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森林伐採が及ぼす環境負荷についての一考察

                              鈴木 誠二

 要約

  森林伐採が炭酸ガスの固定を停止することの環境負荷について考察した。熱帯雨林の伐採では、伐採により炭酸ガスの発生がないとは言え、炭酸ガスの固定機能が停止し、これが原因で、大気中の炭酸ガス濃度が低下せず、ひいては、温暖化防止の阻害をしていることがわかった。伐採の間隔によっては、本来の炭酸ガス吸収によってもたらされる温暖化防止の機能が半減する。この効果は、合板一枚当たりの環境負荷として、11..214.8 CO2-Kg/枚となった。伐採については、適当な間隔で実施し、植林することにより、この機能停止を回避し、逆に効率的に炭酸ガスを固定する可能性があることも分かった。  

はじめに 

1.     日本の合板事情

2.     熱帯雨林の破壊

3.     樹木の炭素の蓄積について

4   炭酸ガスの固定と樹木の成長について

5.  樹木の成長速度

6.  伐採による炭酸ガスの固定停止の意味

7.  木材伐採による炭酸ガスの固定停止の量

8.  大気中の炭酸ガスの濃度を下げるには

終わりに

初めに

 モータリゼーション、電気文明など、産業の発達により、空気中に放出される炭酸ガスの量が極端に増大し、これが一因となって地球の温暖化が進んでいるといわれている。地球の温暖化が進むと、地球の両極の氷や、何百万年もの昔に形成された氷河が後退したり、あるいは、ツンドラ地帯の地下凍土が解けて、生態環境に多大の影響を及ぼすといわれている。こうしたことから、大気中の炭酸ガスの濃度の上昇を何とか抑えなくてはという危機感が生まれてきた。さまざまな産業活動を、炭酸ガスの発生量を基準にして、この地球環境に対するやさしさを評価しようというのが、その代表的な動きであろう。われわれの生活手段のなかでは、なかなか炭酸ガスの濃度を下げるという技術が生まれてこないが、それでも、おなじような産業活動でも手段により発生する炭酸ガスがより少ないものを選択しようという努力がされはじめた。ハイブリッド自動車、自然エネルギーを利用した発電などなど、政府の支援のもとに一日も早くその成果があがるような検討がなされている。こうしたなかで、この地球上に生物が出現していらい、森林が炭酸同化作用をすることにより、空気中の炭酸ガスを固定し、大気中の濃度を下げる働きをしていることが高く評価されるようになった。とりわけ、熱帯雨林の果たす役割は、その規模の大きさ、働きの活性度ということからきわめて重要である。時として、自然の再生能力を超えて、商業的な木材の確保のために森林を伐採することは、現地に一時的な潤いをもたらすとはいえ、まさしく森林の破壊行為であり、こうした活動により、熱帯雨林が消失し、単に、炭酸ガスの固定が停止するということばかりでなく、そこに生息する貴重な動物相や植物相の絶滅を招いたり、あるいは、洪水、土砂崩れなどの人為的な災害すら引きおきしているのである。

 

 にも、かかわらず、最近では、森林伐採は、その伐採行為だけなら、炭酸ガスの固定という形は維持されており、焼却しないがきりは炭酸ガスの発生はない( 炭酸ガスの固定の形や場所が変わっているだけで、伐採により炭酸ガスが放出されるわけではない ) とか、あるいは、木材を燃やしても、炭酸ガスは、もともと大気中にあったもので、これにより、大気中の炭酸ガスの量がふえるわけではない、などとの理屈で、木材の伐採、熱帯雨林の伐採についても、まったく意に介さないような意見が見られるのは、まことに残念なことである。とは言え、こうした、考えが本当に正しいのかの検証が必要であろうし、たとえ、炭酸ガスの発生はなくとも、炭酸ガスの固定活動が停止することの環境に対する負荷の程度を正しく評価しておく必要はあろう。

 こうしたことから、ここでは、森林の伐採という行為により、炭酸ガスの固定活動が停止するということについて、これを、炭酸ガスの発生による環境負荷の評価のなかでどのように位置づけてよいのかを議論して行きたいと思う。

 

 

 

