生ぬるいビール

  以前の中国ではビールを冷やして飲まなかった。夏でもそうであった。
ある人から中国ではビールを暖めて飲むのではないかと聞かれたことがあるが、どこでそんな話しになってしまったのかは知らないが、そんなことはない。今ではホテルでビールを飲もうとすると、殆どの場合冷えたビールが飲める。しかし四月の敦煌ではビールが冷えていなかった。レストランの呼び込みがあったので、その小姐に本当にビールは冷えているかと何回も確認して、テーブルに着いた。しかし危惧した通りビールは冷えていなかった。呼び込みをした小姐にビールが冷えていないではないかと文句を言ったら、これから冷やすと答えたので、間に合うはずもないから、もう要らないと言った。それからその小姐は近づいてこなくなってしまった。

  五月の中旬に、昆明の西山に行って食事をしたときに、冷えたビールが欲しいと言ったら、今頃冷えたビールを飲むなんて体に良くないと諌められてしまった。つまりはビールは冷えていないのである。

  貴陽という街には喫茶店風の店があった。照明が少し暗くて、恋人同士が語り合ってもおかしくないところである。中国ではこのような店が多いところは珍しい。中国では大勢で出掛けていって宴会をする店は沢山あっても、小人数で酒だけとか、コーヒーだけとかを飲む店は少ないのである。貴州省は貧しい州として有名なところである。しかしそうではあっても、却って解放的な街なのかなと思った。しかしその喫茶店風の店に入ったところ、ビールが冷えていなかった。知っている中国語の単語を掻き集めて、暖かいビールは不味い。冷えたビールは美味しいと言ってやった。ウエイターはその通りであると同意したので、この場合は準備が間に合わなかったのかもしれない。

  六月になってハルピンに行ったのであるが、ロシア料理の店があったので、昼食を食べに入った。冷たいビールを頼んだところ、なかなか出てこない。何度催促して出てこない。何回か催促してようやくビールが出たきたが、飲んでみたらこれが生ぬるかった。どうも慌てて冷やした様であったので、これ以上言っても仕方がないと思い、冷えていないビールは要らないとつき返した。勘定書きを見てみたら、ビール代は含まれてはいなかった。

  前の二例では、気候が暑くなければビールは冷やして飲まないようであった。後の二例では、ビールは冷やして飲むものだという認識はある様であったが、何故か準備が出来ていなかった。要求があれば冷やすということなのであろうか?
  この様な体験もしたが最近の中国では、ビールを冷やして飲むようになり、実際にも冷えたビールを飲める様になったのも事実である。味も美味くなった。しかし中国では各都市にそこの地ビールがあるのであるが、中には馬の小便みたいな味のものがあるのも本当である。