■古式捕鯨が分かる「納屋手歌」

<なやてうた・納屋手歌の歌詞>

1.夫組(そのくみ)は 冬組春浦(ふゆぐみはるうら) 勢美(せみ)座頭(ざとう)

2.長須(ながす)児鯨(こくじら)花出しや

3.子持連魚(こもちれんぎょ)白長須(しろながす)

4.勢子持(せこもち)に立羽立(たちはたつ)     (注:挟子持・子持の資料もある)

5.七尋物(ななひろもの)に雑物(ざつぶつ)や 

 

6.扨(さて)名所は数多し            (注;名所の資料もある)

7.觜(はし)(さえずり)に山臚(さんりょ?)

8.衣(ころも)黒皮(くろかわ)(しき)胴身(どうみ)

9.赤身(あかみ)(はらわた)(ほね)(すじ)(ひげ)

10.立羽(たっぱ)尾刷毛(おばいけ)とう[*革ヘンに「堂」]握(にぎ)

 

11.咽輪()たけりに貝(かい)の元(もと)から肝(きも)までも捨(すて)りなし

12.旦那(だんな)手代(てだい)に別当役(べっとうやく)

13.帳役(ちょうやく)若衆見習(わかしゅうみならい)

14.勘太郎(かんたろう)(おい)を最初也(さいしょなり)

15.親父(おやじ)役人(やくにん)惣支配(そうしはい)

 

16.勢子(せこ)の羽指(はざし)に持双(もっそう)や 流し沖番水主(かこ)の者

17.舳押双海(へおしそうかい)行列は 山見(やまみ)注進(ちゅうしん)天秤(てんびん)

()の模様に 依(より)そかし   (注:「勢子(せこ)が「責子」の字もある)。

18.手柄仕勝(てがらしがち)の羽矢(はや)(よろず) 一・二の銛(もり)は大事なり

19.剣切(けんきり)手形(てがた)仕課して 頭漕(とうそう)より浜(はま)までは

20.誠(まこと)に勇ミ敷(いさみしき)(はたらき)なり 浜は大納屋(おおなや)西東

 

21.勘定(かんじょう)樽屋(たるや)道具納屋(どうぐなや)

22.鍛冶屋(かじや)大工(だいく)に釜懸(かまがかり)

23.大切(おおぎり)小切(こぎり)煎粕(いりかす)

24.魚切部屋(うおきりべや)の飯焚(めしたき)

25.田島(たじま)の納屋(なや)の前細工(まえざいく)

 

26.小取(こどり)日雇(ひやとい)に立番(たちばん)

27.夜廻(よまわり)不寝(ねず)の大鼓番(たいこばん)

28.轆轤場(ろくろば)虎落(もがり)内札()は 坪場(つぼば)魚棚(うおたな)苫塵(とまちり)

29.呉竹杭(くれたけくい)に縄筵(なわむしろ) 船は碇(いかり)()(かじ)(はしら)

30.持双柱(もっそうはしら)八挺櫓(はっちょうろ)

 

31.手柄褒美(てがらほうび)の羽指歌(はざしうた)

32.関東胡麻(かんとうごま)の誥出し(たけだし?)

33.道具(どうぐ)浜売(はまうり)仕替物(しかえもの) 実に蓬莱(ほうらい)の山そかし

    

<なやてうた・概要説明>

1.漁期 :春浦、鯨種は背美鯨・座頭鯨・長須鯨・克鯨(注:漢字は当て字あり)

2.「花出しや」ははでで、はなやかなこと、輝き、栄えということか。

ヒゲクジラ類の数種は南北の回遊をする。北への摂餌回遊、南への

繁殖回遊。種類で動きの違いはあるが移動の道筋が若干異なり

漁場も替わり冬浦・春浦と云われた。繁殖域と摂餌域への季節回遊という。

3.子持連魚は子どもを連れた鯨、親子二頭捕獲できて好漁。白長須鯨

4.勢子持とは子を挟んだ双親と子鯨のことか?  

立羽立とは鯨の交尾をいう。胸鰭を立てて横泳ぎ腹部を合わせるためか。

5.七尋物とは大きい大背美鯨のこと、雑物(背美鯨以外は雑鯨と云われた)

座頭鯨は雑鯨の中でとり易く美味しい頭(トップ)の鯨と云う説もあり。

 

6.大切の切断部分の名称。

7.觜は口ばし・下顎部、囀は舌、山臚は一ノ山・二ノ山の総称か

上顎頭部皮を「山の皮」という

8.衣は僧侶の僧衣に似た黒皮の総称か、黒皮の大切部分、

敷は腹部の皮部分、胴身は胴の部分

9.赤身は赤肉部、臓は内臓、骨、筋は筋肉部の筋

髭は鯨ヒゲ板で上顎に400枚位ぶら下がる歯に代わる餌取ヒゲ

10.立羽は胸鰭、左右二対。 握りは胴と尻尾の間の最も細い部分、

尾刷毛は尾鰭部・尾ヒレは尾骨以外に骨はない。食べる部分はテイラと呼ぶ。

 

