北京の四合院の中はメチャクチャ
(2008年9月25日)


  北京の四合院の中はメチャクチャなのである。このことは既に「四合院は大雑院・四合院の謎」に書いたことがある。

  その時書いた四合院の謎とは、何故メチャックチャになったかということであった。メチャクチャになった理由は大体そうではないかなと、そのときも思ったが、今になってもっとはっきり分った。その原因は文化大革命である。文化大革命の大混乱のとき、四合院に数家族が入り込んできて、雑居する大雑院になったのである。元の家族は追い出されたたり、小さくなって四合院の隅に置いてもらっていたりしているのである。大雑院の意味も「四合院は大雑院・四合院の謎」に書いた。

  しかし四合院の謎はまだ残る。それはネットで調べても、ガイドブックを見ても四合院の説明の中に、北京の四合院がメチャクチャなどとは書いてない。本当はメチャクチャになっているのだけれど。何故メチャクチャに成ったかも書かれていない。

  例えば、中国国際放送局のページで「北京の四合院」という四合院の紹介の文章があった。その中に、「四合院に住む人は余り隣の人とは行き来せず、一家は小さな庭で暮らし、世間とのもめごともないような気がします。四合院は、揺れ動く社会のなかで北京の人々が求めてきた心落ちつく閑静で安楽な住み家なのだそうです。北京の人たちは昔から、様々な胡同の四合院で、長い年月を送ってきました。」と書かれているが、どこの四合院のことを言っているのだろうか。本来の四合院は中庭があったことは確かだが、今はメチャクチャで中庭がなくなっているのである。「一家は小さな庭で暮ら・・・・」とあるがそれは何時の頃の四合院を言っているのだろう。

  余り隣の人とは行き来は無いのかもしれないが、あんなに四合院の中に家が密集していてはプライバシーも無いはずである。この文章は日本人が書いてのだろうか。それなら仕方が無いかもしれないが、大体、北京人に四合院を見たいと言うと、怪訝な顔をされると思う。何故あんな汚いところをわざわざ見たいのかと不思議に思われるからである。

  上の紹介文章は四合院の歴史も紹介しているのである。確かに四合院は、「北京の人々が求めてきた心落ちつく閑静で安楽な住み家」としてあった時期も在ったのだろう。しかし今は違う。この文章は四合院の歴史に付いても触れているのに四合院が大雑院に変化した歴史について触れていない。

  ウィキぺディアの四合院の現状につての説明を見ると「今では建物を分割し、何世帯かで共同居住している。そのため一般的には見学は出来ない。 ただし、著名人の居住した四合院は参観が可能である。ホテルとして宿泊できるものもある。」とあるがこれはある程度真実を伝えている。

  今の四合院は何世帯かの雑居なのである。しかし「建物を分割し」などという生易しいものではない。四合院の中庭に不法建築を建て増ししてあって、中庭が消えてしまっている状態なのである。人がすれ違うと肩がぶつかるほどの通路が残っているだけである。だからウィキぺディアに書いてあるとおり、北京の四合院など見学ができないのである。

  四合院ホテルに泊まって、四合院を見たと言う人は多いかもしれない。それから昔の四合院を改造して、レストランにしたところも結構あので、四合院風のレストランで食事した人も多いだろう。しかし個人の四合院は上のような理由でなかなか見るところが無いのである。

  中にはきれいな個人の四合院を見学したという人がいるかもしれない。そういう四合院もあるにはある。しかしそこは、メチャクチャな大雑院であった四合院を、元の持ち主がどういうわけかようやく取り戻して、四合院を原状回復した姿なのである。

  それなのに殆どの北京の四合院の紹介が、優雅な中庭を持つお屋敷の様に紹介されている。現状を正しく紹介していないし、四合院の歴史についても紹介していない。何故メチャクチャになったかについての歴史も紹介されていない。未だにメチャクチャであるのは、毛沢東による文化大革命の後遺症である。やはり毛沢東による文化大革命について触れることになるから、北京の四合院を正しく紹介できないのだろうか。

