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リブ構造をした樹脂型枠

の環境負荷に関する一考察    

 鈴木 誠二

要約

 さまざまな製品、あるいは、産業活動の環境に対する負荷を評価する手段として知られているのか、Cradle-to-Grave Analysis と言われるLCA( Life Cycle Analysis)である。この手法に従い、南洋材型枠の代替として開発された樹脂製の型枠について環境負荷を評価した。この製品は、耐久性に優れ、合板型枠に比べて、現場での転用回数が圧倒的に増大することから、環境負荷の指標ととなる炭酸ガスの発生が極めて少ないことが判明した。こうした製品を普及させていくことが、熱帯雨林の伐採を削減し、地球の温暖化防止に繋がるものと期待される。 

    内    容

合板型枠の環境負荷に関する検討

1. はじめに

2. 評価の方法                              

3 LCAのカバーすべき範囲                     

4  原油の採掘と輸入                   

5. 原油の精製

6. ナフサ・クラッキング

  プロピレンの製造

7.  重合反応

8. 成型による型枠の製造

9. 型枠の使用とリサイクル

10. 樹脂型枠のLCA評価結果

10. 合板のLCA評価結果

11. 残された問題

 リサイクルシステムの確立

1. はじめに

   建築現場で使用される合板型枠の材料は、その殆ど南洋材である。東南アジアの熱帯雨林を伐採しているわけであるが、こうした行為により広大な森林が破壊され、そこに住む動物達が絶滅していっているといわれる。熱帯雨林の伐採は、大自然の破壊ばかりでなく、地球規模で見た場合の森林の重要な機能である空気中の炭酸ガスの固定という働きまでも破壊しているのである。しかも、そのコンクリート型枠は使用されたあとは、焼却処分をされており、この際に、材木のなかに固定された炭素成分が炭酸ガスとなり空気中に放出される。こうしたことから、合板の材料として南洋材を使うことに多くの非難が集中した。そこで、沢山の代替型枠が開発されてきた。ここでは、桟木つきの型枠の代替材として開発された樹脂型枠「カタワーク」について、原材料の確保から、その製造と使用、そして、最終的な処分に至るまでの環境負荷を、炭酸ガスの発生量という数値で評価することとした。

 

2. 評価の方法

   環境負荷の評価の方法としては、ある製品の評価をする場合に、その製品の原材料の確保から始まり、その製品を製造するまでにどれだけの炭酸ガスを発生するかと算出する方法、或いは、使用時にどれだけの環境負荷を生ずるかと言うことに着目して評価をする方法、さらには、原材料の確保から、製造、使用、そして、最終処分に至るまでの間に発生する炭酸ガスの量を求めて、これを評価する方法などがある。或いは、発生する炭酸ガスの代わりに、すべての投入エネルギーをもとめ、これを炭酸ガスに換算する方法などがある。電気自動車のように、充電した電気で自動車が走るので、自動車の使用時には炭酸ガスの発生はないのだから、従って、電気自動車は環境に優しいとさえ言い切っている場合があるが、しかし、その電気そのものについては、それがどのような形で発電されているかにより、非常に大きな環境負荷がかかっている場合もあるのである。こうしたことから、環境負荷を検討する範囲は、どのような立場に立ち評価するかではなく、すべてが納得できるような形で、その範囲を明確にしておかなければならないのである。こうした意味で、国の内外において昨今仕切りに議論されているのが、LCA という手法による評価である。この評価は、われわれが製品として使用しているものについて、その製品ができるところから、最終的に機能を閉じるところまで、つまり、最終的な処分をするところまで、そのすべての過程を網羅する形で、つまり、製品を作るための材料の確保から、廃棄処分・そのものを自然に戻すまでのところまでの過程について、その間に発生する地球温暖化の原因とされる炭酸ガスの発生量、あるいは、場合によっては、投入エネルギーをもとめ、これを炭酸ガスに換算して、環境に対する負荷の目安にするというものである。海外では、LCAの評価の方法について、これを、Cradle-to-Grave Analysisという表現をつかっているほど普及し始めている。1)

 そこで、樹脂型枠の製造と使用についての一連の流れを図-1に示した。

 

3 LCAのカバーすべき範囲

 すでに、合板型枠についても、LCAの手法を用いて評価を実施しており、同じ使用目的で使われる製品については、同じ基準に基づいて比較評価をすることが望ましい。そこで、樹脂型枠についても、基本的には同じような考え方にたって、LCAのカバーすべき範囲を規定した。図-2は、樹脂型枠のLCAの評価をする際の具体的な作業の流れを示す。

