中国の騙しのテクニック

  中国でよく聞くだましのテクニックがある。この手の話しは中国人からよく聞いたが、以下に記す方法は特に有名らしい。また新聞紙上で再発見してしまった。

  人通りがあまり多く無い道を歩いていたら、前を行く人が何か包を落としたのに気がついた。その人を呼び止めたのであるが、気が付かない様子で急いで行き過ぎてしまった。そこでその品物は何だろうと思い拾い上げたところ、急に横から別の男が出てきて、「大事なものらしいので、中を覗いてみよう」などと言うのである。拾った当人は、警察に届けるべきと言ったのであるが、脇から出てきた男は、強引にその包を開けてしまう。
すると案の定、高価そうな金の指輪が出てきたのである。おまけに或る国営企業の局長名前で、「この指輪は貴方の長年の労に報いる為に、表彰の一環として与えるものである」と、表彰状の様なものまで入っている。更に金の指輪には、ご丁寧にも高額な値段票も張り付いている(中国ではプレゼントをする時に、高価なものであることを示す為に、値段票を付けておくのは当たり前らしい。この部分も中国らしいのであるが)。
それを見た脇から来た男は、「これは高価な物だ。二人で山分けしよう」と言うのである。
「山分けすると言っても、指輪を二つに分けるわけにはいかない。貴方にはこの高価な指輪をあげよう。その代わり、私は貴方が持っているだけの現金を貰えばそれで十分だ」と殊勝な提案をするのである。
ここまでの話で、このだましのテクニックが分らず、この指輪で一儲けしようなどと、甘い話に引き込まれてしまえば、貴方はもうだまされたと同然である。勿論この金の指輪は偽物である。

  この手の、二人で組んだ詐欺話しは、様々なバリエーションがあって、落とし物は当然分厚い財布でもよい。しかしその中に中国の"元"が入っていたのでは、山分け出来てしまうので、相手の財布から現金を出させる訳にはいかない。そこで、アメリカドル札等を入れておくのである。ドル札であっても山分け出来てしまうのであるが、ここでは話を一ひねりして、横から出てきた男は、実は外地人(田舎から出稼ぎに来ている人)であって、身分証を持っていないことを打ち明けるのである。「身分証を持っていないので、ドル札を中国元に替えに行くわけにはいかない、だから貴方が両替に行って下さい。両替したお金は全部貴方にものにしてよい。私は貴方の持っている現金だけを貰えば十分だ」と甘い話しをするのである。このドル札は当然なことであるが、贋ドルであることに、気が付いただろうか。

  このケースの場合、最初に包、又は財布を落とした男は詐欺グループの仲間である。この様にして、二人、又は三人で組んで相手の財布から現金を巻き上げるテクニックは、同じ様な筋書きで、多くのバリエーションがあり、私の中国滞在中に同じような話を何回か聞いたことがある。新聞でも何回か同じような記事をも見たことがある。場所は路上に限らず、バスの中や停車所などを舞台にして、だましのお話が展開される。相手を信じさせるシナリオを、二重三重に用意して、バスの中の複数の乗客を、同時に罠に掛ける術もある。しかしいろいろなバリエーションがあっても、どこか共通点が有る。それは相手の金を儲けたいと心を擽った上で、騙す側の男が「私の取り分は、貴方が現在持っている現金だけを貰えば、それで十分だ」と言う点は共通している。

  日本でも中国でも、そんなに巧い話は転がっていないのは同じである。それなのに何回も騙された話が新聞に載る位であるから、同じ様なテクニックで騙される人が多いに違いない。中国人の様子を横から見ていると、買い物の場面などでも、偽物などで騙されないようにかなり用心してるのがよく分る。それにもかかわらず騙されてしまうのは、金儲けのチャンスを狙っていて金に目が眩み、却って騙されるてしまう人が多いのではなかろうか。