鯨種の読み方・書き方のいろいろ


Q….@奴甦古矢刺A加子倭古矢刺B那加思古矢刺 C世比古矢刺 の読み方分かりますか?

鯨の字や名前にはいろいろの漢字・平仮名・片仮名が使われています。
書いた人が知っている漢字を適当?に使ったり、漢字・カナ混じりも昔は使われています。
昔は種の区別もはっきりしてなかったので混乱しているのが分ります。
江戸時代、シロナガスクジラはナガスクジラと呼ばれていました。
腹部に畝状の溝があるナガスクジラ類のものは同種・親子と見られていた時代もあります。

鯨種の読み方・書き方のいろいろ
黒色字:クジラ 
赤色字:ヒゲクジラ 
青色字:ハクジラ
 
種類名鯨種の読み方・書き方
クジラ区施羅久知良・久治良海鰌・海鰍(魚)鯤・鯤鯨魚伯・魚黒白
古矢刺・久矢辣久治羅鯨鯢:ゲイゲイ勇魚(いさな)伊佐那(いさな)魚・いを・うお 
クシラ・クジラクチラ・クヂライサナ・イサエビス   
ヲクジラ:♂雄鯨巨京渠京鼇(大亀の意)クヂラヲクヂラ
メクジラ:♀鯢:(めす)クヂラ雌鯨女久治良メクチラメクヂラゲイ 
イサナ勇魚鯨魚鯨名伊佐魚伊佐那不知魚伊佐儺
伊沙那伊佐難異舎儺(いさな)伊佐イサナイサ 
セミクジラ背美鯨勢美鯨(せび)背干(セビ)鯨世比(セビ)古矢刺C背乾:せび勢干
背美海鰌千味:セミ 本魚:ホンイオ本ン魚せひ鯨せび鯨セミ鯨
セビクジラセミクジラ世美    
シロナガスクジラ長須鯨 長ス那加思(ナガス)古矢刺 Bナガスクジラ(白長須鯨) (シロナガスクジラ) 
ナガスクジラ長須鯨長ス那加思古矢刺 B永須鯨長簀鯨 奈革思鯨奈革思鯢
奈革思(ナガス)海鰌奴甦(ノソ)古矢刺@野曾(五島方言)能曾那鎖鯨ノソ那鎖海鰌ノソのそ鯨
ノソ鯨・ノウソ鯨ノソ(古名)ノソクジラ長州鯨長州くじらナガスクジラのうさ・のんこ
イワシクジラ鰯鯨以哇矢(イワシ)古矢刺鰮魚(鯨)海鰮鯨鯢伊和志久尋良いわし鯨 イハシ鯨
イワシクジラ(鰹鯨)南海種?      
ニタリクジラ似鯨鰹鯨(カツヲ)(古名)加子倭(カツオ)古矢刺A堅魚鯨カツヲカツヲ鯨 ニタリクジラカツオクジラ
サンカクナガスオガサワラクジラブライド鯨(仮称)      
ミンククジラ小鰯鯨ミンク鯨コイワシクジラミンククジラ   
ザトウクジラ座頭鯨座当鯨雑頭鯨 坐頭真雑頭坐頭九尋羅瞽者海鯢
琵琶匡(ビワハコ) 琵琶くしらびはくし(じ)らザトウクジラサトークジラビハハココモチクジラ 
コククジラ克鯨児鯨 海鰍小鯨児童鯨狐古矢刺:こくじら児鯨鯢
青鷺・アオサギコクチゴクジラコククジラチコクジラシャレ 挨和素巳
マッコウクジラ抹香鯨麝香鯨末鯤鯨真(眞)甲鯨末子鯨 末子狐(マッコウ)古矢刺埋紫歌鰌
埋紫哥海鰌埋紫歌海鰌まつこ鯨 マッコウ鯨マツコ鯨マツカウクジラマッコクジラ
ゴンドウクジラ巨頭鯨午頭 五頭五島鯨伍篤鯨伍篤海鯢ごんど鯨
ことう鯨ごんどうくじらコト鯨コトウゴトクジラゴンドウクジラコトクジラ
マゴンゴウ狐度宇ごとう ごと ごんど   
オキゴンドウ沖巨頭沖牛頭胡瓜巨頭大魚食大魚喰窩布奈武(オオナン)狐度宇大なんごとう
大ナンゴトウ大ナンコトオオイオクイオキゴンドウダイナンゴンドウ シャチモドキ キュウリゴンドウ 
大灘巨頭だいなんごと狐度烏ごとう     
ヒレナガゴンドウ鰭長巨頭ヒレナガゴンドウ     
コビレゴンドウ小鰭巨頭コビレゴンドウ      
(マゴンドウ)真牛頭マゴンドウゴンドウクジラ ナイサゴトウ ヒート(沖縄)  
(ナイサゴンドウ)那以沙狐度宇ナイゴトウ ナイサゴトウ     
(シオゴトウ)汐牛頭矢布(シオ)狐度宇潮ゴトウ潮コト潮ごとうシオゴトウシオゴトクジラ
(タッパナガ)手羽長タッパナガ     
ユメゴンドウ夢巨頭ユメゴンドウムネサトイルカ     
カズハゴンドウ数歯巨頭カズハゴンドウ     
ハナゴンドウ花巨頭マツバイルカハナゴンドウカマヒレシロシャチ (サカマタ) 
シャチ鯱鯨沙加未打(サカマタ)素革埋佗高松(地方名)逆戟しゃちほこ鯨
 しゃち鯨さかまた鯨さかまつくろとんぼシャチホコ鯨サカマタ鯨サカマタ
 タカマツシャチサカマタクジラシャチクジラ シャカマタカシャチモコ
 クジラトウシ坂又鯨鱐シャチ十養七保哥 佗革埋紫タカマツ勿歯篤摩伏くろとんほ矢牙知布狐シャチホコ
 志也知保古左加未多サカマタ黒土保宇クロトンボ    
ツチクジラ槌鯨津ち鯨土鯨紫七鯨:ツチ紫七海鰍紫七海鰌津地鯨
貲秩(ツチ)古矢刺つち鯨 ツチ鯨ツチンボ(千葉県)   
アカボウクジラ赤坊鯨 朱坊鯨挨革抜胡海鰌赤坊海鰌赤ほう鯨赤ホウ鯨あかほう鯨
 アカホウ鯨アカウ鯨アカホウ アカボアカボウクジラカジッポ(千葉県)アカホウクジラ
 赤頬 ぼう      
スナメリ砂滑砂滅ゼゴンスザナスナメリなめのうおなめのいを
 ナメノウオナメウオナメリスナメリイルカスナメリクジラ波の魚  
イルカ海豚真海豚海猪江豚伊流可入鹿魚
 以留か真イルカいるか マイルカまいるかイルカキンタマイルカ
スジイルカ筋海豚筋入鹿筋いるか筋イルカスジイルカスジスズメイルカ
カマイルカ鎌海豚かまいるかカマイルカ    

