番外 「心の同類」考(1)

長男に「泥って英語で何て言うの?」と聞かれ辞書をめくっているうちに、いつものように深みにはまった私。
ふと気が付くと「druid(ドルイド)」という文字が目に入りました。

ドルイドとは、古代ゲール(現フランス)や古代ブリタニア(現イギリス)に居たケルト人の祭司のことですが、その語源をたどると「dru-」(意味:tree) と「wid-」(意味:knower)を合成した言葉なので、意味は「knower of trees (= 樹を知る者)」となると書いてあったのです。
日本語の泥(doro)と木の意味を持つ「dru」。
離れているようで、なんか近いような・・・。

この微妙な距離感を一気に埋めてくれたのが、ある日の新聞記事。

松本健一氏の『砂の文明・石の文明・泥の文明』によれば、日本は泥の文明圏に属している。泥土の中から生まれる木などを使って建物や橋を造る。その生命力への畏(おそ)れの念から、西欧などの石の文明、砂漠地帯の砂の文明とは違う思考を育ててきたという。

なるほど!
確かにちょっと見渡したところでは、世界は砂か石か泥か、3つの文明圏のいずれかに属するといえるのかもしれません。
泥土の中から生まれる木などを使って建物や橋を造る日本が「泥の文明圏」であるのなら、木への信仰を司るドルイドという階層をもつケルトの民も、いわゆる「泥の文明」に属していると言えないでしょうか。

そして、モンゴメリを調べていた私の前にひょっこり出てきたのが、「doric(ドーリック)」という言葉。
"AFTER GREEN GABLES "(『ウィーバー宛書簡』)で紹介されているウィーバーに宛てた手紙で、モンゴメリはスコットランドの方言が大好きだと書いているのですが、そこで「ドーリック」という言葉を用いているのです。
この「doric」の箇所についていた注釈には

「ドーリックとは、本来ギリシャに1100B.C.頃移住してきた『dorian(ドーリア人)』という民の話す言葉を指すが、転じて『いなかの』という意味になり、英語では特にスコットランド地方の方言のことを指す」
(『ウィーバー宛書簡』p.205)

という趣旨のことが書いてあります。

スコットランドといえば、やっぱりケルト。(笑)
もしかしてもしかすると、ドーリア人とブリテン・ケルト人は、なにか関係があるのかも!?
と気になった私は、ウィキペディアで「dorian(ドーリア人)」を検索。
すると、次のように書かれてありました。

'Dorian from Doris, "woodland" (which can also mean upland).[2]
The Dori- segment would be from the o-grade of Indo-European *deru-, "tree".
The original forest must have comprised a much larger area than just Doris.
Dorian might be translated as "the country people", "the mountain people",
the uplanders", "the people of the woods" or some such appelation, which is
eminently suitable to their reputed origin.’


ドーリアという名は、「Dori-」という部分がインドヨーロッパ語属の「deru-」にあたり、意味はtree(木)と書かれてあるではあ〜りませんか!
このドーリア人は、ギリシャのペロポネソス半島に定住したそうで、代表的な都市国家はスパルタとのこと。
徐々にクレタ島や小アジア、果ては現イタリアのシチリア島まで勢力を拡大していったそうです。
で、クレタ島の「crete」とケルトの「celt」、字面も似てるし何かある??(笑)

ちなみに「creta」はラテン語で、黒板に字を書く時に使うチョーク(白亜)とかクレイ(粘土)のことをいうらしいです。
で、思い出すのはイギリスの歴史小説家ローズマリー・サトクリフの『ケルトの白馬』。
主人公のルブリン・デュは、緑の芝地の下に埋もれる白亜層を掘り出して、なだらかな丘の斜面に活き活きと走る馬の造形を創りました。
この古代の遺跡は、今も実在するそうです。
ケルトに留まらず、北の海からブリテンにやってきてケルトと同化したノルマン(ヴァイキング)の世界、そしてギリシャ神話の世界まで鮮やかに描き出してみせたサトクリフは、クレタからケルトへ、そして現代へと繋がる何かを表現していたのかも・・・?

古代ギリシャの神殿建築の柱にはドーリア式、イオニア式、コリント式の三つの様式があることが知られていますが、かの有名なパルテノン神殿のものは三つの様式の中で最も古いドーリア式円柱。優雅なイオニア式、華麗で技巧的なコリント式に比べて太くて素朴なデザインのドーリア式の柱は、私には大木をモチーフにしているようにもみえます。

いずれにせよ「泥や木の文明」という共通項で、日本とケルトとギリシャのドーリア人を括れるとしたら、なんだか面白いではありませんか♪
そういえば確か、感性の違いとDNA分析を比較考証して、日本人の一部がイギリス人やスカンジナビアの人たちの一部と重なったという、興味深い本(『三重構造の日本人』望月清文著  NHK出版 p.194, 198)もありましたっけ・・・。

私的には、英語圏以外でなぜ日本にモンゴメリファンが多いのかということも、こう考えるとまんざら不思議ではないかもしれない、ってところが面白いのです。
私たちは、doricを好んだモンゴメリの同類(kindred:木の同族?)なのかも、って思うとなんだかゾクゾクしてきませんか♪(笑)





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