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宵明けの青空に -1- 飛びたがりのさかな4
ペンギンの設計は図面通りだった、そして、魚のエンジンと全く同じ構造、仕組みを持っていた。
そう、あの光るシリンダー以外は一緒だったのである。
そのとき外から歓声が上がった。
僕らが出ていくとガレージの外はまばゆい光が覆い、影が逃げ場を失くす程であった。
機関室で見た光と同じ光がそこにあったのだ。
そこで僕らは理解した。
シリンダーの中にあった何かが今奪われたのだろう。
「これは困ったことになったぞ、取り返すことはできるのだろうか。」
「この光は何ですか。」
知らないだろうジョンが聞いてくる。
「これは機関室の光か。」
ジラーも同じように僕に聞いてきた。
「実は魚のエンジンがかかったとき2番のシリンダーはこんな光を発していたんだ。
そして、この光の正体は僕も知らない。だが、この光があった時にゲージは振り切ったままで、
排気をすることはなかったんだ。」
「エンジンを動かすにはあの光が必要ということですか。」
そのときアルバがこういうのだった。
「あの光は星の実じゃないかしら、でも星の実がエンジンを動かすのに必要だとは思えないわ。」
てっきり星の実は食べ物とばかり思っていた僕はアルバに聞き直した。
「星の実とは食べ物ではなかったのか。」
「食べ物よ。でも私たちにとってはどうかしら。いずれにしても、エンジンに関係するとは思えないわ。
けれど、なぜ地上のお兄さん方のそれも魚のシリンダーに入っていたのか、興味深いわ。」
「あれを食べる訳にはいかないな、ハント。」
良く分からなくなって僕はハントに話を振ってごまかしたのだった。
頭を整理した僕らは、星の実で2番のシリンダーを塞ぐと、
エンジンが動き出すかもしれないという、釈然としない答えに行き着いていた。
僕らの魚は相変わらず取り囲まれている。
地上にジョンのペンギンで帰ることができたら。
だが、そんな厚かましい願いもジョンなら聞いてくれそうな気がしたのだった。
ただ、僕にはアルバの話が引っ掛かってしょうがなかった。
僕は設計図通りに作れば魚は動くと思っていた。ジョンだってそうだ、
設計図通りに作れば鳥は動くと思っていたのだ。
しかし、星の実が必要だった。だが、アルバはその星の実を否定する。
僕だってそうだ。それでも、あれは光っていて今の僕らでは分からない何らかの効果を
生み出しているのではないだろうか。そう考えると、それ以上は何も考えられないのである。
しばらくして僕は図面と向き合うことにした。
今度はただ追うのではなく、星の実で2番のシリンダーが塞がった場合を考えて。
ようやく行き着いた僕は、ジョンに一つの提案をした。
「2番のシリンダーを塞いでほしいのです。」
「星の実の予備があったのですか。」
「そうではないのです、ただ、2番を塞いだときと塞がないときでは蒸気の通りが違うのです。」
「確かにそうですが、星の実がないのにどうするのです。」
そのとき、アルバがガレージに降りてきてこう言ったのだった。
「決して外に出ないでください、魚を囲んでいた人々がみなさんを探しています。」
「どういうことですか、アルバ。」
「宇宙へと向かう星の実をもっと手に入れようと、魚をばらしてさらに皆さんを探しているのです。」
どうにもまずいことになったのだった、ここにも長居出来なくなってしまったのである。
しばしの沈黙のあと、ジョンはこう言うのだった。
「私が足止めをしてきましょう。ライアンさん、ペンギンは任せましたよ。それからアルバ、
旅の支度をしてきなさい。」
何を言う間もなくジョンはスタスタとガレージを後にしてしまった。
アルバも別の部屋に消えてしまい、僕らだけがガレージにが残されてしまった。
「ぼやっとしてる暇はないだろうよ。」
「そうだったね。」
僕らはペンギンのそれぞれの部屋に入ると、笛を鳴らしたのだった。
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