みちのく一人旅 〜津軽編〜

一日目 その4

 

バスは意外と広いまちなかを通り、真っ白な景色の中を山の方へ向かう。

 

30分ほどで温湯(ぬるゆ)温泉のバス停。

降りたのは自分の他に少々先輩の夫婦連れ。

 (先輩は一回すべった)

ツルツルの道で転ばないよう気をつけて小またで歩く。

転んで頭を打ったりすると首が折れるかもしれないとか思いながら慎重にスタスタと。

 

まちなかでもそうだったが、途中、雪かきの人を見るとほんとにご苦労様の気持ち。暖かいところ生まれの自分はこの苦労をまったく知らない。

屋根の上に上っての雪落としは、見ていても危なっかしい。

 (上の屋根からも雪が落ちてきそう)

温泉街には、あちらこちらに古い湯治宿があるが、この辺では旅館ではなく客舎というらしい。湯治は自炊が基本なので旅館とは呼ばないのかも。

 (「土岐客車」いや客舎)

さっき一緒にバスを降りた夫婦連れが宿を探している様子。それを見て、雪下ろしの人が声を掛けていた。

皆、親切だ。

飯塚客舎を探しているらしい。

本当は自分もそこで風呂に入れてもらおうと思っていたのだけれど、安さにつられてバスきっぷを買ってしまったので、真新しい共同浴場へ。

 

 (共同浴場鶴の湯)

靴を脱いで券売機で入浴券を買う。

200円ととても安い。

最近は番台ではなく券売機の共同浴場も多くなった。

受付でバスのきっぷにスタンプを押してもらう。このスタンプがないと帰りのバスでは使えない仕組み。

共同浴場は、風情のあるところが多くキャンプの時などは好んで入る。

ここの共同浴場は古い歴史があるらしいが、最近に建て替えられたばかりで、とても新しい。

素足でも床暖房で暖かいし、洗い場にはシャワーもある。

地元の人はこういう最新設備のある風呂がやはり良いに決まっている。

珍しいもの懐かしいもの好きのよそ者が、風情がなくなったとか言うとバチがあたるな〜、とか思いながら風呂に入る。

 

風呂場は、その地元の人で混んでいて、大盛況。

方言の会話は、ほとんど聞き取れないが、津軽へ来たという実感が強い。

観光旅館ではこうはいかないし、最近では仲居さんが外国人でカタコトの日本語だったりすることもある。

さて頭を洗おうと洗い場を見ると、なんとあちこちに空いてると見える場所には全部風呂セットかごが置きっぱなし。どうも場所をキープして湯船に浸かってもよいルールらしい。 普通はマナー違反だろう。

私はよそ者なので、じっとおとなしく空くのを待ち、空いたと見るや即確保。

そしてまた湯船でしばらく温まってから、滑って転んで首を折らないよう気をつけて風呂を出た。

 

外はもうすっかり薄暗くなり、ずいぶん冷え込んでいる様子。

 (ずっと雪かき)

 

帰りのバスの時間まではまだ1時間近くあるので温泉街を散歩したいけれど、温まりすぎたので、着ていたもの全部を着られないほど状態。

汗をかいて外に出ると湯冷めして、絶対に風邪を引きそう。

そういえばバス停での待ち時間でも、けっこう湯冷めの危険ありと、休憩所で汗が引くまで時間をつぶす。

きれいな「こけし燈篭」の写真がたくさん貼ってあって、ここの名物らしい。

 (大きさも数もすごい)

ようやく体のほてりも納まってきたので、ネルの中着をカバンに入れ、着るものを減らして散歩に出発。

 

入ってみたかった飯塚客舎はとても風情があり圧倒されるような存在感。玄関前には綺麗なこけし燈篭があり、写真を撮ったがコンデジ手持ちではなかなか難しい。手ブレもするし、明るいので潰れてしまう・・・。

   (ここは飯塚旅館と書かれていた)

そこから寂しく暗い道を先へ歩くと薬局があり、そこにも「こけし燈篭」があったので写真を撮っていた。

すると、先を歩いていたおじさんがわざわざ戻ってきて、

こけし燈篭の写真を撮りに来たのか?なら、この先15分ほど行った伝承館というところにたくさん飾ってあるから行きなさい」と教えてくれた。聞き取りやすい津軽弁でかなり親切に教えてくれた。

暗い中にたくさんのこけし灯篭が立ち並ぶのはさぞかし綺麗だろう。

バス停を越えて、伝承館の方へ歩いていったが、すごく冷えて風も出てきたし、真っ暗だし、帰りのバスの時間まで時間がないので、せっかく教えてもらったけどあきらめて、折り返した・・・。

 

帰りのバスを暗くて寂しいバス停で待つ。

体が少し冷えてきたのでカバンから中着を出して着てみたけど、少々手遅れ。

目の前を小さな除雪車が「ガッー」と大きな音を立てて通り過ぎたあと、あたりはシーンと静まりかえっている。

 

暗いなか、妙に明るい自動販売機が「まいど、おおきに〜」と、繰り返し一人で喋っている。

こんな遠い津軽の山里まで来て、自販機の関西弁。滑稽なのに悲しい気分になる。

 

予定の時刻を過ぎてもバスは来ない。

寒さにやられ始めたころ、ようやく遠くからバスの黄色いライトが見えて、心からホッとした。

やってきたバスは小さなマイクロバスで、なんと乗客が1名いた。

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