宵明けの大空に -3- 外されたラーク先生、始まっていた7000人体制

  








ジラーと、ラーク先生が論戦をしている。
傍目で見てなかなかに熱いけれど、内容が些末だ。

「おーいジラー、聞こえるか。」

「なんだい、落第にされたいのかい。」
「そんなことを言う人はラーク先生ではないです、落第なんてレオン先生が許しませんよ。」
「分かってますか、私はアカデメイ随一の優等生ジラーですよ。」
「そうだね、ライアン君に比べたらマシだよ、君に何ができるというんだい。」

「ライアンと比べないでくださいませんか、ライアンにはライアンのできることがあるのです。」
「何があるっていうんだい。」
「お取込み中失礼いたします、ライアンです。ジラー、ちょっと待て。」

そして、僕はハントに言った「嘘を見破る装置」なるものを取り出した。
「ラーク先生、ライアンです。それでは行きますよ。」
「何をするんだい。」

「先生はご存じですか、これは木星装置と言います。」

そうして僕は何の変哲もない、水槽みたいなガラスケースを取り出して、
中に水を入れて見せたのだ。

もちろん、中はたぷたぷと揺れている。
「ライアン、何。これ。」

ジラーが白い目で一生懸命こっちを見ている。
「お前ね。」
「待て。」

それから僕は、中に一匹のベタを入れたのだ。
「何に気付いたんだい。」
「この木星装置、欲しくはありませんか。」

ジラーが何だかジト目でこっちを見ている。
「地球人でこの木星装置を知っている人は、まず、いないでしょう。」
「これがどうかしたのかい。」
「地球人は地球に生きています、そして、その地上。つまり外に生きているのです。」

ジラーがなるほどという顔をした。
「ではこのベタは如何でしょう。」
「つまり、内側に生きているとでも言いたいのかい。」
「これは、木星のミニチュア版です、この技術が欲しかったのではありませんか。」

「そうだよ、一体どういう技術なんだい。」
「この木星装置の中ではベタが生きることができる、そういう装置です。」
「つまり、生命保持装置かい。」

「一体どういうことなんだ、ライアン。」
「ハントからラーク先生と戦っていると聞いて飛んできたんだ。」
「何で。」
「だいたい、ラーク先生は悪くないで結論付いたはずだったんだ。」
「だけど、ラーク先生が俺様にも喧嘩を売ってきたんだぞ。」

「つまりだな、ラーク先生の目的は達成されてないからジラーに喧嘩を売っているんだ。という可能性から始まっているんだ。」
「ふむふむ。」
「ジラーにはあの装置どう見える。」
「あれって、あの木星装置か。」
「そう。」
「水槽だろ。」
「そうだ、あれは水槽だ。」

「で。」
「それに木星装置でもあるんだ。」
「何でさ。」
「分かるかな。」

「どういうことなんだ、ライアン。」
「では、結論から。ラーク先生ってあんな感じだっけ。」
「いや、違うだろ。けど、なんでだよ。」
「ラーク先生はあんな感じではないよ。けれどジラーが言ってくれているのは、何故ここまで私たちが惑う必要があったのかだろう。」

「それは、あれがラーク先生じゃないのに、ラーク先生として認識されるからなんだ。」
「じゃあ、元のラーク先生はどこへ行ったんだ。」
「そんなの僕らに分かるわけないだろ、もう生きていることを願うのみだね、それこそ君に何ができるんだいだよ。」
「はあ、いいのかよ。」
「分かってるだろうよ、ジラーだって。 な に が で き る ん だ、 ぼ く ら に。」
「だってよ。」
「じゃあ、お前はラーク先生の何なのだ。」
「いや。じゃあ、あれ何。」
「ラーク先生。」
「何でさ。」
「ラーク先生としての要件を満たしたのがあのラーク先生だ、まったく心臓に悪い。」

ジラーが何だか慌てている。
「だとしたら、あれラーク先生だろ。」
「じゃあ、何でラーク先生らしくないんだ。」

「「ラーク先生じゃない。」」


「お前、あのラーク先生のどこがラーク先生としての要件満たしてるんだよ。」
「だってさ、なんか似ているじゃん。」
「似てないだろ。」
「何逃げてるんだよ、お前まさか悪口言ったりしてないだろうな。」

「なにいつまでもほざいているのです。」
「ハント、分かるかこの悩み。」
「もう分かりましたよ。」

「私の番です、行きますよ。」
「聞くのです、ラークさん。」
「何か用かい。」

「木星装置をどうするのです。」
「どうするって、君には関係ないだろう。」
「やはり。」
「スノーさんには会いましたか。」
「君には関係ない。」

「では、地球装置をご存知ですか。」
「一体、何だいそれは。」
「これです。」

そう言って、ハントはスコップを取り出した。
「木星人は内側に生きています。つまり、地球人はこうやって外側に生きるのです。」
ハントがこつこつと地面を軽く掘っている。

「どこだい、ここは。」
「地球です、木星と言えばよいですか。」
「なるほど、ありがとう。」
「馬鹿、木星じゃないここは地球。」

「!」
「ライアンさん!」
「ジラー!早くしろ!」

「7000人体制かバッカ野郎!、ラークを外してなお実行かザッケンナ!」
「だからロボット化ビームが飛んでいるのですね。もう嫌なのです!」
「俺もう自信ないわ、もう助けてくれよライアン!」


7000人体制が既に始まっているとは思わなかった。
しかし、その実態としてルボータン王国の上層部は既にロボット化しているのではないだろうか。
つまり、執着になってしまったのか。

ラーク先生が優しくみえたような気がした日、
面影のなくなった先生たち、この悲しみをどうしてくれよう。
まっさらに怒ってはみたものの、
続くものが何にもない怒りに根拠のない反駁。
こみ上げたのはやるせなさだった。