宵明けの碧空に -10- ご飯を食べるということ

  







「この自然世界において、自分がどう生きるかが鍵だとは思いませんか。」
「何を言ってるんだい、何の影響も与えられないくせに。」
「だとしたら、尚更です。僕という存在を自覚せずに何ができましょう。」
「ちゃんと話を聞いていないようだね。」
「話を聞いていない、そうではありません。事実、ここに集まっている人々は影響を受けていると考えられます。」

「ぬ、そんな。君自身何ができるというんだい。」
「先生こそ話を聞いていましたか、僕という存在を自覚し、どう生きるか、それによってこの世界は回っていくと言っているのです。」
「嘘だ。」
「何を言いますか、執着のループはいずれ衰退を迎えます。」

「ラークさん、この世界のために生きているのですね。」
「そうだ。一体、君たちは何度言わせるんだ。」
「ならば、ラークさんは何故愛を信じない。」
「私は計算したんだ、その結果7000人が最適だと、気付いたんだ。そうすれば世界は回るとね。」

「しかし、衰退する。」
「ライアン。ループの中は長く持つ、エネルギーは他所から調達すればよいだろう。」
「何を言ってるんだ。」
「調達された先はどうなるのです。」
「衰退するに決まっているだろう。」

「僕はお断りです、その調子でこの星に感謝できるとは思えない。」
「星に感謝する。皆に感謝することもできないその愛で何ができるというんだい。」
「私はみんなのことを考えて、この星が、この世界が長く続くよう願っているのだよ。この私が感謝できないなんて言わせない。」
「おかしい、おかしい、おかしいです。先生。」
「この世界のみんなの為を考える、そんなことできるわけない。」
「じゃあ、感謝はできないっていうのかい。」

「違う、感謝の気持ちを忘れてはいけないんだ。」
「じゃあ、何故君は世界のみんなのことを思えないんだい。」

「私たちは、分かり合えないんだ。だから、毎回そのために涙を流し、悔しがり、何でなんだと言う。そして生きる。その為に、戦ってしまうことだってあるんだ。」
「この人達と分かり合うために押し合い圧し合い、そして今は無理だと争いを避けるのも僕らなのです。」

「何だい、人を避けていいっていうのかい。」
「もちろんです。」
「言いわけねえだろ。」

「争いを避ける道を選んではいけないというのか。」
「それじゃいつまで経ってもわかりあえないだろうが。」
「そうじゃない、衝突していいことがあるわけない、にっちもさっちもいかない状況だってある。そんな状況でずっと争いをしていたらどうなると思うんだ。」
「そんなの簡単じゃないか。」
「馬鹿じゃないのかお前は、何を言うつもりだったんだ。殺し合いになってしまうんだぞ。」

「それを選ぶのも僕らなんだろ。」
「それを選んではいけないから言っているのです。」

「じゃあ、何を選ぶっていうんだい。」
「僕らは同族なのです、殺すということは殺されるということです。」

「同族なわけないだろ。」
「今はそうです、でも人類として、いずれ分かり合う。それはこの星に感謝しているから。違いますか。」
「いいや、分かり合えないね。この星の全てに今すぐ感謝すべきだよ。」
「それでは、この星のすべてが殺し合いを始めるのと変わりません。」

「本当かな、そんなことになっているのかい。なっていないだろうが。」
「嘘を吐くな。」
「どっちが。」

「この星で全てが分かり合っている、としたら、我々は殺し合いをしているということになるのでしょうか。」
「君の理論から言えばそうだ。」

「ならば、選ぶ必要があるのでしょう。」
「何をだい。」

「我々がいま、分かり合わないという道を選ぶことです。」
「道を違えるということだ。」
「何を寝言を言っているんだ、我々はこの地球に感謝するという同じ共通目的を持っているに決まってるじゃないか。」


「だから、道を違えると言っているんだ。分からないのかこの頓珍漢、この場で道を違えたのは君だ、分かっているんだろうな。」
「しかしですね、あなた方の選んだ道というのはみんなのことを思う道ではないですか。」
「じゃあ、君は一体何だっていうんだい。」

「だから、僕は「選ぶ」と何度も申し上げているのです。」
「何を選ぶ。」
「泣いたり笑ったり、引いたり争ったり、動いたり動かなかったりを一つ一つ生きるのです。」

「馬鹿なことをそんなに意識して生きられるわけないだろ。」
「随分、不満を抱えていらっしゃるようですね。」

「何を言う私は幸せなんだ。」
「ではなぜ、この世界に存在している自分と、自分の想像する自分が一致していないのです。」

「分かった。もういい。」

「待ってください。」
「何だ、もういいと言っただろう。ああああああああああああ、7000人でいいわけないだろう。」

「しかしね、君。この世界をどうするつもりなんだい。その愛とやらで。」
「愛なら、みな納得がいきます。」

「馬鹿たれ、それではいかん。いいわけがないだろう、そんな無責任なこと許すわけない。」
「私、ラークは世界の責任者だぞ。」

「しかし、先生。この世界は、この文明はこの星は絶対いつか滅びるような儚いものだと思います。」
「滅びる、何の話。」

「あるものが無かったことになる話です。」
「あるものがない。そんな話は聞いていないのだよ。」

「で、何が言いたいわけ。」
「この星の文明維持において、皆が分担出来ていた時代は終わりを告げる、つまり、変遷しなければならないということです。」

「そうしちゃ文明は衰退する、愛によってな。」
「それであれば、7000人以外はロボットでいい。本当にその文明は高度と言えるのでしょうか。」
「極端だな。」
「しかし、君ね。滅びない文明は存在する。この文明。しかもここ。何故なら、執着だったからだ。分かるか、このスカ。」

「随分、ポンコツなことを言いますね、この星以外に生命体でも見つけましたか、どうなんです。」
「生命体、ないよ。あるわけないだろ。無理なの、行きたいなら行けば、火星なんてどうよ。」

「どういうことです。」
「わかるだろ、教科書なんて嘘っぱちだ。」