ドラマになりそうな話
(8月17日)

  中国では7月に立て続けに大事故が起きた。中国でもあまりにも大きな事故なので事故に名前が付いた。

  7月16日に起きた事件は、陜西横山"7・16特大爆炸事故"と呼ばれるもので、隠しておいて爆薬が爆発した事件で70名が死亡。

  7月17日にはで、広西南丹"7・17"特大透水事故"と言われる事故が起きて最新のニュースでは81名が死亡したらしい。しかし1ヶ月以上経った今でも詳細は不明。鉱山の坑道への浸水事故である。

  7月22日の事故は、徐州市の"7・22"特大井下爆炸事故と言われて、92人死亡。炭坑のガス爆発らしい。

  8月に入っても、上海の造船所大型クレーンが倒れたり、川辺の建物が崩れたり、バスが河に落ちて大勢の人が水死したりして大事故が続いている。

  これらの事故は、日本で報道されているだろうか。あまりに事故が多いのであきれてニュースにもならないのかもしれない。これらの事故のうち、广西南丹7・17特大透水事故はとても奇妙な事故であった。まるで社会派ドラマのようである。

  この事故は、広西壮族自治区で起こった事故で、南丹県の鉱山の浸水事故であった。中央から遠く離れた、極めて貧しい辺境で起きた事故である。この事故は地方政府ぐるみで隠蔽されていて、80人以上の人が亡くなったにもかかわらず半月以上も外部に漏れなかった。 

  この事故が北京の新聞に初めて載ってのは、8月5日の日曜日ではないかと思うが、その前の7月27日に、新聞社に匿名の電話によって200名が死んだと伝わり、記者が350キロの道を夜の23時に出発したのだとか。翌日には広西省の地元の新聞記者も取材に来たが、鉱山のボスの否定の中では確証が取れなかった。数々の怪しい点や噂はあった。しかし地域ぐるみの隠蔽で、誰も事実を話さない。そして7月31日にこのことがインタンターネットのニュースに載った。これは人民網のニュースで、事故は27日に起きて、死者は200人とのことであった。事実とは違うが"人民網"のニュースが早かったようである。しか新華社の記者が確信が得られたのは、8月2日の晩のことで、坑内は水浸しで死者は72人。死者の家族に5万元から10万元を渡して、口止めをしたのが判ったからである。

  普通こんな大きな事故であれば、地元の警察や、役所の知るところとなるはずであるが、この地区は極めて貧しい所で、予算の殆どが鉱山からの税金、寄付とかに頼っている所らしく、鉱山が無ければ地方の経済が成り立たないような所らしい。それで、鉱山のボスと地方の役人とが釣るんでいるので、話しを合わせれば何でも出来てしまうところらしい。事件の真相を隠すことも可能なのである。

  実際にこの事件の調査途中で判ったことは、去年の10月にも、200人が死亡した事件を、38人と報告して済ませたとか。秘密の保持には、金だけではなくて、暴力もあるらしく、私設の警備隊みたいなものもあって、1997年までは、銃器を持っていたとか。まるで西部劇の悪徳牧場主、いやコロンビアの秘密麻薬製造基地のようなところかもしれない。勿論生産物は違法のものではなく正当な錫などの金属で、豊富な資源に恵まれていて、莫大な利益が出るらしい。この官僚と老板(ボス)の結託によってで出来た社会を"黒社会"とか"黒悪勢力"と言っているが、役人側は汚職まみれになっているのだとか。

  鉱内は灼熱(40度以上)の地獄のような悪環境で、通風などの設備や、安全措置なども極めてお粗末で、坑道も勝手に掘り進むらしい。地方の独立政府のようなものだから何でも出来てしまう。これを中国では地方保護主義と言っている。続いて7月22日の起こった徐州の事故も地方保護主義によって起きた事件である。違法な炭坑でありながら、地方の利益の為に黙認されていたものである。この事故によって違法炭坑の存在が中央政府の知るところとなり、急遽爆破によって炭坑が潰された。ここでは92人が死亡。

  私の考えでは、今回の記者による報道はピューリッツァ賞(報道関係者に与えれるアメリカの賞)に相当するものだと思う。インターネットで更に判ったことは、省の調査団が四回も調べに来たのに、いずれも何も無かったとの報告を書いたとか。土地カンの無い記者でも判ったことが、どうして土地の専門家の役人に判らなかったのかと、皮肉っぽく書かれていた。

  今回の事故の報道が特徴的なことは、最初にこの事故を明らかにしたのはマスコミの調査の結果であること。そして最初のニュースはインターネネットに流れたこと。一番詳しいニュースはインターネットであったこと。中央政府までもが、インターネットのニュースが頼りであったっこと。新華社の記者は中央政府までニュースを逐一報告した。これに反してテレビのなどの従来のメデアは積極的に報道していない。またこのインターネットのニュースは"新浪網"というページで流されたのであるが、そしてこのページの掲示板には様々な庶民の声が載った。

  中国の中央テレビはあまりこのニュースを伝えていなが、これは私が中国のテレビをよく見ていないせいかと思ったがそうではない。インターネットの投書欄のなかには、「わが国の中央テレビは外国の車両事故や爆発事故で、数人が死んでも報道するのに、わが国で続いて起こる事故に付いては、何故声を出さないのか、テレビは人民のサービスの為のものではないのか」と書かれていた。

  最近のインターネットでは結構、庶民の本音を言う様になったのかもしない。他にも中央テレビに対する批判は結構あった。扇情的な金儲けや"婚外恋的ドラマ"ばかりを流しているとの批判もあった。広西壮族自治区の地元のテレビでニュースになったのは、ようやく8月7日のことで、@地方の幹部はこの事件を十分重視している。A現地の状況は安定しているとのニュースであったらしい。これに対して、何でこれが重視していることになるのかとの意見が書かれていた。

  掲示板の意見は日本人も言いそうな意見で、同感できるものが多かった。

○憤怒! 憤怒! 憤怒! 憤怒!…・  
○これは中国の悲劇だ。これを変えなければまた悲劇が起きる…・・
○官と商が結託して、南丹成K社会了、責任者は殺すべきである。そうしなければ庶民は満足しない.…・・
○中国では人間が多すぎる。何万人死のうとも関係無い、鉱山のボスと官僚にとっては人間は金儲けの道具に過ぎない(これは反語的な言い方でこう言っている)。
○三個代表(これは中央政府の党員教育のキャンペーン)の精神はどうなったのか、江沢民主席の7月1日(共産党設立記念日)の講話を勉強したのではないのか……・
○どうして朱首相が指示をしなければならなかったのか、もしこの指示が無ければ、事実が明かにならなかったのでは。以前の事故では地方の報告は信用できないので朱首相自から人を派遣して調査させたとか……
○法を無視し、人命を無視した地方保護主義への怒り。地方保護主義などという体裁の良いことでなく、法を無視した金まみれの社会。

  そして掲示板では、ニュースを伝えた記者の勇気と良心を賞賛している意見が多かった。インタネットの"新浪網"というページも読者の喝采を受けていた。テレビはある種の政治的宣伝機間となっていることは、私も感じていたことであるがるが、私と同じくこれをおかしいと思っている中国人も結構いることが分かった。以上の感想は極めて当たり前の感想だと思う。当たり前のことが当たり前と言える社会になりつつあるのかもしれない。

  この事件はマスコミ記者の取材が無ければ、明るみに出なかったのかもしれない。松本清張の社会派ドラマにでもなりそうな話である。鉱山のボスの人物像など詳細に報道されていたが、変った人物であるらしい。ドラマの素材には不足が無いほどの興味深い事実が、インターネットに載っていた。