※1.「鯨志」に「阿甦比古矢刺:アソビクジラ」・「窩布奈武狐度宇 :オホナンゴトウ」・「矢布狐度宇:シオゴトウ」と言う字で記載されている鯨もある。
  『さん定鯨志』では「阿甦比古矢刺:アソビクジラ」は熊野方言で「貲秩古矢刺:ツチクジラ」のことだが、歯が4本あるツチクジラより歯が多いので取り違えていると書かれている。(参考「鯨の話」:小川鼎三)。写し間違いや種類の間違いがみられます。特にツチクジラは上下顎に多数の歯が描かれているものが多い。 
※2.漢字で書かれているが当て字・変体仮名もあり、地方名も混じって判断が難しい。
※3.ナガスクジラに「シロナガスクジラ」「イワシクジラ」「ニタリクジラ」などが含まれていた時代もあったようです。
  『シロナガスクジラ』と云われ出したのは何時頃からか不明です。多分、明治時代のノルウェー式捕鯨導入以降ではないかと思われる。
  古式捕鯨時代のナガスクジラはシロナガスクジラ、現在のナガスクジラはノソクジラと云われていた。

※4.ナガスクジラ類は体形が相似のため大きいものが「親クジラ」、小さいものが「子クジラ」と間違ったとも考えられる。
  ナガスクジラにコククジラも含めた記述もある。
  多くの鯨絵図があるが現在のナガスクジラの絵は少ないし鯨体も小さく描かれている。
  多分古式捕鯨では捕獲できず見ることが少なかったと思われる。
※5.遊泳速度が速い、大型のクジラは捕獲が困難なため見る事も少なく、区別が難しかったと思われる。
  色々の鯨図を参考にして書かれている本も多く、コピー 誤りや転載間違いも多い。
  歯の数や上顎の歯、下顎の歯などは適当に書いたようで4本歯の「ツチクジラ」は上下に多数書かれ間違いばかりです。
  ウネの数、背ビレの形と大きさなどデフォルメされ、魚体も波打っているものがある。
※6.「イワシクジラ」と「ニタリクジラ」は同一種とされていた。
  イワシクジラとニタリクジラの違いがはっきりしたのは大村秀雄博士がニタリクジラの頭に稜線が3本あることを指摘され、それ以後区別された。

