心理的な距離

  人と人の付き合いの間には、何らかの心理的な距離が存在する。この距離が中国人の間と日本人の間では、かなり違いが有るように感じられる。日本人の場合だと、あまり親しくない人でも、挨拶くらいはすると言う関係が有る。一方友人と言えども、あまりにベターっとはくっ付きたくない気持ちも日本人にはある。中国では、この中間の距離の付き合いが極めて少ない様に感じられた。その様なことから、少し知り合ったくらいでは、挨拶は交わさない様であった。中国では形式的な挨拶は日常的な生活では極めて少ない。私の周りでやたらに、今日は、さようなら、有り難う言うのは、日本人を含めた外国人だけであった。日本人に取っては、中国人はチョット知り合いになった程度では、挨拶もしないので冷たく感じる場合もある。

  一方中国では、付き合いが深くなると、いきなりその距離が近づいてしまう。何時の間にか懐にまで飛び込んでくる様な関係を求められる場合も有る。そうなると日本人にとっては、プライバシーも無くなってしまう感じになるかもしれない。私が、腰痛で病院に入院した時、付き添いのおばさんを頼んだ時の経験からもそう言える。私が居た病室は、そのおばさんと、昼間ぶらぶらしている人の溜まり場になり、次から次へと私を見物に来るようでもあった。収入は幾らか、結婚しているか、などとプライベートなことも聞かれた。そして日本の週刊誌(ヌードの写真が載っている)や手帳まで見られてしまい、慌てたこともある。そして中国語を習ったりしてあまり親密になると、日本へ連れて行ってくれと言い出しかねない様な一抹の不安もあった。

  中国では家族の間の心理的な距離も、その距離がかなり近い様である。私の経験でも、一家が一団となって外の敵(別の家族とか会社)に抗議に来たケースを見聞したことが有った。その様な場合、日本より中国の夫婦関係は一心同体の感じがした。又別の、一家が団結して外敵に当たる例では、別の家族の悪い噂を言い立てる話も聞いたことがある。この様な例は、日本にも無いわけではないが、日本よりもっと攻撃的な感じもして、運が好かった人に対しての、妬みが混じってそうなるのではないかと思えた。家族の団結が強いのはいいが、親しくない人との関係では、結構住み難い社会なのかもしれない。

  夫婦の間にしても、あまりにその距離が近すぎて、夫に対する要求が多くなるのでは、中国の男性も大変だと思えた。日本人にとっては、夫婦といえども、あまりに近づき過ぎる関係は、息苦しい様に感じるのではないかと思うのであるが。中国には「亭主は元気で留守が良い」という感情は公式には無いとのことであった。