酔っ払って裸になり公園で騒いだら、警察に逮捕されるだろうか
(2009年5月22日)


  あのタレントの「事件」が起こったとき考えたのですが、中国では、酔っ払って裸になり公園で騒いだら、公安(警察)に逮捕されるだろうか? と言うことです。中国の場合、デモで裸になったら必ず逮捕されると思います。思想が絡むとうるさい国ですから。もっと悪質な猥褻事件なら、当然逮捕するでしょう。しかし日本でのあの「事件」は「公然猥褻罪」程度だったですよね。あの程度の公然猥褻罪なら中国では公安すなわち警官は出てこないのではないかと思うのですが。

  そんなことは無いだろうと反論があるかもしれませんが、中国の警察はあの程度の事件を扱わない可能性は大いにあるのです。中国の警察は軽い犯罪(?)を扱わないのは確かです。

  なぜそんなことが言えるかというと、中国の都市には、軽い犯罪(?)を扱う別の組織があるからなんです。それは北京の場合、「城管」といわれる組織が区ごとにあり、私が住んでいた宣武区には、正式には「北京市宣武区城市管理監察大隊」と言う組織がありました。この「城管」の制服は警官の服にとてもよく似ていて、この「城管」が警察では扱わない軽い犯罪を扱っているようなのです。

  もっとも、「城管」の「城」と言う言葉は、「街」とか「都市」をさす言葉ですから、街でも都市でもない田舎には「城管」は無いのだと思います。つまり、偉い権威のある都市の警察は軽い犯罪は扱わないのかもしれませんが、田舎の警察だったら軽い犯罪でも扱うのかもしれません。

  なんか中国の警察と言うのは、軽い犯罪では、警察が出る幕ではないという考えがあるのか、別の組織とか別の階級とかを作ってそこに任せるのが好みと言うか、そんな気がするんですが。

  私は警察が、実際に別働隊と言うか下部組織を作った例を知っていますが、それは北京市養犬条例と言うのが出来た後のことでした。その条例は、一軒で二匹以上の犬はダメとか、大型犬はダメ(盲導犬になるゴールデンリトリーバーでもダメ)とか、激烈性の犬はダメとか、おまけに犬の戸籍を登録しなければダメとか、かなり奇妙な条例を作りました。そして犬の戸籍は人間の戸籍と同じく、公安(警察)が扱うんです。しかし養犬条例ができたからと言って、中国人がやすやすと条例を遵守するものとは思われません。それで養犬の取り締まりということになったのです。

そのとき警察の中に「犬狩隊」という組織を作りました。その「犬狩隊」に誰がなったのかというと、警察官ではないんですね。「保安」と言う人達を集めて「犬狩隊」を作ったのです。中国の保安は、守衛みたいなものですが、日本の老人の守衛さんのようではなく、警備会社から派遣されたもっと若い人達です。でもって警察は犬狩りを犬狩隊に任せて犬を掴まえさせたのです。もっとも、犬狩隊には反抗した人間の逮捕権などは無かったようで、指揮は公安がとっていたようです。とにかく北京の警察は下の組織を作って、それに任せて、犬を捕まえるのは俺の仕事ではない、という感じでした。

  この「城管」なら、あのタレントを「公然猥褻罪」で逮捕するか? についてですが、いろいろ調べたところ、「城管」は警察とはいえないような気がしてきました。「城管」には逮捕権は無いようなのです。しかし行政処罰権という処罰権があるようです。逮捕権がないなら警察とは言えないのではないか? 「城管」の制服は警官のものとは、とてもよく似ていいますが、とにかく日本には無い組織で、「公然猥褻罪」で処罰するとしても逮捕するかことはないようです。

  ならば「城管」は何をする組織なのか? 私自身の見聞を元に書いてみますと、「城管」が私の周りで目に付くのは、路上で物を売るのを取り締まる光景です。北京では基本的に路上で物を売るのは禁止です。しかし中国では仕事が無く、それで物を売って稼ぎたい人が沢山いるのです。売っているものは違法コピーDVDとか、茹でトウモロコシとか、リヤカーに乗せた本とか、携帯の電池とか様々なんですが、とにかくそういう物を売りに来る人が、集まりやすい場所があります。基本的に人出が多いところなんですが、それだけが理由でもなく、私の会社の近くでは、なぜか歩道橋の橋の上なんかに、物売り人が集中してよく現れました。それを「城管」が取り締まるわけです。