※7.セミクジラは泳ぎが遅く、死んでも浮き、捕りやすい、油が多い鯨で本当の鯨「本魚・ほんいお」と云われました。それ以外の鯨は「雑鯨:ざつくじら」でした。
  雑(鯨)の中で最良・TOP・頭(かしら)の鯨が「雑の頭鯨」でした。即ち「雑頭鯨」です。鯨の中でNo2にいい美味しい鯨でした。
  「坐頭」は頭部が平たく座れるからと言う説・座頭(盲目の人)が琵琶を背負っている姿に似ているという命名説もある。
  「千味:セミ」は井原西鶴が「天狗は家名の風車」の中に太地村の鯨の繁栄振りを『千味:セミといえる大鯨、前代の見はじめ、七郷の賑わい、竈:カマドの煙立ちつづき、油をしぼりて千樽のかぎりもなく、その身、その皮、ひれまでも捨てる所なく、長者になるはこれなり』と書いている。セミクジラです。

※8.小児の弄鯨一件の巻(鯨一件の巻)肥前唐津城南藩木崎攸々軒述(1773年)に下記の記述があります。
  勢美鯨(せび)又勢比とも書く。本ン魚という。{現在のセミクジラは真のクジラ・本当のクジラでした。}
  雑頭鯨(ざとう)この中に「真雑頭」又「のうさ(のんこ)」。とあり{現在のザトウクジラにナガスクジラが含まれている}
  ただし雑頭鯨は「雑物の中にて上(雑鯨の中で頭:カシラ)」という事なり。
  児鯨(こくじら)但し子鯨にあらず別種なり。勢美(せび)に似て小さく髭(ひげ)白し。
  長須鯨(ながす)この中に「白長須」というもある。小さいものを「にたり」という。雑頭に似て長し。{現在のシロナガスクジラとニタリクジラが含まれている。}
  「鯨魚覧笑録」生島仁左衛門(1796年)には『長須鯨 ただし白長須と云うあり。又、にたりと云う有り。色は黒もあり、
  ねずみ色も有り、そのほかいろいろ鯨有り。髭と言うは歯なり。まっこう鯨と云うは歯有り』と記している。
  
※9.オキゴンドウはキュウリゴンドウとも呼ばれる。体が細長く胡瓜に似ているため。
※10.マゴンドウ・ナイサゴンドウ・シオゴトウ(和歌山県)・大ナンゴトウ・タッパナガ(宮城県)は1系統群です。

※11.サンカクナガスは安永浩著「銃殺捕鯨日誌」についてー明治期における銃殺捕鯨組の活動ー「佐賀県立名護屋城博物館研究紀要」第11集によるとニタリクジラの頭部の3本の稜線からサンカクナガスと名付けられたと思われるとのこと。 

※12.マイルカを伊豆地方西岸では「キンタマイルカ」という。本種の睾丸が異常に大きいからこの呼び方がある。 日本ではその地方で最も普通にとれるイルカを「マイルカ」と云っている。 本種(マイルカ)、スジイルカ、ハシナガイルカ、ハセイルカ、カマイルカなどが地方では「マイルカ」と呼ばれている。混乱しないように注意を要する。

※13.「本ン魚」は日本ではセミクジラのこと。古式捕鯨時代の捕鯨対象になる『本当の鯨』でした。
  「Right Whale(本当の、真のクジラ)」=セミクジラは欧州では泳ぎが遅く、油が多く、死んでも沈まない、捕りやすいクジラ「本当のクジラ」でした。
  さらにアメリカでクジラといえばアメリカ式捕鯨の対象から「マッコクッジラ」のことでした。
  それぞれその国の捕鯨目標とした捕獲対象鯨が「本当の鯨」です。


※14.「メクジラ」は雌(メス・牝・♀)の鯨のことです。「メクジラを立てる」のメクジラは”目じり”のことです。目を吊り上げて怒る意味でメスと目の大違いにご注意!

(参考)『海鯨図』、『日東魚譜』 、石井宗謙『鯨の記』(シーボルト文献第350番)、『鯨志』
『日本捕鯨彙考』:服部 徹編纂

『鯨の話』:小川鼎三著(中央公論社)

『鯨類・鰭脚類』西脇昌治著 東京大学出版会

『鯨 その科学と捕鯨の実際』大村秀雄・松浦義雄・宮崎一老著 水産社版


「主なクジラSetusの語源」もご覧下さい