第7章 モンゴメリに見えたまぼろし(2)
さて、『ザノーニ』に満ちているロマンス・霊感・暗示・魔法に喜びを感じるモンゴメリは、彼女自身の作品の中でも様々な不思議なエピソードを綴っています。
例えばエミリー・シリーズの三冊目『エミリーの求めるもの』で、ロンドンの駅でチケットを買おうとしているテディ(エミリーの想い人)の前に、エミリーの幻が突然現れてテディの手をひき、結局テディはリバプールから出る船に乗れないのですが、その後でその船は、氷山にぶつかって沈没してしまうというエピソードが出てきます。
まるで映画『タイタニック』のネガフィルムを見るようではありませんか。
確か、ゲームに勝って乗船チケットをゲットしたレオナルド・ディカプリオ演ずるジャックは才能溢れる画家で、主人公ローズの裸婦像を描いていました。
そしてエミリーのテディも将来有望な肖像画家なんですよね。
ひょっとしてキャメロン監督、『エミリー』のファン!?
エミリー・シリーズだけでなく、アン・シリーズでもこのような不思議なエピソードがいろいろ出てきます。
そして、モンゴメリ自身も戦争についての正夢を見ていたことはすでに触れましたが、彼女はその他にも不思議な出来事をたびたび経験しています。
1920年に、長男が目にけがをして麻酔の使われる検査が必要になった際、不安にかられたモンゴメリは「今ここにフリード(亡くなったモンゴメリの親友)がいてくれさえしたら」と願います。
その時ふと、死後も「人格が不滅だってことをはっきりと知りた」くなり「もしあなた(フリード)がここにいるのなら、ダフがわたしのところにやってきて、キスするようにしてちょうだい。」と部屋に入ってきてドアの横に座っていた猫のダフィーに「張り詰めたささやき声で言いました」。
すると、一度もそんなことをしたことのないダフィーが「厳かな足どりで部屋を横切り」やってきて、2度も彼女にキスをしたと、マクミランに書き送っています。
(『モンゴメリ書簡集I』p.122〜123)
1922年には、やはりマクミランに宛てた手紙で「白昼夢」の話を書いています。
それは、夫のユーアンやモンゴメリの母親の姉のアニーおばさん、マクミラン、そして今は亡き親友のフリードなどモンゴメリの「同類」たちが、森の中で大騒ぎしながらキャンプしているという幻想です。(『モンゴメリ書簡集I』p.132〜134)
しかし、そこには同類の一人であるはずのウィーバーは出てきません。
マクミランにはこの時点で既に、ウィーバーとの文通について伝えてあるので、マクミランに遠慮して手紙に書かなかったわけではないでしょう。(『モンゴメリ書簡集I』p.118)
この時のモンゴメリはまだ、ウィーバーとは対面したことがなかったためにイメージを持てなかった、ただそれだけのことかもしれません。
しかし先の猫のダフィーの不思議体験にしても、この白昼夢にしても、あるいはアニーおばさんが亡くなる直前に経験した神秘体験(これはどのようなものなのか、残念ながら『モンゴメリ書簡集I』には載っていませんでした)についても、そして戦争終結の際に見た正夢についてもウィーバーには話していないようなのです。
こういった類いの話は、なぜかマクミランにしか語っていないモンゴメリ。
・・・気になります。
千里眼を持つ者についての言い伝えがあるというスコットランド。
そんな場所に住むマクミランにしか、このような体験はわかってもらえないと思ったからでしょうか。