ばいばい、僕らの星 -1- 焼きプリンの再販売

  










「いらっしゃいませ、はい。」

「チョコレートケーキを1ホールですね、はい、かしこまりました。」
「えっ!?店内でお召し上がりですか? はい、少々お待ち下さい。」

「んー、お母さんまだかな。…いいもん、自分でケーキ買っちゃうんだから。
すみません、苺のショートケーキ1ホール下さい。」

「待ちたまえ、君が買うのはこの青いカットケーキだ。」
「ひぇ!?」
「イチゴのショートケーキはキャンセルで頼む、それから、この青のムースケーキを全部と焼きプリンを追加だ。」
「ちょっと待って下さい、何ですかいきなり。誰ですかあなたは。」

「失礼した。私は押井雷(おしいかみなり)、ちょっと君には訳があって
このケーキを注文してもらわなければならない。お代は私が払う。」

「いや、あのですね・・・」
「早く、僕が言ったように注文するんだ。でないと所有者が移ってしまう。」
「ええ…?はあ・・・、もう。」

「苺のショートケーキはキャンセルでお願いします、それから
青いムースケーキ全部となんでしたっけ?」

「はい?申しわけございません、うまく聞き取れませんでしたので
もう一度お願いします。」
「え?あ、はい。」「まずい!!焼きプリンだ!焼きプリン!!」

「苺のショートケーキはキャンセルでお願いします、それから
青いムースケーキ全部と焼きプリンを下さい。」

「イチゴのショートケーキのキャンセルと青いムースケーキ全部のご注文を承りました。
ですが、大変申し訳ございません。焼きプリンに関しましては現在、権利が移っております。」

「え、権利?注文って私の番じゃないの?」

「ああああああ…、何てことだ、私はしくじった、しくじってしまった…。
この地球上で最も責任の深いミスをたった今犯したのだ…。ああ、ああ、ああ。」

「…っ、ちょっと大の大人がプリン一個でそんな、もう恥ずかしいから
泣かないでよ…、ああ、もうどうしよう知らない人だし、私の食べたいケーキは注文してないし!」

「ああああああ、ツキがないんだ、ツキがない・・・、もう地球は…
「もう…、どうなってんのよこの人…。
…仕方ないなぁ、焼きプリンは次いつ頃焼きあがりますか?
予約を取りたいのですが。」
「はい・・・?、えーと予約でございますか?
予約であれば、10秒後に所有権を再度販売します。」

「所有権って、むー、どうなってんのよもう。」
「何いっ!!?再販売だと!!

ははっ!!ふははははは!! 私の勝ちだ!!
お嬢さん!私に代わってその焼きプリンを注文してくれたまえ!!!
私は守った、守り切ったのだ!さぁお嬢さん、早く注文してくれたまえ!!!
ふはははははははは!!」
「だあああああ。もう、あなたの為に注文するから黙っててよ!
その焼きプリンもお願いします!」
「ご注文承りました。7000万Eとなります。」

「はぁ!?」

「うむ。」
「何か、もう訳分からないわ…。」

「お嬢さんよ感謝する。」
「こちらが権利書になります。
えー、定型的になってしまいますが、
他人への権利の譲渡は法律違反になりますのでご注意ください。」

「な、何だと…、と、とりあえず、君が受け取ってくれ。」
「…何このパズルみたいなの。嫌よ。
受け取らないわよ…。」
「はい、本権利の権利者は喉山長閑さんとなっており、
押井雷さんが代理人となっております。
権利辞退により代理人へと引き継ぐためには、お手続きが必要となります。」


これが始まりだった。結局のところ私はケーキは買えなくて。
そして、宇宙クラスのお馬さんに出会った日、忘れることはない18の誕生日。


「のどか君といったな、ありがとう。
おかげで私は助かった。ところで、その権利書は8年間有効だ。

そこでその権利書を8年後まで預かってもらうわけにはいかないだろうか。」
「どうして、あなたが持っていけばいいじゃない。ほら。」

「おうおうおうおう、そんなことをしたら余計な税金がかかってしまうじゃないか。
だが、君が望む位のお礼は何でもできる。さあ、言ってみてくれ!!」
「じゃあ、付きまとわないでいただけますか?」

「ぐう…、は、8年後だ、8年後。忘れるなよ。」
「もう冗談はいいですから、このパズルみたいなの持って早く家に帰ってください。
ゆっくり寝た方がいいですよ。この際はっきりいいますけど、迷惑です。」
「改めて地球の全ての生命体に代わってお礼を言おう。
ありがとう。だから、僕の言い分も聞いてく、
はっ、太陽が値下がりしている!まずい!!
君!権利書は預けたからな!!頼んだぞ!!」