11.のど輪は咽管、たけりは雄の生殖器、貝の元は雌の生殖器、肝は肝臓

棄てるものはないという。

12.旦那は組主、手代は主人から委任された範囲内で、営業上の代理権

をもつ使用人、別当役は支配人

13.役職名で、帳役は帳簿付けや記録をする経理係か、若衆見習

14.勘太郎〈間太郎)は「カラス」とも云われ、肉をくすねる泥棒のこと、

監視、追払う人が若衆見習から始るのか。追い払う姿が絵にも描かれている。

15.親父は社長・船頭など、役人は藩から派遣された役人、惣支配は総支配人

 

16.鯨を追い銛で取る勢子舟の船頭は羽指と云った。(刃刺は当て字が多い)

波座士・刃刺など。捕鯨では危険な作業をするが尊敬される花形役である。

持双舟は鯨を二隻の船に間に挟み吊るして浜に運ぶ船、4艘がいた。

流し沖番は沖に停泊して鯨を見つける船である。水主は舟乘り、水夫のこと。

17.双海船とは鯨を囲い二隻の網船が組になって網を仕掛ける船。6隻。

舳押とは船を操る艪梶を押す役(轤押(ろおし)は船を操る轤櫓を押す役?)

3組あり鯨の前に三重、横は二重、後ろは一重に張った。

山見は高台の山から鯨を見つける小屋、数カ所に設置されていた。

    注進は捕獲等を早く連絡する舟、天秤は棒バカリで重さを測る人達か。

    麾はさしまねく 軍を指図する旗。さしずばたで船により模様が違った。

18.手柄仕勝は競いあって勝つこと。一番初めに命中した銛が大事という。

銛にはやや軽い早(羽矢)銛と大型の重い万(萬)銛があり、

命中した一番銛が名誉とされた。一船2本投げ一・二の銛が大事と云う。

19.剣切はほぼ止めを刺す剣、多くの剣で突き弱らせる、次に刃刺が手形包丁

で鯨の鼻に穴を開け綱を通す、後持双船に挟み込む。最も危険な作業である。

刃刺が行い、頭の結髪は気絶しても上げ易く結ったという

現在の大相撲の力士の髪と似ている。

20.出だしから基地に帰るまでの勇壮な部分を表現している。浜の西東に拡が

大納屋は基地の全体をいう。いくつもの納屋や建物が広範囲にあった。

 

21.勘定は本部事務所、樽屋は油や水や物を入れる樽工場、

道具納屋はあらゆる捕鯨道具をつくり保管する場所

22.鍛冶屋は銛・剣・包丁などを作る鉄工場、大工は納屋本体・船・道具

等を作る所、釜懸は鯨油を煮てとる精油所の担当

23.大切・小切への皮・肉などを解体、流通しやすく加工する。

釜で油をとったあとに煎粕は食料や・肥料・飼料にされる。

24.魚切部屋は更に細かく区分される。飯焚は全体の賄場所。

25.田島納屋の前細工とは出漁前のあらゆる捕鯨道具の製作保管場所

船・漁具・網・網・などなど、製作・修理・保管・出し入れを行う

 

26.小取はちょっとした仕事、日雇は日雇い仕事、立番は見張りなどか

27.夜廻は警備役、不寝の大鼓番は時間、交代、行動の連絡か

28.轆轤場は鯨を引き寄せる、解体部分を引き寄せる人力ウインチ、

いくつもの轆轤が設置されていた。轆轤は神樂さんともいう。

虎落とは竹を筋違いに組み合わせ、縄で結び固めた柵 ( さく)

内札とは案内板・注意書き・標語板のことか?

坪場は鯨油置場、樽詰め場、魚棚は皮・肉置き場、苫塵は不用品置場か

29.呉竹で作った杭、縄を編んで作ったむしろ、碇は錨・アンカー

「呉竹」は淡竹の異名のこと、竹は縁起の良いものとされ、

漁具(連絡用の幟(のぼり)旗や印(しるし)旗を立てる棒・

采配(指揮棒)の柄)などに使われた。 多くの鯨唄に竹・印竹が、

目出度の松とともに見られ唄われている。

帆は船の帆、梶は舵、柱は帆柱、持双柱は鯨を挟んで吊るす大柱

30.八挺櫓は勢子舟を漕ぐ櫓で一隻に八本使ったのでこう言われる。

 

31.手柄・褒美の祝の羽指歌とは羽指などが太鼓をたたいて鯨唄を

唄う踊る祝宴図(画像参照)が多く残っている。各地に祝唄があった。

羽指(はざし)には多くの当て字がある。羽刺・羽指・羽差・刃刺・

波座士・波刺などの字が用いられている。

32.北関東の金胡麻は小粒だが美しく、味がよいことで知られている。

黒・白・茶(金)の3種の胡麻があり、金色で美味いと云うことか?

33.各種道具類・浜商売出店・仕替物とはやりなおすこと。とりかえる。

また、古いものを直す。の意味がありリサイクル品・中古品?

蓬莱は目出度いもの・目出度いことのことか、お目出度いものが

山のようだの表現!!!!!!

 

         (注)若 松 様 と は 

 http://www.catv296.ne.jp/~whale/kujira-iwaiuta.html

(令和元年610日)