 

 原油の採掘は主として中東の油田に依存するものであり、これを石油タンカーで輸送している。輸送経路については、通常のマラッカ海峡を通過することを前提としている。さらに、石油の精製工程では、各種の石油製品が生産されている。その割合は、需要と供給でことなるので、これを配慮する必要がある。また、ナフサクラッカーについても、樹脂の材料となるのは、その一部であり、沢山の製品のなかで環境負荷の度合いについては、これを生産量に応じて、また、そのプロセス内でのかく工程にしたがって配分する必要があり、実際に樹脂型枠に供されるものだけの環境負荷を考慮してゆく。重合プロセスには、さまざまなものがあり、それぞれが異なる環境負荷を伴うと考えられる。樹脂型枠の成型法は、現在、実用レベルにある樹脂型枠では、その形状により製造法が異なる。ここでは、当社の取り扱っている製品についての製造方法を前提とする。型枠の使用については、型枠大工の経験と知識により、その使用の範囲が異なるが、一般的には、建築用の壁型枠を想定して、その使用の具合を前提に転用回数、マテリアル・リサイクルを検討に範囲に含んでいる。

 

4      原油の採掘と輸入

 原油の採掘と輸入に関する環境負荷の評価については、プラスチック処理促進協会がまとめた詳しい資料、「石油化学製品のLCIデータ調査報告書」2),3) があり、これを参考にした。この報告書は、石油産業活性化センターが平成8年に実施した「石油製品のライフサイクルインベントリの作成に関する報告書」、同9年度の「輸送段階を含めた石油製品のライフサイクルインベントリの作成に関する調査報告書」に基づきまとめられたものである。それによれば、原油の採掘・ならびに輸入に関しては、中東原油と南方原油(インドネシア産)を対象に作成し、このうち原油の採掘にかかわるエネルギー・環境負荷に関しては、中東原油とインドネシア原油の輸入構成比( 964)で加重平均した値とされている。また、輸入に伴う船舶輸送時のエネルギー・環境負荷にかかわるデータは、中東原油、南方原油のほかに中国、中南米、オーストラリア、アフリカ、アメリカ、ロシアなどから輸入された原油の中の精製用原油を対象に加重平均値が示されている。石油製品の原油原単位を考慮した場合の環境負荷の検討結果を表―1に示した。

5. 原油の精製

 海外から輸入された原油は、石油基地に陸揚げされた後、精製工程に入る。この過程は、図―3に示されたとおりである。それぞれの温度により石油製品が確保されるが、その割合は、原油の性質によるところが多い。したがって、原油の性質により多少プロセスの違うところもあるが、ほとんどの原油を中東油田に頼っているわが国では、ほぼ一定のプロセスで精製されていると見てよいだろう。

この工程についても、上記報告書に詳しい考察がなされており、この値を引用することとする。同報告書では、国内精製企業五社の提供データを元に加重平均値が求められている。

このようにして求められた原油の精製工程における環境負荷の結果を表-1 に示した。実際の環境負荷は、この工程で確保される石油製品の割合に応じて分配されなければならない。特に、石油製品としてわれわれが取り扱う樹脂は、この工程のNaphtha成分と呼ばれる溜分をさらに蒸留、分離し得ている。

 

. 6.ナフサ・クラッキング

  樹脂型枠の原料であるポリプロピレンは、ナフサ・クラッキングにより確保されるプロピレンが材料である。したがって、材料としてプロピレンの確保にどれだけの環境負荷が伴うかを求めなくてはならない。図―4 3) に示すようになナフサ・クラッキングの工程に従った物質の流れから、原単位を求め、さらに、投入する原材料やエネルギーのデータから環境負荷を求める。このような作業におけるこの工程でのLCIデータと環境負荷の結果は、表―2 3) に示したとおりである。

このようにして、この工程での環境負荷を求めることができるが、この工程では、プロピレン以外にも沢山の成分が産出するので、プロビレンそのものの環境負荷としては、その産出比率により分配をする必要がある。この作業により得られたデータをもとにして、次の重合プロセスでの環境負荷を求めてゆく。

 

 

 

 

 

