鋼製型枠 の環境負荷に関する一考察 |
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鈴木 誠二 |
要約 |
合板型枠と共に現在よく使用されている型枠にスチール(鉄鋼)の型枠がある。転用回数が多く、仕上がりコンクリート面が奇麗であるので打ち放し用の型枠として使われることが多い。反面、重量が重く、作業がたいへんという指摘がある。合板に代わる型枠として実績のあるスチールについて、その製造工程・並びに、使用時における発生炭酸ガスの量を検討した。その結果、鋼製型枠の場合には、製造時の高炉から発生するガスに伴う炭酸ガス、そして、電力消費に係る炭酸ガスの量が極めて多く、転用回数は上がるものの十分に削減するにはいたっていない。
スチール型枠
合板型枠と共に現在よく使用されている型枠にスチール製の型枠がある。転用回数が多く、仕上がりコンクリート面が奇麗であるので打ち放し用の型枠として使われることが多い。反面、重量が重く、作業がたいへんという指摘がある。合板に代わる型枠として実績のあるスチールについて、その製造工程における発生炭酸ガスの量を検討した。
1 製造工程
炭酸ガスの発生量を求めるために想定したスチール製型枠の製造工程を次に示す。
2 鉄鉱石採掘
原料となる鉄鉱石の殆どは輸入である。その主な輸入先はオーストラリア、ブラジル、インド、南アフリカなどである。図-2はわが国の鉄鉱石、石炭の原料ソースを示したものである。
鉄鉱石の採掘に必要なエネルギーは 重油の換算で、0.0515
Kg / 鉄鉱石1.85Kgである。3)
重油の発生にともなう炭酸ガスの発生量:
0.245 Kg / Kg x 0.0515 =
0.0126
重油の燃焼にともなう炭酸ガスの発生量:
3.13 Kg / Kg x 0.0515
= 0.161
日本への輸入は、海上輸送とした。代表的なケースとしてオーストラリアからの輸入を考えた。
オーストラリアからの輸送距離
6,000 Km
輸送手段 海上輸送
バルク船
0.00676
Kg-CO2 /
t-Kg
鉄鉱石の輸入に伴う炭酸ガスの発生量:
0.00676 Kg / t-Km
x 6,000
= 40.56 Kg / t
= 0.0406 Kg / Kg
従って、輸入される鉄鋼製の炭酸ガス発生量:
0.01260
+ 0.161 + 0.0406 =
0.2142 Kg / 1.8858 Kg-鉄鉱石
3 石炭採掘
製鉄用の原料炭の輸入先はオーストラリア、アメリカが主である。ここでは、アメリカからの輸入を前提した。
文献1)によれば、石炭の採掘に必要なエネルギーは、重油の換算で、 0.0161 Kg
/ 石炭0.609-Kg である。
鉄鉱石の場合と同様、石炭の採掘に伴う炭酸ガスの発生量は:
(
0.245 Kg / Kg +
3.13 ) x
0.0161 =
0.0543
日本への輸入は海上輸送とした。代表的なケースとしてアメリカかの輸入を考えた。
アメリカからの輸送距離
8,000 Km
輸送手段 海上輸送
バルク船
0.00676 Kg-CO2
/ t-Kg
0.00676
Kg / t-Km x
8,000 = 54.08 Kg / t
= 0.0541 Kg / Kg
従って、輸入される石炭の炭酸ガス発生量:
0.0543 + 0.0541
= 0.1084 Kg / 0.609 Kg-石炭
4 製鋼・圧延による薄板鋼板
製鉄所における製鋼・圧延ならびに薄板鋼板の製造工程は、 図-3 に示すとおりである。この工程での一連のエネルギー消費は 次の通りである。
高炉から発生する炭酸ガス
鉄鉱石はコークス炉から発生する一酸化炭素と反応して大量の炭酸ガスを生ずる。高炉製鉄法を図-4 4)に示した。また、高炉の温度の状況が図-5 2)にまとめられている。鉄鋼所における炭酸ガスの発生は、鉄鉱石の還元の方式により種々様々である。ここでは文献1)より、鉄鋼所でエネルギー消費に伴う炭酸ガスの発生量を含め全工程での炭酸ガスの発生量を1.4533 CO2-Kg
/ 1.1 Kg-薄板鋼板とした。
スチール型枠の場合、殆どが鉄鋼メーカーが製造しているので製造所から加工メーカーへの輸送は無視した。
