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喉山長閑さん、自立の世に生きる -1- あなたの隣に座るなら
調った雑誌、何も入ってなさそうな引き出し。
無造作感を演出して座卓に置かれたミニカー。
両手がトレイで埋まっている。
気が利いたシュガートーストは左に、らしくないオレンジジュースは右上に。
手前にあるのは、誰かが書いたポエムの入ったクーポン券。
「最新号、開けたくない。赤いレスキュー車。」
シュガートーストはどうよ。
「熱いうちに食べるのが吉ってとこ。」
見つけたのは誰かが真隣にならないよう、ひとつおきに座席を確保した人々の後ろ姿。
これは、チェスか。
「いえ、挟み将棋よ。」
二つ席の二つ席が空いている場所に座る。
それと同時に飾られた雑誌の表紙がすっ、と持っていかれた。
風が吹いた気がした。
あの引き出しはごみ箱だったのかも、ミニカーは子どもの落とし物かな。
急に頭が冴えたのだった。
「なんだかな、分かっちゃったな。」
誰かを動かそうとするから、いけない。
雑誌を手に取った人のお陰で風が吹いた。
窓際の特等席とは、遠くかけ離れている。
私はかなしくなった。
シュガートーストを大きく頬張った。
「ぬう、美味しい。」
出掛けよう、こんなところ碌に成らない。
ご馳走さま。
トレイを片付けて、私は出掛けることにした。
オレンジジュースを片手に持っている。
青空ばかりが目に入る、夏の空。
自分を信じた私は飛び出した。
空調の効いた、疎らな商店街の喫茶店は私の居場所ではない。
そう、気付いたから。
「けれど、何をしようか。」
ちょっとそこいらをふらっとね、しません。
「何だか、な。」