中国の税金

  殆どの人は税金が少ない方がよいと思っているに違いない。ましてサラリーマンであれば、源泉徴収とやらで、収入の100%を隠すことも出来ず、強制的に税金を徴収される。面白くないと思っている人もいるかもしれない。しかし中国の現状を見てからは、少なくとも税金が無い方がよいなどとは言えないと思った。かっての中国の共産主義社会では"会議は多いが、税金は無い"と言ってその制度のすばらしいさを誇っていたのであるが、現実はどうかと言うと、河川の堤防は無いところが多いし、農村部の学校の校舎も満足ではない。

  中国では公共的な費用負担の多くは、国営の企業などの組織が負担していたのである。企業や大学は"単位"と言われるているのでるが、その"単位"が住宅や幼稚園、病院、果ては風呂でさえも自給自足の形で供給していた。現在でも年金は"単位"が退職者に対して支給するのである。この様な方式では、大きな"単位"に属する人はいいが、衰退する企業や退職者が多い企業では、福祉に回す金が当然不足することになる。企業の無い農村部では都会並みの恩恵に浴せないのは明らかである。

  そして"単位"内の自給自足では解決出来ない場合には、"単位"に対して勤労奉仕の割り当てがあった。私が見たものでは雪が降った翌日に、吉林市の"単位"に道路の雪かきの動員令がかかり大勢の市民が一斉に雪かきをする光景が見られた。当然農村部では道路や堤防の補修の勤労奉仕も有るようであった。

  この様にして、かっての中国では税金が少なくても、別の手段で対処していたのであるが、この方法では国全体の運営が巧く行くはずがないのである。にもかかわらず最近になっても、税金を巧く徴収出来ないから、税金が回って来ないので、到るところで金が足らなくて困っているらしい。その為あらゆるところで、何かの名目で金を徴収しようということになる。その現状は中国の新聞を見ればよく分るが、特に酷いのは農村部であるらしく、税金以外のお金の徴収を少なくしようというキャンペーンや投書が新聞に非常に多い。とにかくなんだかんだとお金を取られるらしい。収穫物の保管費、買上げ事務処理費、水路修理費、勿論道路の修理負担金等など、次から次へと徴収費目を考えてお金を取るらしい。 勿論、企業も徴収の対象になる。、長春の5つ星級のシャングリラホテルが開業した際には、18回も次々と同じ様な所から検査に来て、検査料や、許可料を取っていったとか。

  中国の西域の貧しい地区では、未婚の青年にさえも計画出産の管理費を徴収しているなど笑い話のような話もある。食堂に対しては一年に数回も、調理器具の検査を強制的に行い、その都度検査費と称して費用を徴収するとかなどである。国営の鉄道でさえも、或る所に荷物を送るのに、運賃の二倍もの手数料や管理費を徴収されたとか。勿論学校でも結構お金を取られる様である。テストの採点費というのもどこかで見たことがある。

  私自身の経験でも、或るホテルに泊ったところ、その都市の施設の利用することになるとかで、その都市の設備費用らしきものを取られたこともある。ホテルの宿泊費とはあまり関係がない様な教育援助費みたいなものを取られたこともあった。自転車を購入したので、登記所に行ったところ登録料の他に、三つもの他の名目の費用を取られた。そのうちの一つの費用に付いては、領収書も貰えなかった。その金額は一元とか二元位でほんの僅かではあったが。

  新聞のキャンぺーンでは、やたらに金を徴収するのを止めるように、政府が呼びかけているが、地方政府や農村では資金が無いから、止めるわけにはいかない様である。中国の新聞ではこの現象を"乱収費"と表現しているが、実際にやたらに金を徴収していて、乱れていると言った感じのようである。

  それでいて、税金を徴収する制度や、組織はまだまだの様である。少し古い話であるが、個人から税金を徴収する係は、税務署の中にほんの数人しかいないとか新聞に書かれていた。中外合資の会社の、高収入のサラリーマンに聞いても、税金を払ったことが無いと言っていた。中国の徴税の担当者がテレビで言っていたが、西側の国は徴税に付いて100年以上の歴史が有るのに、中国では20年位(正確に記憶していないが)の歴史しか無いと嘆いていた。特に日本の源泉徴収制度はうらやましいとも言っていた。共産主義には所得税と行った概念も無かったのであるから、徴収する制度も進歩しなかったのである。

  そんなことから中国人は税金を払うことに慣れていない。贈与税や子供に遺産を渡すときの税金も無いらしい。日本の方がよほど社会主義的で、金持ちが出来ない制度になっている。おまけに知合いを通じて、税金を何とかしてもらうと、何とかなってしまう環境がある。であるから何としてでも税金を払いたくない人が多いようある。これも少し古い話しであるが新聞に載っていた記事を見ると、ある税務署長が、税務署員が真面目に働いているかどうかを監督する為に、"酒店"を視察して歩いた。そうしたところ、どこの"酒店"を訪ねてみても、署員が飲み食いしている所は無かったので安心したと書かれていた。我々から見ると、有ってはならないことが実際には多い事を推測させるような記事であった。私が居た公司に監査に来ていた公認会計士みたいな人は、監査の期間中、昼間から宴会料理を毎日会社からご馳走になっていた。

  一般の庶民の中には、徴収された税金が公平に使用されているかと言う点においても、不信感を持っている人が日本よりは相当多いようであった。しかし中国の現状をみると、やはり払うべき税金は払わなければならないと感じたのである。