1.日本の合板需要

  林野庁の木材需給表によれば、平成19年度の日本の木材需要は、82,370千㎥で、そのうちわけは、製材用が30,455千㎥で、37%を占め、パルプ・チッブ用が、37,132千㎥、45%、そして、14%が合板用で、11,200千㎥となっている( 図―1 )。さらら。合板の用途別の内訳は、構造用が40%、コンクリート型枠用が14%、フロアーの台板や家具用などその他が46%となっている。( 図―2 ) また、合板の材料となっている材種について、素材の入荷元を分析したものが、図−3である。これから素材のうちの約半分の46%が海外からの調達であったことがわかる。ここで、注目すべきは、合板の需要の内訳の中のコンクリート型枠用合板である。このコンクリート用の合板のシェアを見と、なんと、その93%が輸入材となっているのである。( 図―4 )  さらにこのコンクリート用合板の国内生産の動向を見てみると、図-5のごとくである。型枠用合板の需要が平成10年来減少の一途をたどっているが、しかしながら、国内生産の割合は一向にあがっておらず、いかに海外からの調達に頼っているかがわかる。

  また、輸入合板、外国産素材の調達先を見ると、図―6のごとくなっている。これによれば、昨今、インドネシアからの輸入は減少しているものの、マレーシアからの輸入が増えてきており、相変わらず、わが国の輸入合板は南洋の熱帯雨林材に頼っていることがよくわかる。

 

 

 

 

 

 

 

以上のように、わが国の合板は海外からの調達に依存しており、その合板の14%はコンクリート型枠用として使用されている。コンクリート型枠用合板の93%は、輸入合板である。このコンクリート型枠の使用の実態は、24回のコンクリート打ちをした後は、焼却処理をされており、ほとんど使い捨てというのが実情なのだ。つまり、われわれは、コンクリート型枠合板というものが、きわめて短時間のうちに使い捨てという形で焼却処分されている実態を知らなくてはならない。

 こうしたことから、単に商業的な目的でのみ南洋材を伐採し、コンクリート型枠用ととし、使用後はすぐに焼却処分をしているということは、即、南洋の熱帯雨林を破壊しているといわれかねないのである。

2.    熱帯雨林の破壊

      合板の材料として森林を伐採することは、炭酸ガスの固定する場所を生きている樹木から、木材として形を変えているだけであり、これにより炭酸ガスを排出しているわけではなく、また、炭酸ガスの絶対量が増えるわけでもないとの意見が聞かれる。しかし、商業的な目的のためになされる森林伐採の実態はどんなものであろうか。かって、日本がまだ、建築ブームで大量の合板用の素材を輸入していた時代に、南洋における熱帯雨林を山ごと伐採していたといわれた。合板用の使うまっすぐに伸びた適当な太さの木を切り出すために、周りに生えている潅木も切り倒され、そして、木材を搬出するために、山の至るところに縦横無尽に積み出し道路を作ってしまう。必要な木だけを切るならまだしもというかも知れないが、熱帯雨林の場合、林のなかには実にさまざまな種類の樹木が共生しており、背の高いものもあれば、また、低地に幅広くはびこっている樹木もある。そして、これらは、互いに共存という形で森の形成をしている。たとえば、背の高い木は適当な日陰を作り、背丈の低い木を保護している。背丈の低い木は、その落ち葉が背の高い木の栄養になっている。こうした共生の森では、どちらか一方の木を伐採しても、森は成り立たない。こうして、熱帯雨林は一度伐採されると二度と再生しないということで、このような商業主義的な森林伐採は非難の的となったのである。

 熱帯の森林資源は、単に材木の育っている森というだけでなく、実に沢山の動物たちがここに生息しているのである。中には、森林面積が狭くなり絶滅の危機にさらされているものもあるといわれる。熱帯でしか生息しない植物相、動物相は、森林を残さない限り、これを保護して行くことはできない。イェール大学のカラン准教授によれば、(森林の)残っている範囲は狭く、寸断されてしまっているので、すでに熱帯雨林に依存して生きている多くの種を支えられなくなっている。オランウータンやマレーグマ、野生のイノシシといった大型哺乳類が飢えている姿を初めて見た」とのことである。

カラン準教授は、現在の減少率が続けば、熱帯雨林に棲む動物の多くが10年も経たないうちに絶滅するだろうと考えている。「ある種の限界点に達するまでは、動物が絶滅することはない」とカラン準教授。「われわれは今、その限界点のごく近くまで来ていて、いったん限界点に達してしまえば、もはや手遅れで踏みとどまることは不可能だろう」と指摘し、ボルネオ島には420種類以上の鳥類と222種の哺乳類が棲息しており、そのうち半分は熱帯雨林がないと生きていけない、と報告している。

