中国に有りそうで、やっぱり有るのは何か。それは腐敗現象だろう 官吏の汚職である。中国の伝統や、断片的な情報からも、相当多そうだということは分かる。中国では反腐敗闘争と言うキャンペーンがあって、腐敗に関するニュースは人民日報に載っている。それで、中国に居るからには、この国の特長(?)とも言える、役人の汚職、腐敗に付いて調べてみたほうがいいのではないかと考えた。また中国の腐敗現象は、日本とどう違うのか調べてみる気になった。見てみて、余りの事件の多さとに驚いた。やっぱり腐敗現象は「今の中国」と言うテーマに相応しいようである。

  人民日報を調べ出した矢先に新しい汚職のニュースに出くわした(2000・8・9)。中国政府のお膝元の
北京交通局の副局長である「比玉璽」が、賄賂を貰った疑いで逮捕されたと言うニュースである。新聞報道によれば貰った賄賂は6000万元。なんと約10億円。捜査では家で1000万元(1億4千万円)が見つかったらしい。首都公路開発副総経理・金徳民も逮捕された。こちらも収賄の疑いである。道路建設の利権に関する汚職だろう。

  まずその腐敗に関する事件の凄さであるが、1997年10月から2002年9月までの5年間で、全国紀律検査監査機関が立件した件数は86万余件。党の処分を受けた人は84万人余。党を除名された人、約14万人。刑事事件になった人3万8千人。その中で地方幹部約3万人。局級幹部2422人。省級の幹部98人である。この98人が高官と呼ばれる地位の人物であるらしい。注意していただきたいのは、紀律検査監査機関と言う処で、ここは共産党党員を対象に処分を検討する処らしい。役人はすなわち共産党員であるから、実質的には処分を受けた役人の数ということになる。これを見ればいかに腐敗した役人がいるかと言うことが分かる。同時にいかに腐敗した共産党員が多いかということも分かる。

  この5年間での大物幹部は、
   
○全国人大常委会副委員長・成克傑(死刑執行)
   ○江西省副省長・胡長清(死刑執行)、
   ○公安部副部長・李紀周(死刑判決、執行猶予)、
   ○沈陽市市長・慕緩新(死刑判決、執行猶予)
   ○福建省委副書記・石兆彬
   ○税関総署副署長・王楽毅
   ○广西壮族自治区人民政府常務副主席・劉知炳

  またこの時期に世間を震駭させた事件は、湛江と厦門の税関を巻き込んだ特大密輸事件であった。厦門の密輸事件では、犯罪を取り締まる側の公安部副部長・李紀周もがたっぷり賄賂を貰っていたのである。しかもこの人は全国密輸事件打撃取締りグループ長であったのに。

  そして去年の10人の腐敗高官とは
  
 ○山東省政協副主席工商連会長・潘広田
     (山東省第一の汚職官)
   ○遼寧省高級人民法院院長・田鳳岐
     (知識犯罪の典型)
   ○河北省委員会常務委員、常務副省長・叢福?
     (腐敗のタイプ;信仰に頼った)
   ○雲南省委員会副書記、省長・李嘉廷
     (腐敗のタイプ;妻子に引きずられた)
   ○貴州省委員会書記、省人大常任委員会主任・劉方仁
     (ワイロをむさぼる好色奸)
   ○浙江省副省長、省国際信託投資公司董事長・王鐘麓
     (腐敗のタイプ;晩節を汚した。退職後に逮捕)
   ○河北省委員会書記、省人大常任委員会主任・提維高
     (腐敗のタイプ;独断専行型、相手に報復を加える)
   ○国土資源部部長・田鳳山
     (草の根官吏から国土の大管理人になった問題部長)
   ○安徽省副省長・王懐忠(死刑執行)
   ○遼寧省副省長・劉克田


         いやぁー凄い。

  この腐敗現象と言うのはどんな事をするのか。その典型的なものが売官という行為で、つい最近の新聞(2004・8・4)にも建国以来の最大の売官事件が起訴されたと出ていた。
黒龍江省の綏化市の市委員会書記・馬徳であるが、直轄する10の市、県の上級幹部50人を巻き込んだ事件で、56万元と5万カドルを受け取って、幹部の抜擢や移動に便宜を図った疑いで起訴された。不思議なことに起訴されたのは北京においてであった。