「持って帰ってくださいよ!!ちょっと!ねぇ!
なによもう・・・、こんなのもってたらケーキ買えないじゃない。
お母さんも遅くなるっていうし。
踏んだり蹴ったりね・・・、私こそ家で大人しくしてようかしら。」


このときはまだ気付かなかったけれど、
後になってこの権利書が星の権利書だとわかったの。
それにしても、パズルのピースをちゃんととっておいて正解だった。
その理由は単純に青色のピースが特に綺麗だったからなのだけれど。
それから、しばらくお馬さんには会うことはなかった。
けれど、その間もあの人は懸命に戦っていたのかもしれない。


「地球にブラックホールが近づいているとのことですが、どういうことなのでしょうか?」
「いえ、正確には地球ではなく太陽系に近づいているのではないかということです。」

「それは太陽系を飲み込むということでいいのですか?」
「はい、我々の見込みでは太陽に向かっているのではないかと思われ、巻き込まれることもありうるでしょう。」
「私たちにできることはありますか?いえ、それよりも私たちの生活はどうなるのでしょう?」

「いやー、もしそうなったらどうにもならないとしか言いようがありません。
前向きな話としてはブラックホールについて知る絶好のチャンスですね。」
「ピッ」

あの時と同じような訳のわからなさと寒気がしたので
私はテレビを消した。
だいたいブラックホールってなんなのよ。
「ピーンポーン」
「はい。」

「・・・ごめんください。」
「…、あなたですか。あのパズルお返ししますので、受け取ったら帰ってください。」

「えと、私こういうものです。」
何やら名刺をカメラに押し付けている・・・。
「不要な星買います…、
1級スターディーラー 押井 雷」
「度々で申しわけない。だからこそ、君には全てを話そう。
私たちの太陽が買われてしまった。私と一緒に取り戻してほしい。」

「…、何ですか。どういうことですか?」
「月と地球を売りに出して、太陽を買い戻す。そのために、私は冥王星を売りに出す。
もちろん、買い手はこちらで何とか見つける。月と地球は何があってもその冥王星分を足して買い戻す。
だから…、どうか私に協力してほしい。」

「はぁ…、良く分かりませんが、何かあなたがそのスターディーラーであるっていう
証拠みたいなものってあるのですか?」


「今日の夕方5時ちょうどに、冥王星に向けて出発する。その際に私のコスモモペッドに乗って行く、
それが証拠となるだろう。
また、迎えにここへ来る、権利書を持ち、動きやすい格好で、玄関で待っていて欲しい。
頼む。地球人の存亡が関わっているのだ。」


何だか変なのに巻き込まれたもしくは、変なのと関わってしまったのに気がついた。
いや、逃れられそうにないということに気付いたのだった。
そして17時から遅れること15分

「待たせたな。」
「15分遅れです、地球の存亡を引き合いに出しておいてあなたはなんて人なんですか。」

「ふっ、遅刻に苛立つなんて、君はかわいいところがあるな。
ま、これから君は宇宙規模の仕事を目の当たりにすることになる。
気がせいてしまうのも仕方ないだろう。」

「どれだけ、高飛車なのよ…。
だいたいスクーターじゃ、宇宙規模の仕事なんて無理よ。」
「ピコリ」

すると、大きなまな板のついたスクーターはホバリングを始めたのだった。
「早く乗ってくれ、時間が押している」

「あー、、、、あー、、、、すごいですねえー、ほんとに、、、本当にそうなんですか、、
あー、、、あぁぁぁぁぁぁ、、、、、、、、、、あはは、ちょっと待って下さい。
・・・・挨拶してきます。」


私は意を決すると、玄関を駆け抜け自分の部屋にある机のうえにある
適当なノートの白いページを開き、「いつもありがとう、いってきます。」と
書きなぐった。
何だか、何が正しいのか、もう分からなかった。玄関を開けるとかみなりさんはもうコスモモペッドに
のっていたのだった。


「急いでくれ、レイン・ガール。」
「え、雨なんか降ってないですよ。」
「これから降るから言っているんだ。
トイレは済ませたか?」
「セクハラですか?」
「何を言っているんだこれから宇宙だぞ、トイレなんかない。
行かなくていいなら早く乗ってくれたまえ。」
「ま、待ってください。トイレ行ってきます。」

「…。
5分後

女の子は時間がかかることもある…。分かっていたさ。
…雨が降ってきたか。本当に雨女だとは。」

15分後
「余計なこと言わなきゃよかったな。」
「おまたせしました。」
「君は一番上っこかな…?」
「はい、そうです。」
「15分か…、おあいこということにしよう。
乗ってくれ、レイト・ガール」
コスモモペッドのパワーウィンドウが閉まった。