  ところで、ウィキぺディアに「今では建物を分割し、何世帯かで共同居住している。そのため一般的には見学は出来ない」とあるが、却って見学できるのである。最初は私もそう思っていたが、よく考えてみたら、門の中と言えども、その中の通路は共用の通路なのである。だからそこを通過するだけなら何の問題も無いことに気が付いた。却って個人の四合院の中に入るには見学料がいるとか、無断で入れば家宅侵入になるってしまうだろう。

   つい最近(2008年7月頃)も、清王朝末期に政治改革を推し進めた康有為の住んでいたところを見に行ったが、やはり門の中に乱雑に十家族くらいが住んでいて、スラムみたいになっていた。門の中まで入って見てきたが、公共の通路であるから、誰も怪訝な顔をする人はいなかった。しかし四合院としては見る価値は無く、見る影も無くなっていた。ただ門だけは古いものであったが、それも雑居の家族の共同の門だから、誰も修理することもないので、荒れ果てているいのである。

  ただ最近になってこそメチャクチャではない四合院が多くなったような感じもする。それは四合院を専門に扱う不動産屋が増えてきた事でも分かる。不動産屋が扱うくらいだからそれはメチャクチャではないかもしれない。

  いやいやメチャクチャの四合院でも売買出来るだろう。推測だが、売れるかどうかはメチャクチャであるかどうかでなくて、多分四合院に文化大革命以来の占拠者がいるかどうかだと思う。普通北京で一戸建ての家を建てるのは殆ど不可能なのであるが、金があれば四合院は買える。但しとても高い。高くても一戸建てがどうしても欲しい人は、おんぼろの四合院を買って立て直して住めば、人もうらやむ北京の一戸建て生活が出来るのである。おんぼろの四合院には、トイレは無かったし、シャワーも無い。下水も満足に無かったかもしれない。しかし建て替えればトイレは勿論、広ければ車庫も作れる。そんなところで住めれば北京での大ステータスになれるのである。既にトウ小平の何番目かの娘さんが買ったという話はかなり前に聞いたことがある。

  最近何故か四合院が本の持ち主に戻されるケースがあるらしいのである。それが全てではなくどんな条件があるのかハッキリしないのだが、確かに一部だけは本の持ち主に戻される事があるらしい。しかし権利上は戻ったとしても、そこに住んでいる不法占拠者を当局が追い出してくれるわけではないらしい。多分そこに住んでいる占拠者を、当局は違法とは認定できないのだろう。文化化大革命の頃そうなったのだし、文化大革命は中国政府がやったことなのだから。聞いた話しでは四合院の権利が戻ってきても、占拠している家族に立退き料を払わなければならないし、立退いた後もそのままでは住めないのである。違法建築を取り壊し大改造をしなければならないのである。

四合院をおとしめて書いたかもしれないが、価値が無いわけではない。かえってすばらしい価値があるのである。おんぼろの四合院でも土地の使用権利が付いているからそれを買えば住めるのである。但し住めるかどうかは占拠者を追い出せるかどうかであるらしい。そうなれば商品価値が高い四合院になる。勿論価値は胡同と屋敷が広くて、車庫が作れるとか、文化剤の保護区内にあるとかも重要である。

  つまり本当に中庭のある四合院とは、有名人の故居とか、何故か金持ちとか政府幹部とかが所有している四合院とか、文化遺産になっているものとか、それに上の例のような個人で、なんとして現状回復に成功して目茶目茶から脱した四合院である。

  四合院について紹介するなら、四合院の現状とか歴史とかについても、チャント紹介してほしいものである。もし綺麗にされている個人の、しかも由緒ある四合院(当然メチャクチャではない)を見たければ、千竿胡同の千竿五号にある四合院を見に行くといい。文化大革命のためメチャクチャだった四合院が、やっとのことで原状回復されている様子がわかるだろう。そこの主人が四合院の受難の歴史を語ってくれるかもしれない。