  しかし、この見出しはオーバーかもしれない。金額で言えば 1700万円くらいで、建国以来最大と言うのはおかしい。この男は10年間も売官をビジネスにしていたと言うくらいだから、実際にはもっと大金を受け取っていたのかもしれないが、こんな程度の金額では中国一になれない。もっと凄い金額の売官事件が沢山有る。実例は以前書いた日記の中の、「反腐敗闘争」の中に売官の例が有るので、読んでいただきたい。こんな売官事件が新聞を見ると直ぐ見つかると言う事は、売官事件の数も凄いということになる。

  賄賂を貰って売官をすることは、分かり易い犯罪と言ってもいい。しかし中国の腐敗現象を売官で、代表するのは方手落ちである。大事件になる腐敗現象とは、もっと複雑でスケールが大きくて、大きな腐敗集団を作るのが特徴である。それが実際にどんなものであるか、最近の人民日報に「中国腐敗分子新動向」という一文が載っていた。これを見始めたら、最近の別の大物の事件がまた載っていた。これを羅列するとまたウンザリするかもしれないが、先にそれを羅列してみる。

    
 ○黒龍江省の人事庁の党書記・劉洪彦
       (収賂と財産来源不明罪により15年 賄賂390万元)
     ○黒龍江省の政治協商会議の主席・韓桂芝
       (収賂した金額は2000万元(2億7000万円))
     ○江蘇省の組織部部長・徐国健
       (中央紀律検査委員会で審議中)
     ○遼寧省錦州市某法院院長・憑某、法官沙某
       (商工部門と銀行銀行員が組んで行った犯罪)
     ○中共重慶市宣伝部部長・張宋海、 
       (300万元の賄賂と、生活の腐敗化が問題になっている)
     ○雲南省の宣伝部部長・柴王群
     ○江西省検察院検査長・丁金発
     ○湖南省の高級人民法院院長・呉振漢
     ○湖南省常徳市委員会書記・彭晋庸


  腐敗に関わった人物の部門と役職を見ていただきたい。人事部門、行政の中心である省委員会、宣伝部、果ては人民法院、検察院、公安局まである。全てが役人であって、共産党党員が殆どである。国土資源部部長なんて人も居るが、土地は国のものと言われている中国で、こんな人に国土の管理を任せたら、濡れ手に粟のようなものだろう。もっと驚くのは取り締まる側の人民法院、検察院、公安局までもが腐敗行為に参加してることである。いやぁー凄い。ご立派と言うか?

  それで中国の腐敗分子の特徴であるが、利益既得集団を形成して不正な利益を得るのが特徴らしい。何を利用して不正な利益を得るかと言うと、土地の使用権利、違法な大量の貸付金の利用、国家の重点の建設プロジェクトを請け負って不正に利益を獲る。課税を違法に減免して見返りに利益を得る、株を買い占める、密輸をして利益を得る、等である。いずれにしても国からの利権や土地や金などを、利益既得集団を形成して、利益を山分けするのである。中国の伝統的腐敗、売官とは違って、こっちのほうが大掛かりで新しい手法なのだろう。

  又、不正蓄財を隠す為にいろいろな手を考える。例えば、利益を直ぐに自分のものとはせず、後で利益を得る方法を考える。甚しくは退職後に利益を得ると言う方法もある。これによって悪事を隠蔽できる。また、中国のこの種の犯罪の特徴としては、子供、妻共々腐敗に関与している場合が非常に多い。自分の妻や子供に、自分の権利を利用して金儲けをさせたり、違法であっても庇護して、自分の代わりに利益を得させることが多い。家族を外国に出国させたり、親類を定住させたりして、不正蓄財を外国に移すこともやる。それと共に自分も逃げる道も作っておく。

  実際に幹部が子弟を外国に留学させるケースはとても多い。全てが金を外国に移すための準備と言うわけでもないだろうが、幹部の子弟の留学は異常に多いのである。そして汚職も家族ぐるみというのが中国には多い。さすがに家族主義の国中国である。雲南省省長・李嘉廷の場合は、子供の留学の費用の面倒を見てもらったのがきっかけだったらしい。役人の子供の留学の面倒を見るということで、迂回したワイロを、隠したつもりらしい。

