宵明けの大空に -12- 鉢合わせ

  



「こんにちは、ランプの修理はいかがですか。」

ランプ、修理。いらんね。

「君、どんな人。ランプの修理できるのね。」

「私の名前はハッチと申します。」

奇遇なことに、私の名前もハッチだ。

「そうかい、ランプは売っていないのかね。」

「ああ、それならありますよ。」
「軒先のランプは規格外ですから、替えてもらわなければなりません。」
「こちらで発注しますから、どの色にしますか。」

変な奴だランプの修理も発注なのではないか。
誰の何が仕事なのだか分からない奴だ。
私も他人事ではないけれど、これでは私の仕事にも差し障っている。
言いたくはないが、偽物め。

「軒先のランプは良いんだよ、正しいランプが欲しくてね。」
「君は発注出来るみたいだから、是非ともランプを見せて欲しいね。」

「それは発注してからのお楽しみでございますから、発注でよろしいですか。」

「君、商品紹介もなく見積もりなんて話はないよ。」
「私が頼みたいランプとは軒先のランプなのだよ。」

「だから見積もりを取りますから。」

「よく見てごらん王国基準と書いてある、この印に間違いはない。」
「だがね、たかだか一件の発注だ、このランプに代わるものなどないのだよ。」

「いやいや、王国基準ですかい、それは王国の法律によると。20万トラスでどうです。」

「君の仕事を邪魔するつもりはないんだが、私も仕事柄、発注する身分でありましてね。」

偽物か、やれやれだ。

「発注して必ず商品が届くわけではないだろう。」

「そうですか。」

「つまり、前金では困る、君が補償金をつけなさい。」

「何ですかそれ。」

「君が払うんだ、約束通り商品が入れば私は君に金を払う。」

「ふざけるな、何故売る側が金を払うんだ。」

「君が商品を売るためさ、君の仕事の邪魔はしない。」

「買うのですか、買わないでしょ。やめなさいよ。」

狙いは我がハッチの名前を貶めることか、私の仕事の邪魔だな。でも食えてなさそうだ。

「買ってやるから、私の言うことをよくお聞き、そのランプは2000トラスだ。」
「ランプが暗いのは街の治安に関わる大問題だ、よく気付いたね。」
「君が発注して1000トラスの儲け。合計3000トラスだ。置いてゆきなさい。」

「何故売る側が金を置くと言うのです。」
「えー、国の法律の定めるところにより、売り買いとは。」
「売る側が提供し、買う側が感謝を渡すとあります。売る側がお金を出すなんて、おかしいのですよ。」

「違うのだよ私の感謝はランプが来てからだ、ランプが来る前にランプが来るまで私が待っていてあげると言っているんだ。」

「何、ややこしいこと言ってるんだ。」

信用がないと言ってるのだが、伝わらない。
第一、狙いが詐欺だ20万トラスはもって行き過ぎだ、見過ごせん。


「待ってくれ、明るいランプは必要だ。君は明るいランプを調達できるのか聞かれているんだ。」
「出来ますとも、この私が発注すれば良質なランプが届きます。」



コンコンコン

「ハッチさんいますか。」

「誰。」
「なになに。」

「ライアンと申します、近所なもので。ランプの代わりを見てもらいに来ました。」

「はい。」

てやんでえ、予感の方がでかいなんて最低でしょう。
何や、嫌や。

「ハッチさん、見せてもらいましょう。」

「いや、これとそれは別件ですよ。」

「おおおう、いたいたハッチさん。こんなランプで良いですかね。」

「何これ。」

「ああ、違うのですよ。発注しないとランプにはなりません。」

「何それ。」

「だから、光ればいいんですよね、これなら明るいし。基準もクリアですよね。」

「なあ、お前ら分かってるか。」

「だから、駄目なの。基準をクリアしたランプを発注する以外の解決はいけないの。こちらが商売なんです。」

「私がハッチだ。」

「いやいや、あなたはハッチさんじゃない。」

「そうですよ私がハッチです。」

「馬鹿言うな、誰の家だと思っているんだ。ハッチ・アゥストラダ・ワンの家はここだ。」

「ハッチさんはハッチさんじゃない。あなたがハッチさんですか。」

「ライアンさんと言いましたね、ハッチに用があるのですか、それもこのランプ男に用があるのですか。」

「ランプ男って、そうですが。」

「やい、ランプ男、黙ってりゃハッチの名前を堂々騙りくさる。同じ名前なんてあるわけない。」

「これにて、失敬。」

ここでランプ男を逃がしたくないのよ、けどこのライアンちゃんって誰。
面倒くさいよ。

「待ちなさい、ランプ男。正しい発注が出来るのかね。」

「いやもう、いいんですわ。あなたたちには売りません。それでは。」

「あなたはハッチさんではないのか。」

「ふん。」

「そしてライアンとやら、お前は何の用です。」

「これは失礼を。」

「正しいランプとは作ればよいというものではない。」

「いくらそのあなたのランプが正しくとも、あなたのせいにしかならないよ。やめておきなさい。」

「そうですか。」

「私はそう思う、ライアンさんはどう思うのです。」

丸く収まりそうだ、そう思っていた。

「ライアン、ハッチさんってこっちの人じゃないみたいだ。」
「何しているんだジラーにハント。」

「何かですよ、お出かけするのにつれないななんて思ってますよ。」

ジラー、ハント。誰。

「20万トラスを断ったと思ったら、ライアンさんのランプが煤けたのですよ。」
「ライアンがケチって安く済ませようと磨いたんだよな。」

「ははあ、買っときな。何処の品ぞろえでもいいでしょう。」

「しかし、王国が」

「馬鹿。」
「20万トラスも取られてどうするの、磨いて新しいランプですとでも言っておきなさい。」

「「「なるほど。」」」




鈍い風に悶々とした空気が家を襲った。
これだから、若い奴は。
けれど、奥ゆかしさだった。
けど駄目だ。王国が理由なんて虚ろも甚だしい。

怒られるのは好かない。
しかし、間違っているかどうかはっきりしない悩みなんて良くない。

「変だ。」優等生のジレンマにしては、とっておきではあるが。
目の敵である。