5 型枠の製造
スチール型枠は、プレス成形と一部の溶接からなる。この工程でのエネルギー消費を次の表にように想定した。
従って、加工工程での炭酸ガスの発生量は:
0.547
x 0.595 + ( 0.6505 + 3.03 ) x 0.012 =
0.3696 Kg/Kg
6 スチール型枠による炭酸ガスの排出
鉄鉱石の採掘、石炭の採掘、ならびにこれらの輸入、製鋼・圧延、そして プレス成形によるスチール型枠の製造まで、この全工程での炭酸ガスの発生量の総計は以下のごとくなった。
スチール型枠は 300
x 1,800ものとすると1枚が17.3
Kgであり、従って、一枚当りの炭酸ガス発生利用は:
2.1456
x 17.3
= 37.11
Kg-CO2 / 枚
となる。
さらに、スチール型枠を現場まで搬送する場合の 輸送に伴う炭酸ガスの発生量は、次のような条件をもとに算出すると、
輸送方法 4t車
形態 パレット
積載量 200枚/車
輸送距離 100 Km
製品 300
x 1,800
( 重量 17.3
Kg )
0.472 Kg / Km x 100 =
17.2 Kg-CO2
/ 200枚
0.086 Kg-CO2
/ 枚
従って、使用時におけるスチール型枠の炭酸がす発整量は、
37.11 + 0.086 =
37.196 Kg-CO2
/ 枚
合板サイズの 2
x 6 板の当りでは、
37.196 x
2 =
74.392 Kg-CO2
/ 枚
となる。
7 まとめ
鉄鉱石の採掘、石炭の採掘、ならびに、これらの輸入、そして 、製鋼・圧延、プレス成形を経て製造されるスチール型枠の使用するまでの間に累積される炭酸ガスの発生量を推定した。結果を項目別にまとめたものが表-4である。その結果、スチール型枠一枚当り、37.2
Kg、また、2
x 6板当りで、74.4
Kgの炭酸ガスが発生していることが分かった。
スチール型枠の場合には、転用回数が40〜50回と言われている。ここで転用回数を40〜50回と想定して一回あたりの炭酸ガスの発生量を求めると次のようになる。
スチール型枠の一回当りの炭酸ガス発生量:
スチール型枠製造・搬入のためのCO2発生量
従って、1.49 〜 1.86
Kg-CO2
/ 枚・回となる。
鉄鋼会ではこうしたエネルギー多消費産業としての社会的な責任を十分理解し積極的に省エネルギー対策に取り組んでいる。特に日本の鉄鋼業のエネルギー使用効率は諸外国に比べて非常に高く、世界の鉄鋼業が日本並みの使用効率で鉄を造れば、実に炭酸ガスの排出量を 2%、量にして、一億トン/年を削減できるといわれている。
薄板鋼板を材料とし製造されたスチール型枠の場合の炭酸ガス累積排出量を表-5にまとめた。
鈴木 誠二
(
平成6年4月29日
)
参考文献
1)
(社)プラスチック処理促進協会 「プラスチック製品の使用量増加が地球環境に及ぼす影響評価」
2)
日本鉄鋼連盟 「鉄の出来るまで」
3)
石油連盟 「今日の石油産業」
4)
日本鉄鋼連盟 「鉄の出来るまで」
鉄鋼業と環境保全に関して
藤目和哉 “エネルギー需給の展望は経済成長と環境保全との調
和が課題” 「鉄鋼界」(1993.3)p2
鉄鋼連盟 エネルギー対策委員会 “一貫製鉄所の省エネルギー
対策とその成果” 「鉄鋼界」 (1993.3)p18
鉄鋼連盟 エネルギー対策委員会 “一貫製鉄所の未利用エネル
ギー
” 「鉄鋼界」 (1993.3)p24
小林 茂 “UNCEDに向けた地球環境問題の現状と課題”
「鉄鋼界」 (1992.4)p2
鉄鋼業に関する資料
川崎製鉄 PR誌
藤目和哉 “エネルギー需給の展望は経済成長と環境保全との調
和が課題” 「鉄鋼界」(1993.3)p2
鉄鋼連盟 エネルギー対策委員会 “一貫製鉄所の省エネルギー
対策とその成果” 「鉄鋼界」 (1993.3)p18
鉄鋼連盟 エネルギー対策委員会 “一貫製鉄所の未利用エネル
ギー
” 「鉄鋼界」 (1993.3)p24
小林 茂 “UNCEDに向けた地球環境問題の現状と課題”
「鉄鋼界」 (1992.4)p2
鉄鋼業に関する資料
川崎製鉄 PR誌