 また、山ごと森林を伐採することは、森林の持つ水の保水能力が極端に下がり、極度に雨が集中したときには、洪水や、山の崩壊が起こる。

 こうしたことから、単なる商業的な目的での森林伐採は、森林破壊であるといわれたのである。われわれは、必要なものは自然から調達をしなければならない。しかし、それは、自然界のバランスを保ちながら実施することが大切である。アメリカインディアンのことわざに、「この自然は、親からもらったものではなく、子孫から借り受けているものである。」という意味の言葉がある。われわれが今行動の基盤としなければならないのは、こうした感覚ではなかろうか。

 3.    樹木の炭素の蓄積について

そこで、実際に森林というものがなぜ必要なのか、そして、それがどんな形で自然を守っているのかということを検証してみたい。

樹木は炭酸同化作用により空気中の炭酸ガスを吸収し、炭素をセルロースやリグニンに変えて、これを幹に、そして、根に蓄えている。最近ではこうした作用を定量化する方法も随分研究が進み、さまざまな報告がなされている。

 最近では、炭酸同化作用により、大気中の炭酸ガスが樹木に取り込まれたあと、どのような形で蓄えられているかの解析手法を提案しており、これについては、Charlene Watsonの詳しい説明がある。こうした手法で、炭酸ガスの固定量が数値化できるようになり、改めて森林の炭酸同化作用の意味を認識するようになってきた。

図―11 に示されているように、樹木に吸収された炭酸ガスは、葉の中に取り入れられ、これが幹に蓄えられると、樹木が生長する。この葉の部分と幹の部分が地表より上に蓄えられる炭素成分である。また、栄養素となったものは、根に送られ、根が成長していく。この部分が地中部の中の炭素成分である。このほか、落葉という形で地表に落ち、やがて栄養素として地中にしみこんでいく。また、根からも地中に出て行く炭素成分がある。さらには、地中に蓄えられた炭素成分はやがては大気中に吐き出されるものも出てくる。これらの区分けされたそれぞれの貯蔵の部分通しの間でのやり取りが、図―12 に示されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Marhiは、熱帯雨林、温帯森林、さらに、寒冷地の森林について、炭酸ガスの固定がどのような形でなされているかの詳しい研究をしている。その結果は、図―1314、−15に示したとおりである。ここに示されている数値は、三つの森林のついての、年 間の炭素の蓄積量を( g/u・year) で示したものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このような実際の数値化の流れを背景に、最近では、日本でも、樹林の炭酸ガスの固定量を推定する数式が確立されつつある。たとえば、一本の木についての炭酸ガスの固定量を算出する方法として次のようなものが採用されている。

@ 断面積=胸高直径(木の太さを表す)の1/2の2乗×3.14
A 材積(体積)=断面積×樹高×0.5(形数法による)
B バイオマス係数 針葉樹=0.5970 広葉樹=0.8443
          木の幹の体積を根や枝など全てを含めた体積に直し、乾燥時の重さに換算する係数
C 炭素含有率(C)=0.5
D 1本の木が貯蔵している炭素の量=材積×バイオマス係数×炭素含有率=t-C(炭素トン)

 

いまや、森林伐採を考察する場合には、具体的に樹木の一本一本についての炭酸ガスの固定量を数値化して議論できるようになった。

 

4.   炭酸ガスの固定と樹木の成長について

樹木が生長するのは、炭酸同化作用により大気中の炭酸ガスを吸収することで営まれているが、その際にどの程度の炭酸ガスが吸収されるかは、森林の育つ場所によってことなる。先のCharlenによれば、森林の炭酸ガスの吸収度合いを、樹林の成長度合いとして表現している。表―1に示した値は、それぞれの森林の状況により樹木の成長の速さが違うということを示している。ここで注目したいのは、自然林の場合に熱帯雨林の生長速度が歓談地域の森林の成長速度のおよそ2倍であるということである。

 

5.  樹木の成長速度

森林の伐採については、森林全体の炭酸ガスの固定量を議論することは当然のことであるが、伐採しても植林をすれば、炭酸ガスの固定量は変わらないとする考え方にたいしては、伐採と植林との炭酸ガス固定についての効果の差を明らかなしなくてはならない。そのためには、いつ伐採するのか、そして、それ以後の樹木の成長がどのような速さで進み、森林の復元がどのくらいの年月で実現するのかを考慮しなければならない。樹木の炭酸ガスの固定量を推定することができるようになったとは言え、このような樹木の成長に応じた炭酸ガスの固定量の状況を実測した例はまだほとんどない。しかしながら、これまでに測定されたさまざまな実測地をもとに、樹木が生長の過程でどのような形で炭酸ガスを固定しているのかを検討することはできる。ここでは、このような考え方のもとに、熱帯雨林の樹木の成長と炭酸ガスの固定との相関関係を求めることとする。

