第3章 『アンの夢の家』はモンゴメリ の夢(4)


マクミラン宛の手紙では1917年に出版された『夢の家』について一言も書かなかったモンゴメリが、1917年11月にウィーバー宛に書いた手紙には次のように書いているのを見つけました。

'My new --- and 8th --- novel came out the last of August, and seems to be doing pretty well. It was called Anne's House of Dreams and is published under a new arrangement.'
(『ウィーバー宛書簡』p.66)

「新しい、そして8巻目の小説が去る八月に出来上がったのですが、わりとうまく運んでいます。アンの夢の家という本なのですが、これはあたらしい版元から出版したんです。」(水野暢子訳)

モンゴメリは、これまでのシリーズを扱わせていたPage Co.から離れ、カナダ、アメリカ、イギリスそれぞれでの出版を別々の出版社に任せることができたことを喜んでいます。
Page Co.は作家を食い物にする出版社だったようで、この出版社を離れた他の有名な作家と同様に、自分の作品の印税について相当なトラブルがあったことをうかがわせる文章が綴られています。
そこに現れているモンゴメリの喜びは、経済的に報われるようになったことについてのものというよりは、Page Co.の不誠実さとつき合わされる心労から解放されたことについての喜びだと思います。なぜなら、この手紙の相手であるウィーバーは、先に書いたように厭世的な価値観を持つコミュニティの出身であり、自らの意志でそこを離脱したとは言え世俗的な価値を求めるタイプの人物とは思われないからです。モンゴメリはそんな相手に、これ見よがしにお金儲けの話をするような、デリカシーのない女性ではないはずです。

その一方で彼女は、もう一人の文通相手のマクミランに対しては、ウィーバーに書いたような出版社絡みのことさえ『夢の家』については記していません。
1919年2月の手紙には、次のように書かれてあります。

「『アンの夢の家』の書評の載っている『ガゼット』紙も届きました。ある切り抜き提供会社も『スペクテイター』紙に載ったものを送ってくれましたし、『ブリティッシュウィークリー』にも、似たりよったりのものが載っていました。」
(『モンゴメリ書簡集』p.98〜99)

マクミランは、『夢の家』の英国での書評の掲載された雑誌をモンゴメリに送っていたようです。しかし、モンゴメリ自身は『夢の家』についてのコメントをしていません。

独特の社会観を持つウィーバーに対しては、『夢の家』を巡る出版社との関係という、自身の身近な社会問題を話題にしているモンゴメリ。
その一方で、詩人を志す英国のジャーナリストのマクミランには『夢の家』について何も語らないモンゴメリ。
『夢の家』に登場する「作家志望の元英国人ジャーナリスト」について、マクミランはどう思ったのか知りたいものです。
でも、それは無理でしょう。なぜなら、モンゴメリはマクミランからの手紙を後世に遺すことはしていないようだからです。ひょっこり出てこないものでしょうか♪


というわけで、本当の『アン』とモンゴメリを知るために、ジグソーパズルのピース集めは続く♪



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