タオルを汚されてしまう

  久しぶりに借りている家に、旅行から戻った。流しの横に引っ掛けておいたタオルの様子がおかしいのである。少し汚れている。このような汚れは洗っておいたはずなのにと思った。そうして思い出したのであるが、室内のガスの工事があると聞いていた。そうして更に思い出したのであるが、4、5年前にある大学の招待所に住んでいた頃のことである。そこで室内の工事があると、必ずタオルが汚されていた。初めは工事する人がタオルを汚してしまうなんて信じられなかった。その汚し方は尋常ではなく、手についたペンキの汚れをタオルで拭ったらしく、タオルはペンキが乾くとガバガバになってしまっていた。初めはたまたまペンキがタオルについてしまったのだろうと考えた。部屋に掛けておいたタオルで手のペンキを拭うなんて考えもしなかった。しかしタオルの汚れがニ三回続き、必ずその前には室内の工事があったので、もう信じないわけにはいかなかった。

  ここでは工事をする人は、遠慮も無くその部屋にあるタオルを自由に使うらしい。少なくとも私のが住んでいた大学の招待所では、それが当たり前らしかった。そうすることはこの辺の流儀らしいが、タオルは私のものであり、それを汚してもよいという理由は何も無いと考えて、招待所の支配人に文句を言いに行った。そうしたらタオルの替わりを弁償するとの答えであった。私の要求は新しいタオルを貰うことではなかく、タオルを汚すのを止めて欲しかったのであるが、どうもそれは不可能のようであった。

  どうも工事をする人は、他人の物と自分の物との区別が無いのかもしれない。それとも招待所のタオルは公共のものと考えて使ってしまうのかもしれない。日本でペンキを塗る人は職人である。壁にはペンキをキチット塗るが、床には一滴もペンキは垂らさない様に仕事をする。しかしここでは違っていた。壁の塗り方は均一ではなく、床はペンキだらけになる。工事のときの様子をよく見てみると、部屋の係りの常さんが監視をしているようであった。カーテンや家具を汚されないように見ていたのかもしれない。部屋に備え付けの椅子に乗ってペンキ塗りをしたのも見たことがある。当然椅子はペンキだらけになった。常さんが見ていない時があったが、その時私の腕時計は盗まれていた。

  以上の過去の話を思い出したのであるが、現在の北京近くでも、やはり工事をする人は部屋にあるタオルを勝手に使った様である。しかしその汚された方は、僅かであって留守中に無くなったものは無かった。商売の競争が激しくなっている北京辺りでは、消費者を無視した工事は許されなくなってきているのかもしれない。