 樹木の成長速度の観察については、まだ、調査が始まったばかりであるが、森林吸収源検討会がまとめた天城地方の杉林の調査による、炭酸ガスの吸収量は、林齢により図―16 のごとく変化する。これより、杉林では、成長期に沢山の炭酸ガスが吸収され、ある一定の樹齢になると今度は、炭酸ガスの蓄積が現象するということがわかる。また、この図からは、樹木が植林された直後の状況は良くわからない。

 

 

 

 

     

 

一方、只木らのまとめた熱帯林と杉林、ブナ林などとの二酸化炭素固定量の比較をしたものが図―17である。これから、熱帯雨林の場合には、炭酸ガスの吸収量が杉林のおよそ1.7倍であることがわかる。さらに、マレーシアのサラワク州で、日本製紙連合会により調査された植林地の成長量の結果は、表-2に示したとおりである。

さらに、熱帯雨林でどの程度に成長したものが伐採されているかについては、Cossalterらの報告がある。これによれば、温帯林などでは、1020年間隔で伐採が行われるのに対し、熱帯林の場合には、67年と報告されている。表―3に熱帯林がどの程度で成長するのかを示したが、これからも伐採が7年前後でなされていることがうなづける。また、成長の速さについては、温度差、ならびに、雨量の関係から、熱帯林の場合には、その成長速度は、温帯樹林に比べて、倍の速度で進行するといわれている。

図―16から、樹木の成長の早さが樹木の種類により違うことはわかるが、植林直後の成長の過程を調査した報告が、()兵庫環境協会からなされている。調査の対象は、モンゴルの森林についてのものであるが、これから植林後の木の成長の様子を伺うことができる。その様子を図―18に示した。この図から、樹木の成長は、植林後の数年は比重にゆっくりで、ある時期(温帯樹林の樹種の場合には、10年前後)から急速に成長が始まり、炭酸ガスの固定が仕切りに行われる。

以上のようなデータを元に、熱帯林の成長について、次のような仮定をし、その成長の度合いを図示すると、図―19のごとくなった。

1     樹木の成長の樹齢に対する変化には、類似性がある。

つまり、杉林も熱帯樹も同じようなカーブで成長する。

2     熱帯林の成長の早さは、温帯林よりは倍はやい。

熱帯林の成熟は、温帯林の半分の期間で進む。

3     熱帯林の炭酸ガスの固定量は、杉林の1.7倍とする。

4     植林してから、10年目までの樹齢による変化も同じような形になるものとする。

 

 

   ここで参考にした、さまざまな炭酸ガス固定のデータは、検討項目によりその単位も異なり、また、調査の方法にも差がある。この図は、こうしたことを念頭において、温帯林の杉林の成長の速度と、モンゴルでのアカマツの成長の速度をあわせ、これを熱帯雨林の炭酸ガスの吸収量と成長速度に換算したものである。したがって、熱帯雨林の樹木の成長の具合もこのように進むものとして、さらに議論を進めて行きたい。

 

6.  伐採による炭酸ガスの固定停止の意味

先にも述べたように熱帯雨林の伐採の間隔は5年から10年と非常に短い。したがって、この間の樹木の成長速度が非常に大事である。ここで、仮に8年ごとに森林の伐採が行われると仮定する     

と、その後の植林は、また、初めから炭酸ガスを固定することになる。こうして、本来であれば、10年目として吸収される炭酸ガスは、2年目の樹木に相当する分だけしか吸収されない。これを模式的に表現したものが図―20である。すなわち、8年目で伐採をすると、その時点で炭酸ガスの吸収の早さが、また、初期値にもどり、このため、本来、成長期で吸収されるべき炭酸ガスが樹木に吸収されなくなる。これが繰り返されれば、熱帯雨林での炭酸ガスの固定量が減少することは明らかである。

 

 

7.    木材伐採による炭酸ガスの固定停止の量

  図―20に表された炭酸ガスの固定量の減少がどの程度かを定量化すると、表―5のごとくなった。これから、8年間隔で伐採を繰り返す場合、15年後の炭酸ガスの固定量の差は、244CO2-t/haになる。また、15年後に二度目の伐採をすると、25年後の炭酸ガスの固定量の差は323CO2-t/haとなる。すなわち、本来であれば、大気中の炭酸ガスは固定されと炭酸ガス濃度が低下するはずのものが、固定されずに大気中にのこるということである。

