ホームページ 環境問題

 

カーボンニュートラルを考える

 

熱帯雨林の伐採により、森林資源が破壊され、その地域に生息する生物の絶滅ばかりでなく、森林の炭酸同化作用が停止し、これにより大気中の炭酸ガス濃度のバランスが崩れ、その濃度が上昇し、これが原因となって気象の温暖化がすすみ、われわれの住んでいる地球全体の環境が破壊されていくといわれている。こうしたことから国連では、地球温暖化防止のために、世界中の国々が一緒になって、大気中の炭酸ガスの濃度の上昇を防ぐために、各国が努力目標を立てて、炭酸ガス排出につながるような活動を進めて行こうとしている。その中で、大気中の炭酸ガスの濃度を一定に保つには、我々の生活のなかでの排出する炭酸ガスの量と、地球上の植物が吸収してゆく炭酸ガスの量を同等にする必要がある。これがいわゆる「カーボンニュートラル」の基本的な概念である。

森林における炭酸ガスの吸収が、化石燃料に起因する炭酸ガスの排出が同等であることが努力目標であるにも係らず、「森林の伐採により確保した木材の燃焼活動は、これはもともと大気中の炭酸ガスを吸収した再び、大気中に戻すものであり、吸収と排出は同じであるので、大気中の炭酸ガスの濃度は上昇するわけではない。従って、森林の伐採をしてもこうした行為は、炭酸ガスの濃度の上昇にはつながらない。」との解釈がまかり通っている。

しかしながら、カーボンニュートラルを定義している国連は、

カーボンニュートラルには3つの大きな問題点があると指摘している。

1つ目は、(カーボンニュートラルの)植物由来の燃料を作って利用したとしても、「製造・輸送の過程で少しでも化石燃料を使えば排出量が上回る」こと。2つ目は、カーボンニュートラルには再生力(再生性)が必要なこと。3つ目は、土地の問題である。カーボンニュートラルを拡大して、化石燃料・原材料を植物由来燃料・原材料に転換していくと、植物を育て保全するための広大な土地が必要になる。国家レベルでのカーボンニュートラル(後述)に必要な面積はカーボンフットプリント(エコロジカル・フットプリント)で表すことができる。例えば日本では国土面積の約7倍にあたる269.7haが更に必要だとされている。世界全体でも現存の耕作地・牧草地・森林の合計面積の1.2倍にあたる1.06ghaが更に必要だとされている。 本来ならば現在過剰に排出されている量と同じ量の二酸化炭素が吸収できるように植樹するなどして、国家あるいは地球全体で二酸化炭素の排出量を吸収量で相殺することが、真の意味でのカーボンニュートラルである。すなわち、伐採行為は、カーボンニュートラルとは、全く異なる次元の話なのである。因みに、「木材を燃やす行為は、もともと大気中の炭酸ガスを吸収したものであるから、これを元に戻しているだけであり、大気中の炭酸ガスの濃度を上げてはいない。」と言うことで、森林伐採にたいして、カーボンニュートラルは保持されているとするなら、これは、森林伐採を無限に行なっても大気中の炭酸ガスの濃度を一定に保持できると主張しているようにも思える。そんなことにはならないことは明白だ。

また、森林の伐採に対しては、植林をすれば、森林の炭酸ガスの吸収は繰り返し進行し、これを木々が生長してから伐採し、生活材料として使用し、何十年か後になって廃棄し、燃焼しても、排出する炭酸ガスは、もともとは樹木が大気中から吸収したものであり、これを大気に戻すだけのことであるので、炭酸ガスのバランスは取れている。従って、森林の伐採は再び植林をしておけば、炭酸ガスの濃度上昇にはまったく問題ないはずとの考えも聞かれる。

しかし、植林により、樹木が生長するには時間が必要である。つまり、炭酸ガスの濃度を議論する場合には、この時間の概念を考慮する必要がある

筆者は、先に樹木の成長速度を炭酸ガスの吸収という観点から数式化を進めてきた。樹木の成長が炭酸同化作用によるものであるとの考えから、炭酸ガスの吸着という概念を導入し、熱帯雨林、温帯での樹木、そして、寒冷地での樹木については、同一の式で表現できることが明らかになった。しかも、この数式は、草や植物の成長速度として知られているRichardsの式に類似している。つまり、樹木の成長は、草や植物の成長と同じような反応が律速反応として含まれていると考えられる。このようにして求めた式に従い、森林の伐採が大気中の炭酸ガスの濃度変化にどのような効果を及ぼすかを考察してみたい。

樹木の成長速度

 世界の各地の森林における樹木の成長に関しての実測データより、炭酸ガスの固定量の経年変化を整理し、これより熱帯林の成長と炭素固定能力について次のような仮定をおいた。.

 

 @ 樹木の成長の樹齢に対する依存度は、類似性がある。

   つまり、杉林も熱帯雨林も同じような成長カーブを取る。

 A 熱帯雨林の成長の速さは、温帯林のおよそ2倍である。

   熱帯雨林の成熟は、温帯林の半分の期間で進む。

 B 熱帯雨林の炭酸ガスの固定量は、杉林の1.7倍である。

 

これに基づき,熱帯雨林1ヘクタールあたりの炭素固定能力を次の式で表現した。

@植樹、あるいは、発芽してから成長期まで

 

A 成長期 炭酸同化作用により炭酸ガスが固定   

樹木による炭酸ガスの固定量 Ctは、

   成長期まで   

         成長期        

ただし、ここで  

    Ct ;  樹木による炭酸ガス固定量(累積)

Ci ;  成長期までの炭酸ガス固定量(累積)

 

 次の図は、、このようにして得られた熱帯雨林の樹木の成長速度式をもとに作成したものである。

この図では、樹木はある植林してからある一定期間は、極めてゆっくりと成長するが、これを過ぎると、急激に成長がはやまる。熱帯雨林の場合には、この誘導期間は数年である。その後、成長期に入り、急激に成長し、その間に相当の炭酸ガスが吸収される。熱帯雨林で合板の製造のために伐採される樹木の年齢は78年といわれる。伐採のあと、植林がなされ、再び、同じような過程で炭酸ガスが吸収される。樹木が伐採されずに炭酸ガスを吸収して成長していく場合と、伐採により植林されて、またこの炭酸ガスの吸収曲線を辿る場合との累積の炭酸ガスの吸収量との差が、すなわち伐採による炭酸ガス固定量の低下であると考えられる。これが、森林伐採の炭酸ガスの固定量が減少する現象である。

合板型枠の場合には、伐採された樹木は早い時期に加工され、型枠材として使用され、しかも、木材に含まれるリグニンという化合物が、セメントの強アルカリ性により分解されるため、合板の強度が低下し、数回の転用がなされたあと廃棄され、燃焼される。つまり、極めて短時間のうちに、炭酸ガスとして大気中に放出されるわけだ。この期間は樹木の生長時間からすれば圧倒的に短い。こうした時間軸という考え方で炭酸ガスのバランスをとると、熱帯雨林の樹木から製造される合板型枠の場合には、カーボンニュートラルという概念は全く当てはまらいと言うべきだろう。燃焼処理されることにより排出される炭酸ガスの量は、合板の環境負荷としてカウントすべきであることは明白だ。

                        (鈴木 記)

 

角丸四角形: Carbon Neutral の正しい理解

 

  Richards の式を適用した樹木の成長度合いから、Carbon Neutral を考察した。