  又、汚い金をクリーニングして、尚且つその金を増やすと言う方法もある。不法な方法で溜めた金であっても、次のステップでは、合法的に、又は違法で有っても権力の保護下で、更に金を増やす。自分の会社を通じて国外に投資したり、逆に国外から中国へ投資した形にして、蓄財したものを合法的なものに変えていく。

  このような目的の為に、不正を行おうとするものは個別的な腐敗から、ネットワーク化、グループ化、システム化を計って生き延びようとする。グループ化と言っても、極めて土着的、地方的なものもある。地方保護主義という名の元に地方の役人が甘い蜜を吸いあう為にグループを作ることもある。例えば、三年前にこの日記で、「ドラマになりそうな話」として、鉱山の水没事故の事を書いた。しかし事件は意外な方向に進展した。

  この事故で、県長であったか県の書記であったが死刑になってしまった。事故の責任を問われたのではなく、実は鉱山と県幹部の腐敗、癒着が明らかになってしまって死刑になったのである。違法な鉱山の採掘を、莫大な賄賂の見返りとして許していた。また、この県長だったかが自ら主導して、事故を隠したのである。県長にはこの事故がばれたら、自分は死刑になるかもしれないと言う予感があったかもしれない。この事故は80人もが死亡した事故でありながら、公安も、鉱山監督局も腐敗グループの一員だったので、この事故を隠せると思ったのかもしれない。

  先に書いた建国以来最大の売官事件の、黒龍江省・綏化市の市委員会書記・馬徳であるが、起訴された金額、53万元と5万ドルでは、建国以来の売官としてはおかしいと書いた。案の定、私の予想は当たっていた。その後の記事には、入院中の一週間で240万元も懐に入れていたと書かれていた。さらに、彼一人が悪玉なのではない。先に挙げた国土資源部部長・田鳳山や、黒龍江省の政治協商主席・韓桂芝も関係があり、
綏化市の市長・王慎義でさえも、2000年の三ヶ月間で10人から200万元余の賄賂を受け取ったのだとか。一連の売官事件に関わった官吏は、265名と言われている。売官買官の一大グループを形成していて、大きな賄賂の狩場が広がっていたらしい。

  しかし一番悪いのは馬徳であって、選挙で選ばれたある県の県委員会書記でさえも、半年で首が飛んでしまったのだとか。噂では馬徳書記に貢ぎ物をしなかったからだろうと言われている。下の者は戦々恐々であったらしい。馬徳書記が入院したという連絡が入ろうものなら、早速、現金をもってお見舞いに行かなければならかったのだとか。それであるときの一週間の入院で、240万元も稼いだそうである。

  この馬徳書記は十年間も売り官を生業としていたと言うのに、長い間、問題にならなかったのが不思議である。人民日報の投書欄にもあったが、何故、上司、紀律委員会、検察機関が気がつかなかったのかと書いてあった。書かれている事実からみてもかなりおおっぴらにやっていた様である。それなのに誰も気が付かない。いや、気がつかないのではなくて、自ら中国の悪習に参加していた? 馬徳書記は官位を売ったが、彼も誰かから官位を買った可能性も有る。誰が売ったのだろう。そのように悪の連鎖が連綿と続いたに違いない。それで今では撲滅されたのだろうか?

  更に不可解なことに、この裁判は黒龍江省から遠く離れた北京で行うよう指定された。現地での裁判では公正な裁判は出来ないと判断されたのだろう。検察官や裁判官も売官買官された可能性があるのかもしれない。中国の法官と言うの地方に属していて、行政とは独立していない。こう言う所に、普通の庶民が訴えたとすると、公正な裁判が期待できるのだろうか?

  そして私は、いろいろ調べているうちに、別の事件で裁判官と弁護士が実際につるんでいる例も見つけてしまった。この例では裁判官の給料が安いので、弁護士に貢がせていたらしい。始めの方に書いた例でも、検察や公安の高官が、盛んに腐敗に参加している。

  一番大きい腐敗、違法な利権の源泉は土地、建設に関するものではないだろうか。本来は国のものである土地の周りに、腐敗が発生し易いことは容易に想像できる。中国では開発区、または土地の再開発のトラブルは非常に多い。つい最近もこんな奇妙なニュースがあった。福建省のある県の委員会書記が、ある土地の再開発に関わる腐敗事件を調べ出したら、脅迫されるはめになった。命の危険を感じて新聞社に手紙を出して助けを求めた。

