宵明けの碧空に -2- 光るイワシ

  



潜水艇はもくもくと海中を進んでいた。
巨大な人工ピラミッド。
パワーの象徴、辺りはからから。
山は三角屋根が続いている。

そして、僕は今しがた、海底に光を見つけた。
この喜びをなんとしようか、空と海の違いが分からないようになって。
つまりは恐ろしくて、哀しくて、そして今までが何だかやりきれなくて、
それは喜びに似ていて、

どうして良いのか分からなかったのである。

さて、どうしたものだろう。
さっきから首を捻ってばかりのジラーに聞いてみる。

「さっきのイカを捕まえるのか。」

スノーさんが言う。
「それより場所でしょ。」

しかし、イカが危ないと聞いてはイカが気になる。しかし、場所だって重要な問題だった。
「ジラー、イカより場所じゃないか。」

ジラーが首をかしげて言う。
「ごめんな、正直話について行けてないんだ。みんな、何に困っているんだ。」
「そうだね、ちょっと話が早すぎない。僕も難しくて分からないよ。」

ハントが潜望鏡を覗きながら言ってのける。
「先程、ライアンさんたちはゲームに興じていましたよね。そのとき、みんながみんなずるっこしていませんでしたか。」

各々、言い分があるようで。
「え。」
「いや、それは違うんだハント、俺は袖の下に一枚カードが隠れてしまっただけで。」
「あたしはコマを1つ取り間違えたのよ。」

「そうだね、僕は間違えて取られてしまった。」
「僕はそのせいでルールの順番が変わってコマを取られちゃった。」
「おいらは取られたんじゃないやい、取ったんじゃい。」

ハントが話を続ける。
「では質問です、ジラーさんは誰が怪しいと思いましたか。」
「ライアンだな。」
「僕もライアンだったね。」
「私もライアンだったのよ。」

何故か他も答える、それだけ疑っていたよのアピールなのだろう。何もないのに。
大体、みんなのコマの在り処は僕が示したようなものなのだが。

「それではライアンさんは誰が怪しいと思いましたか。」
何でそれを聞くかな、ハントは。
安易に犯人探しなんてして間違ってしまったら困るだろう、答える僕も僕だけれど。

「ロップじいちゃんかな。」
「何じゃい、犯人探しかいな。」
「え、本当にライアンじゃないの。」

「嘘だろ。」
「そうじゃないのです。みなさんはライアンさんを見ていて、ライアンさんはロップじいちゃんを見ていたのです。」

ヒッポが続けて、疑問そうに言う。
「じゃあ、ロップじいちゃんは誰を見てたの。」
「そういうことじゃないんですよう。つまり、誰かのイカサマを暴くために誰かがタコサマになっているのです。」

「ということはタコサマを暴くためにクラゲ様が居てもおかしくはないのですよ。」
「あまり、言いたくないんだけど。それとでーっかいイカに関係があるの。」

ヒッポもイカと認識したらしい、おそらくちゃんと確認もなくイカが居るのだと認識したのだろう。
「ヒッポ、潜望鏡は覗いたか。」
「え、覗いてない。まだいるのかな。」
「さすがにいないだろうな。」
「でーっかいイカが居たんじゃないの。」
「え、ちょっと待ってハントちゃん。イカよね、イカが居たのよね。」

分かってた。僕もちゃんとこの目で確認して光り方を見たのだが。
残念なことに、何であるかは分からなかった。
「ハント、魚じゃないのか。」
「そうですね、私もよくよく考えたのですが、魚かどうかは分からないのです。」

「そうね、だったらイカよ。やっと分かったわ。」
「なんほどな、イカの先はタコか。」

「なるほど、だから大変なのか。」

確認ができたところでもう一度振り返る。
僕らがいるのは海中、そしてでーっかいイカを発見した。
そして、目的は宝探しということ。

僕らのスタートがどこだったかは分からないが、
彼らは海に守られている。

僕らと彼らのスタートの違いからすると、
宇宙に飛び出して喜んだ僕らは、

この地球への理解を考えると、些か勿体ないことで。
地球に着陸することを考えれば、

「先駆者がいる」
そう考えるのが妥当だった。

「そうだな、話しかけてみたらどうだろう。」
「そうですね、私たちの先輩かもしれませんからね。」
「でも、一体どうやって話すんだ。」
「何じゃい、ごまでもするんかいな。」

潜望鏡の先では何故か、泡がもくもく上がっていた。
沸々と湧いている。その泡は私は生きている、そんな主張しているかのようだった。

「そこなのです。交渉とはそういうものなのです。」
「だから、どうやって話すのさ。」

「ライアンちゃん、何か方法あるの。」
「ちょっと待っててくださいね。ハントはビームライトだ。」
「ほいな。何に使うんです。」

海中を観察する、でーっかいイカはやっぱりいない。
ん、何か見つけた。
小魚の群れだ、あれはイワシか。

「ハント、まだスイッチはオフだ。」
イワシと名付けた小魚の群れを観察する。

光っている。そして泳いでいる。
そこに少々大きめの魚がやってきた。

バババババッ
イワシがその瞬間ものすごい速さで泳ぎ出した。

全員が全員だから素晴らしい。
この連携は何処からくるのだろう。

目玉はまん丸で常に見開いている。
耳なのだろうか。

「トロイアさん、何か聞こえますか。」
「ん、僕らには聞こえないねえ。どうだいハントちゃん。」
「んん、これは違いそうですね。ライアンさん。」

「ジラー、メモしてくれ。彼らは驚かせると物凄い速さで逃げる。一体となってな。」
「ん、ライアン。さっきの話だと彼らの見ているものが重要なんだよな。」
「確かに。」
「ちょっと待ってください、お二人さん。そうすると、話しかけないほうが良さそうじゃありませんか。」

「確かにそうね、そのイワシちゃんに話しかけるのは良くないわね。」
「イワシちゃんにも迷惑かもしれませんね。どうしますか。」

「そうだね、ハント。ビームライトはしまってくれ。しかし、先代文明がいるとするならば挨拶をした方が良い気がする。」
「でないと逆に危ないよね。」
「じゃあ、イワシがいるってどういうことよ。」

「それ、まずいね。僕の出番かな。」
「同じ様なことをしてどうするのよ、挨拶になってないわよ。」

ハントがぬけぬけと言ってのけたのである。
「分かったのです。挨拶をすれば良いのですよ。」

「イワシに挨拶をするのか。」
「そうね、それでいいのよ。」
「でも、イワシにとってはいい迷惑じゃない。」

「そうですね、もしかして。これは大変ですか。もう嫌ですよう。」
めずらしく、ハントが後になって気付いたところで、
僕らは逆に気付いたのである。
「ああ、これは駄目だ。地上に戻ろう。」

「でないと、また戦争ね。」

海の中には見張り役が居て、彼らは身を光らせていた。
彼らに手を振ってもきっと分からない、
そして、その先にも伝わらないだろう。
けれども、彼らの見張る何かを越えたとき、

それは挙動を変えるだろう、
きっとこの世界。いや、それだけでなくあの世界を守るために。