中国人は冷たい物が嫌い

  中国に滞在していて次第に分ってきたことは、中国人は冷えた食べ物や、生ものは嫌いらしいと言うことである。嫌いと言うより恐れていると言ってもいいかもしれない。やはり原因は衛生状態と関係があるのではないだろうか。火を通してないものは不衛生であって、妙めたものなら安心して食べられると言うことらしい。それならぱ衛生の点で問題の無いと分かっている、冷たい食物はどうかと言うと、やはり習慣的に受付けないらしい。例えばコンビニで売っている、あのお握りでさえも嫌いだと言っていた(日本に滞在している)中国人がいた。冷たいものを恐れるというのは、病気になる事を恐れるだけでなく、"養生訓"のような中国人の伝統的な考え方にも関係しているかもしれない。多分小さい頃からなま物、冷えたものは体に悪いと教えられて、育った人が多いのではないだろうか。日本でも夏に冷たいものを食べ過ぎるな、と言われることはある。しかし中国人の用心深さとは相当程度が違う。そして中国人は、怪しげな漢方薬の効果を信じているのと同じように、食べ物に対してタブーみたいなものが多そうであった。だから中国人はお握りを貰っても困ってしまうのである。まして初めてなま物の、刺身を食べるなどの場合、相当勇気が要るらしい。

  実際、中国のあるところの環境では、なま物は食べないほうが安心という状況はあった。その様な環境での調理だから、中国調理は何でも炒めてしまうらしい。実際に中国料理ではトマトやキュウリでさえも炒めて食べる。

  中国人に滞在していて困ったのは、冷たいビールが飲めないことである。ビールは冷やしては飲む必要がない、もっと言えば、冷えたビールは体に悪いと信じている中国人は多いらしい。勿論中国の大都会のレストランやホテルでは、生ビールが飲める。そこでは大勢の中国人が冷えたビールを飲んでいた。新しい食文化に慣れた人が、多くなってきたことは事実である。しかし街の小さな食堂で、餃子を食べながらビ−ルを飲もうとすると、ピ−ルが冷えていないのである。いわゆる"小吃"と言われる手軽な食堂で、餃子をつまみにビールを一杯というときのビールは生ぬるいのである。中国の"小吃"には餃子だけではなく、シュウマイや小龍包子など結構旨いものが在る。それなのにビールは冷えていない。しかし中国では、ビールが主役で、餃子がつまみなどと言った発想は無いかもしれない。何しろ餃子は重さで注文して、山のように積み上げて食べるものであるから。ビールはこの場合脇役である。

  それにしても長距離列車の食堂車でも、冷えたビールは飲めなかった。中国の習慣を知っているとは言え、冷たいビールが飲めないことは腹立たしかった。その腹立ちを誰にもぷつけるわけにもいかないから、また困るのである。そう言えば高級ホテルでも冷えたビールが飲めなかったことがある。吉林市第一のホテルで、大学からの招待のクリスマスの晩餐会があった時のことである。零下20度の外の寒さのさなか、暖房の効いた豪華な部屋で、最高級の料理をご馳走になった。なのに冷えたビールがない。冷えたビールを所望したら、氷をビールの中に入れてくれた。そのホテルのロビーの側のバーでは、生ビールが冷えているのに、ニ階の特別室にではサービスされなかった。又、別のホテルの外国人の為の歓迎会では、接待の女性がホステスが、ビールをワイングラスに半分くらいしか注いでくれなかった。好きなビールのことだけに、恨みがましく、つまらないことまで覚えているものである

  nビールでは、はなかなか冷えているビールにありつけないのであるが、生ビールは専用の機具で冷やして飲むから、当然冷えている。それは高級ホテルやレストランに行けぱ飲める。但し値段は瓶ビールの5倍位もして高い。庶民にはチョット高すぎるようである。しかし瓶ビールでも、都会では冷えものを売るところも多くなってきてはいる。西欧的な食習慣に慣れた都会の中国人は、やはり冷えたビ−ルが美味いと分かってきたに違いない。トマトやキュウリを炒めて食べる中国人も、次第に生野菜やサラダを食べるようになってきた。しかし生のトマトには、砂糖をかけて食べるようであるが。

  或る時、中国の日本料理店で、お世話になった中国人にすき焼きをご馳走したことがあった。ご馳走した我々の側は、宿舎である招待所で一緒の日本語のご夫妻と私である。ご馳走した相手は、招待所で御世話になっている、服務員の女性とその夫と子供であった。我々は日本の代表的な料理が中国で食べられるようになったので、日頃の感謝の気持ちを込めて、きっとこの料理なら喜んでもらえるだろうと思い、招待をしたのであった。そのすき焼きは、割り下などを使い、結構本格的で、久しぶりの日本食と喜んだのである。すき焼きは日本式に生卵を付けて食べた。その時は相手が喜んでくれたものと思い、その宴会は終わった。だがしかし先生ご夫妻が二年ほど後に、その中国人夫婦から聞いたところでは、あの食事は生まれて初めて位の不味さであったとのことであった。その原因は生卵であり、食べ慣れないぬるっとした生卵を、無理やり食べたらしかった。その中国人は気持ちが悪くて相当困ったのかもしれない。しかし我々に恥をかかせない為か、本当のことを言えなかったのか、我々は全く気が付かなかった。

  中国人にとって、刺し身などは慣れないと、食べられないことは分かっていたが、生卵も同じであったとは想像もしなかった。しかし立場を替えてみれぱ同じ様なこともあるもので、中国の"白酒"は日本人にとって相当臭いのであるが、中国人にはこの酒は臭いと言っても分らない様であった。この酒はアルコール分が強いからなどと言って、匂いの臭さに付いては自覚が無いようであった。中国人にはこの酒の臭いには慣れていて、よもや日本人が臭いなとど言うとは思ってもみないことのようである。

  最後に付け加えたいことは、中国では、加熱すれば安心と言うことに頼りすぎてはいないかと言うことである。例えばニンジンの泥が完全にに落ちていなかったり、まな板を良く洗わなかったり。あの中国式まな板(大きな切株)はどのようにして洗い、清潔に保つのであろうか?