  もう一つの取締りの光景は、これも会社や家の近くですが、報国寺というお寺があって、その境内で骨董市が開かれるのですが、その門前で「城管」の取締りが行われていました。報国寺の門の前には500円ぐらいのショバ代(境内の中)を払いたくない売人が、200人も300人も現れて、門の前や近くの公園で商売を始めるのです。そこには中国人の好きな玉(ぎょく)や壷や皿や、何なのかも分からないガラクタを、少しだけ風呂敷のような布の上に並べて、路上で商売を始めるのです。風呂敷のような布の上に品物を並べる理由は、「城管」に追われたとき、その布の四隅をつかんですばやく逃げるときに便利だからでもあります。この道端に2、300人もの売人が現れて、道に品物を広げて売る光景は、これはなかなか壮観な中国的光景です。
 
  そこで「城管」の取締り方法なんですが、それは時々現れて売人を追い散らすと方法です。しかしこれでは余り取り締まりの効果が無いのか、別の方法として、売人が売っている売り物を没収することがあります。焼き芋売りで言えば、ドラム缶の釜や運搬道具のリヤカーまで没収します。

  没収されるほうは、没収されると困りますから、「城管」が現れると、蜘蛛の子を散らすように逃げるわけです。逃げた後は、遠くから「城管」の様子を窺って、再度の商売のチャンスを狙っています。こんな光景が北京では日常的に繰り返えされていました。

  そしてその物品没収の方法なんですが、逃げ遅れた売人の商売の物品を、いきなり奪うというような、かなり野蛮な方法です。逮捕権が無いので、売っている物や商売道具の没収が、取締りの効果を挙げる唯一の方法なのかもしれません。

  ところで「城管」は何を取り締まるのかなどについて興味があったので、ある時調べてみました。どんな法的根拠によって取締りをするのかなどについてもです。そしたら驚きました。ある中国語のページですが、2007年11月19日の日付になっていますが、そのタイトルに、中国語で、“北京は始めて「城管」の処罰権を明確にして、押収したものはチャンと保管することにした”と書かれているように読めました。

  と言うことは、今までは、「城管」の処罰権は明確ではなく、没収した物品はチャンと保管していなかったようです。そしてどうも取締りの法的根拠もハッキリしていなかったようにも思えました。「城管」はずっと前から存在していた組織なんですが、2007年11月19日に、“始めて「城管」の処罰権を明確にした”なんて・・・・・。

  取締りの法的根拠は、北京市が制定した市の条例を対象として取り締まるようです。ですから重大な犯罪は対象とならないようで、中には、路上での羊の焼き鳥(?)の取り締まりの条例もありました。羊の焼き鳥は「羊肉串」といわれてなかなか美味しいのですが。

  上の記事に拠れば、処罰を決定したら、文書で通知しなければならないとか、押収の際に押収品を記録し保存し、要求があれば押収品を当人に返さなければならないとか、書かれていました。しかし奇妙なことに処罰の方法として売っているものを没収していいとは書いてないのです。「城管」が焼き芋屋からリヤカーごと押収するのは、処罰権による処罰なのか? 罰金を取る処罰はあるようですが、品物の押収は処罰なのか? 没収してもいいのか? 金を持っていなくて、住所もハッキリしない売人から、罰金はなかなか取り難いと思いますが、だからと言って売っているものを没収してもいいものか。

  条例(?)が決まった後の「城管」の取締りの状況はどうなのか。私が働いていたビルは大通りの角にあり、部屋は8階にあったので、取り締まりの様子がよく見えます。その様子は相変わらずで、「城管」は焼き芋屋のリヤカーごと奪い、焼き芋屋はリヤカーを置いて逃げてしまいます。それで焼き芋屋に文書で押収した証明証を書いて与える暇など無いのです。しかし法的手続きが出来ないのは「城管」が悪いのか、逃げてしまう、焼き芋屋が悪いのか? それにしても法治国家なら法的手続きを経ないで、物品を没収してしまうのはおかしいというか、中国的と言うか、今でも決められた手続無しに、違法売人の物品を没収しているようです。

  そして押収品を運ぶ係りはやはり「城管」ではないのです。押収品を運ぶ係りが「城管」に付いて歩いています。警察が軽い犯罪は別の組織に任せるように、「城管」にもさらに下請けがあるようです。

  そういえば、以前「中国の警官は岡引を引き連れている」光景を日記に書いたことがありますが、制服も態度も全く違う子分のような、日本の江戸時代で言えば岡引みたいな、手下を連れて歩いて巡回していました。中国の警察は下の組織を使って、下請(?)けさせるのが好みなのかもしれません。いずれも日本ではありえないやり方です。

  話はいろいろ飛びましたが、実はこの鵺のよう警察でもあり警察でもない「城管」(城監というとことろもある)という組織は、地方ではいろいろ問題がある組織のようで、城管が事件を起こすことがあります。その話を書くと長くなりますのでまた別の機会に。