  実はこの「黄・金高」書記は、6年間も防弾チョッキを着て通勤にしているのだとか。脅迫は今回が始めてではないのだそうである。4年前に福州豚事件と言うのがあって、福州市の財委保衛処長が殴り殺された。当時福州市には違法な豚の屠殺場があって、それを調べていた財委保衛処の処長が、恨みを受けて殺されたのである。違法な豚の屠殺場は、暴力団のような組織が運営していて、その組織は警察部門の保護下にもあった。この「黄金高」書記はその当時、財委保衛処の主任をしていて、何回も脅迫を受けたそうである。

  「黄金高」書記が、問題になっている土地の再開発を調べたところでは、官と商が結託して大変な国有財産(約一億円)が流失してしまったのだとか。お代官様と悪徳商人のような関係が有るらしい。「黄金高」書記としては自分の職責としても、民衆の利益の為にも、これを何とかしなければと思って調べた。しかし、"官場"には"潜規則"というのがあって、これを一人では打破できないので、新聞に助けを求めた。しかしどうも孤立無援らしい。前の事件からも警察さえも頼りにならないことは分かってる。

  この地方では、お代官様と悪徳商人が組めば何でもでできてしまうのだろう。自分達で問題を解決できる能力は無いらしい。この記事の中では、警察に頼んで問題を解決してもらうなんて発想は全く無い。

  前出の河北省委員会書記・提維高の場合は、告発者を冤罪で陥れて、罪人にしてしまった。石家庄建委工程処処長が提維高を告発したのは1995年8月であるが、提維高の返り討ちに合い、1996年春には幹部誹謗罪で二年の労働改造所行きになってしまった。この人物に救いの手が伸びたのはやっと1999年になってのことで、お代官様と悪徳商人のドラマと同じ様に、水戸黄門様が登場したからである。中央から三講巡視組という組織が河北省に巡回してきたからのことらしい。これは中央政府の監察的な部門かもしれない。それにしても正義が行われるまで、ずい分時間が掛かるものである。告発者が省の検察院に告発状なども送っても、なぜか届いていなかったのだそうである。検察院にも内通者が居るのか、提維高の権力を恐れたからなのか。今、告発者は反腐敗の英雄などと言われているからいいようなものの、もし水戸黄門様が登場しなかったら、どうなったのだろう。

  河北省の事件は、お代官様と悪徳商人の関係に似ていて、確かに水戸黄門様も登場したのだが、江戸時代の武士と商人は、身分間の移動がなかった。しかし中国の場合、官と商の関係は、官が商の立場にもなりえるのでる。官僚がお手盛りの別会社を作り、そこに天下りすることが可能なのである。中国の場合、元はと言えば、役人または共産党という身内なのである。河北省の事件は、提維高書記の家族や秘書、秘書から会社に移った(下海した)人物も加えて、河北省に一大勢力を誇ったのである。それによって莫大な国の財産を掠め取った。

  福建省の黄金高書記(こっちの書記は善人)の地方にも、黄書記の言う"官場"の"潜規則"とワイロと人間関係による、お役人の強固な腐敗のネットワークがあるのだろう。福建省の方では、暴力を使った実績があるから恐ろしい。黄金高書記の覚悟は悲壮なもので、「既に流血の犠牲になる準備は出来ている」とも言っている。新聞記者はもっと恐ろしい事を黄書記に聞いていた。「今は保衛に守られているからいいけれど、退職したらどうするのだ」と。今回の場合も中央から黄門様が現れるのだろうか。果たして黄書記は安泰に老後を暮らせるのだろうか。黄金高書記が不正をマスコミに訴えたのも分かる。河北省の場合、省内では問題が握り潰されていたのだから。

  中国はあまりの共産党員の腐敗の多さに、今年、「中国共産党紀律処分条例」と、「中国共産党党内監督条例」を作った。また、不正蓄財による財産を国外に移したり、国外に逃げたりする例が多いので、今度は政府幹部や国有企業の幹部の、国外の家族についても管理しようとしている。国外の拠点になる留学や家族の居場所を管理して、逃亡の拠点を潰そうと言うわけである。つまりは中国では汚職、腐敗、不正に家族で参加するのである。

  これらの一つ一つにいて日本と比較してみると、日本では有り得ることだろうか、有り得ないだろう。

中国に有りそうで、やっぱり有るもの・官吏の汚職