中国の罰金

  長白山に行った時、トイレが見つからないので、林の中に入って用を足していたら、突然田舎風の若者が表れて、何か喚きだしたのである。その頃、中国語は殆ど理解出来なかったが、中国の生活には少し慣れていたので多分罰金を要求しているのだろうと考え、お金を出せば問題が解決すると思い、10元を出したところ15元位を取られた。小用を足している途中でその様な事になったので、出るものも出なくなってしまったが、お金を出しさえすれば、問題は直ぐに解決したのである。勿論領収書は貰えなかった。

  この様に、中国では、普通の服装をしている、若者や小父さん、オバサンが罰金を要求するのである。しかもその場で現金で徴収する。領収書をくれる場合もあるが、くれない場合もある。ツアーで行く場合は問題が起きることが少ないと思うけれども。観光地の山の中で煙草を吸ったり、紅葉の枝を折ったりすると思わぬところで罰金を取られることもある。私の別の経験では、太原の駅前の柵を乗り越えたら、やはり突然表れたおばさんに10元を取られてしまった。又その駅では、汽車に乗り込む列に割り込む人を見つけたて罰金を取っていた。

  中国では列を作らず、我先に汽車の改札口などに殺到するから、強制的な罰金によって庶民の教育をする必要は大いにあると感じたのである。しかしその取締が中国では、一時的なものであるので、効果が薄いのではないかとも思えた。中国では新しい法律が次々と出来ている(中国はもともと法治国家ではなかったので)が、取り締まりはキャンペーン期間だけであったりする。それなので取り締まられる側の人はその間だけ注意をしていれば過ぎてしまうといった雰囲気もある。これでは罰金を取られても、運悪く捉まったと思うだけで、罰金による教育効果は少ないのではないかと感じられた。

  1993年頃のこと、北京のことであるが、田舎からのお上りさんが煙草の吸い殻をポイと捨てたところ、塀の側になんとなく佇んでいたようなオバサンが突然その男に近づき、何か喚きだした。これは普通のおばさんがスパイの様に監視していたのである。そのお上りさんの男は吸い殻を回収すれば罰金を払わなくても済むと考えたのか、自分の捨てた吸い殻を探し始めた。しかし勢いよく捨てたせいか、なかなか見つかず、困り果てていた。この様な取締りも、前に書いた様に、正月前の前だけ恣意的に行われりする場合が多いのである。普段いいかげんであるところが、突然厳しくなったりする。

  中国の罰金で傑作なのは、金額に巾があることである。壁にも違反すると罰金20元〜40元などと書かれている。この様に書くと日本の法律でも1万円以下の罰金と書かれていて、巾があることは同じだと言う人がいると思うが、実態は全く別の様である。この罰金の巾は反抗的な態度を取ると20元で済むところが、40元になるのだとか。

 それにしても警官や公務員風でない人が罰金を現金で徴収するのは、日本の習慣からすると、チョット奇異な感じがする。徴収した現金はしかるべきところに行くのであろうか? かなり疑問に思えた。そう言えば、中国では、交通違反の場合でも、警官が現金で徴収することがある。その場合現金がなけば、免許証をその場で取り上げてしまったりもする。私が見たのは自由市場で商売をしている人で場所代を払っていない人に対して、竿秤を取り上げているの見たこともある。罰金を取るにしてもかなり強圧的であり、権力を持ている側と、そうでない人の関係がハッキリ見える様であった。そして中国では罰金を取るといったようなシステムでも、まだまだ制度的に成熟していない様であった。これでは庶民は、捕まった人は運が悪いと思うだけで、順法精神は生まれないのではないかと思えた。