラットさん、ありましたよ。たくさん、たくさんありました。」
「君か、そうかそうか。で、どうだった発掘現場は。」
「凄いですね、何だか。言葉には出来ないです。」
「そうか、もう一度行ってくると良い。今度はこれを持って行くと良い。」

すると、トラットさんはあの小っちゃいのが10個ほど入ったセットみたいなそれを手渡してくれました。
「いやいや、受け取れませんよ。」
「いや、君あてじゃないんだ。向こうにいる研究者に渡してきな。」
「いや。」

強制的に渡されてしまったが、よくよく考えると、まあそんなもんだった。
とりあえず、発掘ごみ置き場に行くことに決めたのだった。
そこで、一つ勝負に出ることにした。
さっきの金属線の出たそれを取って、セットみたいなのに混ぜたのだ。

「よし、勝負だ。」

発掘現場の研究者のいるところに行ったのである。
「すみませーん、すみませーん。」
「何だ。」
「トラットさんに言われて、発掘ごみからあなた宛てに持ってくるように言われたのですが。」
「はいはい、何それ。さっきのね。どこから持ってきたの。」
「トラットさんに言われて、発掘ごみから持ってきました。」
「んん、トラットさんって誰よ。」

「ごみ屋のトラットさんです。」
「んんんん、ああ、そうね。で、それが何。」
「トラットさんがあなた宛てに持ってくるよう言ったのです。」
「はあ。」
「そんな話ありましたか。」
「無いよ。」
「すみません、間違えました。」
「きみきみ、もう来ないで。」

「はい。」

後は、トラットさんに10個セットを返せば良いのだろうか。
ぞくぞくする。
「すみません。」
「ん、なんだいぼっちゃん行ってきたのかい。」
「行って来ました。」
「それで。」
「研究者の方には受け取ってもらえませんでした。」
「何だと。」
「なので、返しに来ました。」
「ったく、使えないな。」
「そうそう、ぼっちゃん。店を閉めるから、もう来ないでくれな。」

「はい。」


泣きたかった、今日ほど人を信じるのが困難な日があるだろうか。
しかし、手に入れてしまったのだ。パチーンを。
これはライアンのフィッシュ・ジェットに負けてないと思った。


秋の空深くにも泣いた。
こんなに笑顔のない道を、何故でたらめに進むのか。
人々が笑うと嬉しくなるが、
あなたは何故楽しくなさそうなの。なぞ、斬り刻んで候。

雨嵐の中を突き進む魚、
良識と見聞に助けられたなんて言われたくない。
ライアン、羨ましいよ。
あの青い青い空は僕だって大好きだから。