結婚式のパレード

  吉林には夜行列車で早朝に着いた。早速、以前滞在していた招待所にチェックインして、街に散歩に出た。そうしたら朝の九時前であるにもかかわらず、結婚式のパレードが通りを右から左、左から右へと通りを走っているのである。結婚式のパレードとは、飾り付けをした乗用車を何台も連ねて、花嫁を迎えに行く行列である。花嫁を迎えた後に結婚式場に向かうパレードもあるのかもしれない。自動車はタクシーは少なくて、自家用乗用車である。中国では個人所有の自家用車は少なく、タクシーには高級車が少ないから、高級車を並べて走らせる為には、コネを辿って、役所の車とか会社の車をかき集めるらしい。高級車をいかに調達し、パレードに並べるかを、派手好み見栄っ張りの中国人は競っているようである。

  物の本によれば北京あたりの中国人の性格として、見栄っ張りと書いたあったが、今日のこの日の自動車パレードを見れば、やはりそのことは本当と思えてくる。日本ならば、今日、何組結婚式があるかは、式場に行かなければ確認できないであろう。しかしここ吉林では、次から次ぎへと、派手な結婚式の自動車パレードが通りすぎるのであるから、今日は結婚式が多いことが一目でわかる。そして今日が土曜日であることを思い出した。中国では、土曜日曜の結婚式が圧倒的に多いのである。

  自動車は銀や赤のモールで派手に飾り付けられているから、結婚式であることは一目でわかる。中には先導車に乗ったカメラマンが、ニ番目の花嫁が乗った車を撮影しているパレードもあった。凄かったのは黒塗りのアウディーばかり、20台以上も連なったパレードもあった。これなどはいかにも役所とのコネが強固であるかを誇っているようなパレードである。   

  アウディーのハイヤーなどは中国には少ないはずである。高級乗用車ともなれば、当然役所の公用車とか、会社の社用の車である。その車が個人的な結婚式に参加してくれるのであるから、これはもう権力の誇示でなくても、権力に近い人物の結婚式であることは間違いなさそうである。公用車、社用車が個人的な結婚式に使われるのが問題にならないのかというと、やはり中国でもそのことがたまには新聞の問題になる。ある新聞で見た記事によると、中国の東北地方の丹東市では、そのようなことは無くなったと、誇らしげに書かれていた。このことは他の地方では未だにあると言うことを示しているようであった。私が見た吉林市の結婚の自動車パレードは、多分公用車、社用車をかき集めたパレードであったと思う。

  タクシーを10台以上集めた自動車パレードも見かけたが、赤い軽自動車であるので、やはり自家用車のパレードから比べると見劣りがした。本当は、タクシーをチャーターした結婚式の方が、チャンとお金を払って車を利用しといる真面目な中国人であるのかもしれない。

  そう言えば、結婚式が土曜、日曜に多いのは、公用車を利用出来るというのも理由のなのだろうか。そして思い出したのであるが、中国の会社の自動車運転士の中には、自分が自動車の管理の権利を持っていると、錯覚してしまっている人が何人かいた。これは私の以前の経験と、知合いの中国人に確認したところでも本当である。会社の自動車を命じられて運転するだけではなく、何故か自動車の運行の権利を握ったと、自ら思い込んでいる人がいた。これはかなり中国的なのであるが、以前の中国では全部が公務員みたいなものだあったから、そうなったのかもしれない。それで公用車が個人的な結婚式のパレードに参加するのは、運転手個人の裁量によるのかもしれないとも考えた。

  中国では結婚式にお金を掛けるのである。結婚のアルバム作成にも沢山の金をかける。結婚式とは別の日に、専門業者に頼んでたっぷりアルバムの為の写真を撮ってもらう。ポーズを演出する人も付いている。ハルピンで見た光景では、結婚記念写真を専門業者に撮影してもらっているカップルが、有名な聖ソフィア教会の前に沢山いた。そしてその写真の内容が濃いのである。日本の結婚式の写真は新郎新婦が二人とも前を見て並んでいるが、中国のものは二人が、互いに相手の顔をヒシと見つめ合っているとか、抱き合っているとか、永遠の愛を誓い合っていることが、ハッキリと確認できるような写真であった。