7.  重合反応

 プロビレンの重合プロセスには、溶媒法(図―5)を用いる従来のものと、最近では、投入エネルギーが少ないガス法(図―6)とがある。また、溶媒法でも、反応器にはさまざまな形のものが実際には使われている。ただし、溶媒法である限りはほぼ同一の環境負荷と見てよいであろう。

 

この溶媒法の重合プロセスについては、次のようなLCIデータが報告されている。4)

これに対して、近年開発されたガス法の重合プロセスのフローを図―6に示す。

 

このプロセスでのLCIデータは、表―4に示したものが報告されている 4)。実際には、どちらのプロセスを採用するかは、それぞれのメーカーの思惑がはたらくので、どちらのデータを採用するかは一概には決められない。

そこで、実際には、メーカーからのデータを下に各社の生産高に応じた加重平均を出して、それぞれの樹脂の環境負荷を求めている。このようにして求められた日本での各樹脂の環境負荷の検討結果は、図―7のとおりである。ここに掲げられたデータは、その樹脂を原料として使用し、製品を得るときに、材料の投入に対して使用される環境負荷のデータである。詳しいデータを表−5、並びに、表−6に示した3)

 

 

 

8. 成型による型枠の製造

  以上の過程で、リブ付樹脂型枠の主原料であるポリプロピレンの確保に関する環境負荷のデータを得ることができたので、これをもとに、さらにリブ付樹脂型枠の製造に関する環境負荷を求めた。

  ポリプロピレンの成型加工は、住友化学が独自に開発した住友プレスモールドという方法により、当製品が生産されている。この加工法はすでにあちこちに紹介されている。金型をわずかに開放した状態で、樹脂を注入し、ある程度、金型内に樹脂を分散させた状態で、一揆にプレスをし、細部の形状を賦形するという方法である。当製品のように投影面積の非常に大きなもの、そして、しかもリブ成型に必要な垂直方向に樹脂の流れが必要な製品には非常に有利な方法である。

リブ付樹脂型枠の場合には、材料としてポリプロピレンのほかにガラス繊維が使用されている。合板に匹敵するような強度を確保するためには必須の材料である。ガラス繊維の使用にあたっては、マテリアルリサイクルをする場合に、繊維長の長いものは粉砕により、繊維長が短くなり、強度低下を伴うことがある。こうしたことを配慮して繊維の長さを決める必要がある。このガラス繊維の製造に伴う環境負荷についても、原料の確保から製造に至るまでのLCI分析を実施し、表5に示すような結果を得た8)。その結果、ガラス繊維1tあたり、839.68Kgの炭酸ガス発生が伴うという結果が得られた。

 

9. 型枠の使用とリサイクル

 樹脂型枠は、合板型枠の場合の天板と桟木が一体となった製品である。この型枠は、合板型枠に匹敵するだけの強度を持っているばかりでなく、セメントのアルカリで侵蝕されることもなく、また、強度の低下もほとんど見られないので、繰り返して転用することが可能である。合板の場合には、木材の主成分であるリグニンがセメントのアルカリ性のために成分破壊をして木材の表面が粗れるばかりでなく、強度が著しく低下する。

のため、使用回数は、数回の転用が限界とされ、そのたびに、処分されている。これに対し、樹脂型枠は、現場での繰り返し使用が可能であるばかりでなく、ひとつの現場での使用を終えた後、これを回収して、次の施工現場へと投入することも可能である。実際に転用したものの物性評価がなされ、その強度が確認されている。現場では実際にこのような形で、数十回の転用をしている。また、このような形で転用したもの、ならびに、部分型枠として使用するために切断などをし、転用が効かなくなった樹脂型枠については、これを回収し、通常の樹脂製品について実施されている粉砕過程を経て、また、新規の樹脂型枠製造に利用することができる。この粉砕されたリサイクル材を新規投入材料に混入させ、樹脂型枠を製造し、その強度、ならびに、実用テストを実施し、リサイクル材の混入量は、50パーセントでも問題ないことが確認された。また、30パーセント程度の混入であれば、このようにしてリサイクル材料を使用した樹脂型枠自身もまた、粉砕、リサイクル利用できることも確認されている。しだかって、ある期間の間は、樹脂型枠の場合には、系外に排出される物質なしに、材料を繰り返し使用することが可能となるのである。    