ちなみにこれが合板一枚当りどの程度の環境負荷になっているかを計算すると、

 

 樹木の大きさ    φ 300 mm  20mh

  合板の利用率    50%

  合板の体積     12 x 600 x 1800  mm   =  0.01296

  樹木の占有面積    25 u

  1 ha 当りの樹木数  100 x 100 / 25  =  400/ha

 

  合板の枚数   1.413 *1.5 / 0.01296   =   54.5 /

 

 したがって、合板一枚の環境負荷は、

    15年ごとを基準とすると、 244t/(400 * 54.5 )  = 11.2 kg/

    25年ごとを基準にすると、           14.8 kg/

となった。

 炭酸ガスの固定量が少なくなるということは、これにより大気中の炭酸ガス濃度とが高くなるということであり、したがって、合板型枠を使用する限り、一枚当りこれだけの環境負荷がかかっていると見るべきである。

 これを大気の気温について考えてみると、模式的に大気中の温度が炭酸ガスの濃度により変化するものとし、その変化の具合を図示すると、図―21のごとくなる。この図は決して絶対的な数値を表すものではないが、相対的な比較はできる。これから、この図の25年間の平均を取れば、たとえば、伐採しない場合に、25年間の平均気温を10だけ低下させることができるのに対し、8年毎に伐採を繰り返していくと、炭酸ガスによる温度低下の効果は、5.2となった。このように、伐採を繰り返していくと、大気中の炭酸ガスの濃度が下がらず、大気の温度がより高い温度で推移することになる。

 

 

2.    大気中の炭酸ガスの濃度を下げるには

こうしたことから、大気中の炭酸ガスの濃度を下げるには短期間の伐採を繰り返すことは環境負荷を増大することになる。しかしながら、樹木の場合の炭酸ガスの固定の能力は、ある時点から樹齢を重ねるに従い、減少してくる。図―20からも容易に想像がつくように、25年目以降は、むしろ植林により新しい樹木を育てるほうが、炭酸ガスの固定量は多くなる。つまり、炭酸ガスの吸収の効率のよい成長期から熟成期まではできるたけ伐採せず、炭酸ガスの固定能力の下がり始めるときからは、逆に成熟期を迎えるような植林を進めるほうが炭酸ガスの吸収量は増大するのである。したがって、伐採は、商業的な意味合いからその間隔を決めるのではなく、樹木の成長の具合により、適当な間隔で伐採をするという、管理植林を進めることが重要であろう。

 

終わりに

  森林伐採については、炭酸ガスの固定という意味では、伐採という行為に炭酸ガスが発生するわけではないから、炭素の濃度をあげるような環境負荷はないとするような意見が聞かれる。たしかに、その行為だけでは、炭酸ガスの発生はない。しかしながら、自然界においては、森林は炭酸ガスを吸収し、これを取り込むことにより、大気中の炭酸ガスの濃度を下げているのである。この機能は、炭酸ガスの濃度上昇を阻止しているという行為であり、この機能を壊してしまう(伐採という行為により)ことは、大気中の炭酸ガスの濃度を減少させようという目的からすれば、まさに、炭酸ガスを発生するのとまったく同じ効果であり、意味である。ここでは、この事実をできるだけ定量的に説明しようと試みた。扱った数字が、まったく熱帯雨林そのものではないというご指摘はあるかも知れない。しかし、それは、今後に事実を積み上げていけばよいことである。ここで指摘したいことは、炭酸ガスの固定を阻害するということが、大気中の温度を下げる効果をなくし、それが、ひいては、地球の温暖化につながるということである。これまで、定量的に議論することがなかったが、ここで述べたような方法により、森林伐採行為をLCAという環境負荷の評価という手法のなかで取り扱えるのではとおもう。この一考察がその時に一助になれば幸いである。

 

参考文献

 

1)  Charlene Watson, “ Forest Carbon Accounting: Overview & Priciples”

2)  A.I.Hirschら、”The net carbon flux due to deforestation and forest re-growth in the Brazilian Amason; analysis using a process-based model”, Global Cange Biology (2004)  10, p908

3)  Y.Malhi et.al, “ The carbon balance of tropical, temperate and boreal forests”, Plant, Cell and Environment (1999) 22, 715 - 740

4)  Christian Cossalter and Charlie Pye-Smith, 「早生樹林業」 神話と現実より

5)  只木良也 「森の生態」

6)  日本製紙連合会 「平成19年度産業植林敵地発掘などに関する調査事業」報告書