実際にこのような形で、数十回の転用をしている。また、このような形で転用したもの、ならびに、部分型枠として使用するために切断などをし、転用が効かなくなった樹脂型枠については、これを回収し、通常の樹脂製品について実施されている粉砕過程を経て、また、新規の樹脂型枠製造に利用することができる。この粉砕されたリサイクル材を新規投入材料に混入させ、樹脂型枠を製造し、その強度、ならびに、実用テストを実施し、リサイクル材の混入量は、50パーセントでも問題ないことが確認された。また、30パーセント程度の混入であれば、このようにしてリサイクル材料を使用した樹脂型枠自身もまた、粉砕、リサイクル利用できることも確認されている。しだかって、ある期間の間は、樹脂型枠の場合には、系外に排出される物質なしに、材料を繰り返し使用することが可能となるのである。

 

10. 樹脂型枠のLCA評価結果

以上、樹脂型枠についてのLCA評価をするためにデータについて考察をしてきたが、こうして求められたデータを用い、樹脂型枠の環境負荷について算出した結果を表―8に示した。

これより、樹脂型枠の製品当り、9.62 Kgの炭酸ガスが発生するという結果になった。

異なる材質の材料を使用する製品同士の環境負荷を比較するためには、比較の基準となる単位をあわせる必要がある。ここでは、転用回数を加味して、一回の打設当り、もしくは、打設面積当りで比較することが妥当である。そこで、樹脂型枠の場合の一回の打設当りの炭酸ガス発生の負荷、ならびに、1平方メートルあたりの環境負荷を求めた。

樹脂型枠の場合の一回の打設当りの環境負荷は、転用回数を50回とすると、

     0.192 CO2-Kg/

     0.178  CO2-Kg/ u

という結果になった。

 

11. 残された問題

以上の評価でもわかるように、樹脂型枠の場合には、転用回数が非常に重要な意味を持っている。いかに、性能がよいとは言え、現場での使いやすさが保たれなければ、これを転用することは難しい。樹脂型枠の使用を日常化するには、付着セメントの洗浄や、子部品に加工された部品の転用を以下に図るかなどの問題が残る。今後は、現場での使いやすさを追求したこうした問題の解決が急務である。そのためには、市場に投入された樹脂型枠の使用状態の管理システムが非常に重要である。このような問題が解決されて始めて、地球温暖化の防止のための炭酸ガス削減手段として、樹脂型枠が世の中に認知されるものと思われる。

 

 

参考文献

1)     たとえば、Wilson and Sakimoto,” Gate –to-Gate Life-Cycle inventory of Softwood Plywood Production”, Wood na d Fiber Science, Dec. 2005, Vol. 37  p58 (2005)

2)    プラスチック処理促進協会、石油化学製品のLCIデータ調査報告書、LDPE,HDPE,PS,EPS,PVC,B-PET    1999,

3)        同、  更新版   2009

4)    uttgart University,  UFOPLAN project “ Resource-sparing production of polymer materials, 2000

5)    3)のデータに基づき、修正を加えまとめたもの

6)    鈴木 誠二 私信 

 

 その他参考資料

1)    M. Wang, H.Lee and J.Molburg, “ Allocation of Energy Use in Petroleum Refineries to Petroleum Products, Int. J. LCA 9 (1), 2004

2)    M.L.Neelis, M.K.Patel, P.W.Bach and W.G.Haije,” Analysis of energy use and carbon losses in the chemical and refinery industries”  ECN-1-05-008

3)    E.Worrell and W.C. Turkenburg, “ Energy and CO2 analysis of the Western European plastics lifecycle”,

4)    Ji Young Lee,”Environmental and Economic Life Cycle Analyses of Hydrogen As a Transportation Fuel”,  2006 International LCA Conference

5)    G.Keoleianら “Life Cycle Assessment of the Stoneyfield Farm Product Delivery System”, Michigan University Report, April 2001

6)    A. Thiriez and T. Gutowski, “An Environmental Analysis of Injection Molding”, MIT Report 2006

7)    N. P. Khare, “ Predictive Modeling of Metal-Catalyzed Polyolefin Processes”,  Virginia  University Doctor 論文

8)    鈴木誠二 「CO2の総排出量から観た地球環境に優しい製品とは」,工業材料 Vol. 45,109 (1997)

9)    ( ) 土木研究センター リサイクルが可能なプラスチック製軽量型枠「カタワーク」審査証明書”, 平成7

 

                                                                  以上

                                        平成22312日    鈴木 記