クジラ香水の面白い話


「クジラの香水」の面白い話


マッコウクジラの腸の分泌物である「龍涎香(りゅうぜんこう)」は香料の「保存剤・保香剤」として
知られています。
「保香剤」とは色々の香料と混ぜると全部の香りを引き立て長く香りを保つ性質です。

【語源】
龍涎香は中国語では(ロン・エン・シャン)。英名は「アンバーグリス」Ambergris。「アンバー」
は琥珀(こはく)の意味,「グリス」は灰白色の意味、琥珀とは全く関係はない香料です。
龍涎香のamberはアラビヤ語の転化したもので、アンバルは元来「匂いの王者The King of Perfumery」
という意味だそうで龍涎香は「香りの王」だったのです。
アラビヤ人は、龍涎香は海岸によく漂着し、海岸に生えている木の樹脂が海中にまで長くのびた根
から分泌して固まったものと考えていました。この他に諸説、面白い話があります。

1)海底にある泉から噴出する泡が固まって海上に浮び、波にもまれて漂着したもの
 陸上で噴出する石油のアスファルト分が海中に流れ込んで出来るもの
 海底からアスファルト状の物が浮きあがって出来たもの
 海底の海綿・きのこ状の植物が波浪でむしり取られ海岸に打ち上げられたもの
2)海中に棲息している「サラ」という一種の牛の糞の塊
 ある山の多量の蜂蜜が海中に流れ込み蝋分が固まったもの
3)海底のある種の植物、アスファルト、泡が海中に住むある動物に食べられ排泄物となって
 海中に浮遊するもの
 などの珍説があり、色・形状から汚い物で出来ていると見られました。

【出現時期】
古くからあり古代ローマ人・ギリシャ人はアラビヤ商人から買い求めていました。アラビヤから
中国経由で日本にもつたえられ、架空の動物である龍の涎(よだれ)から出来たものと伝えられました。

【日本】
「鯨史稿」には西のはるかかなたのアラビヤに龍涎島があり、春になると龍が交尾して、その時に
滴りおちた「よだれ」が固まったものと記述されています。
また後年、「クジラの糞」、「マッコウクジラ(麝香鯨)の尿」とも云われました。香料のほかに
当時は「てんかん」や「チフス」の特効薬、「腸閉塞」や「下痢」、さらに「寄生虫」や「悪霊払い」
にも効力を発揮するといわれたようです。

【中国】
アラビヤ、中国では「媚薬」としてハレムや後宮で用いられた。
中国では「不老長寿の薬効」にまで期待され13世紀にアフリカ沿岸にまで使節を出しています。
中国ではアラビヤ産の物が最上とされ、産地はベンガル湾やアラビヤ海といわれました。
中国では「催淫効果」があって、「性的不能」、「精液の漏れ」、「淋病」、「失禁」、「陰嚢の湿疹」
といったような男性の性的な能力増加、生殖器の疾患をなおすためにもちいられた。

【インド】
インドでは性欲を刺激する「催淫剤」の効き目があるとされました。20世紀前半出版の医薬品目に
刺激性があり、「けいれん止め」のほか、「虚弱体質」、「てんかん」、「ひきつけ」、「神経衰弱」
などにきくと書かれています。

【アラビヤ】
アラビヤでは香炉に「龍涎香」や「乳香」、「没薬(もつやく)」を入れて焚き、その香りを衣服に
ふくませた由。
さらに「コーヒー」に入れたり「シャーベット」の香りつけ、甘い「肉の匂いつけ」に使っていました。
アラビヤン・ナイトに描かれたハーレムの甘美な世界が浮んできます。
風呂に入らない体臭のきつい人達の役に立ったようです。

【入手方法】
入手方法は海面に浮遊、流れ着いた物を利用するという偶然性のものと、特定のマッコウ鯨を捕獲する
かしかない訳ですが捕獲したマッコウクジラの全てに有るわけでなく貴重品だった訳です。
しかしマッコウクジラも当時は世界中にいたので拾い物が多かったのでしょう。
マルコポーロはクジラから採るアジアの龍涎香についても伝えています。

【価格・大きさ】
龍涎香の高級品は金と同じ値段で取引をされた時代もあったことが記録に残っています。
今まで最大な物は東インド会社が1880年に扱った421.3kgで、旧ソ連が南極海で採取した200kgの物が
次にあげられます。大体フットボールくらいの大きさで水より軽く海面に浮いていました。

【匂い】
匂いは最初は悪臭がして、次第に青臭くなり、やがてかび臭い匂いに変わり、この後は表現
しようもない海の香りとか、麝香(じゃこう)に似たかぐわしい香りに変わるとのことです。

【色】
上品は黒白色、即ち灰白色で、品質が劣る物は黒色であったとのこと。

【形状】
やや乾燥した牛馬の糞の固まったような物。表面はアバタ状の凸凹で蝋分に富んでギラギラ光っている。

【成生原因】
どうしてできるのか。
1)糞石のような結石
2)排泄物、不消化物が科学的な変化によって固まったもの
3)イカの口器のカラス・トンビが宿便のように硬化したもの
4)寄生虫が引き起こした病気の産物
5)小腸後端部にあるクチクラの内層から特殊な分泌によって出来たもの
等が云われていますがいまだ龍涎香が出来る原因はわかっていません。

捕獲されたマッコウクジラの腸内から見つかる訳ですが、海で浮遊しているもの、岸に流れ着いたもの
しかないようです。拾いに行きたいですね!今は海には廃油や重油の塊しかないようですが!
龍涎香はオスのマッコウクジラにしかなく、捕獲鯨100頭に一つか二つ程度しか発見できないそうです。

【現在】
現在はクジラは捕獲できず量もないので龍涎香は合成されて香水に使われています。

 参考:マッコウクジラの自然誌 加藤秀弘著 平凡社、
    香談 東と西 山田憲太郎著 法政大学出版局
    クジラと人の民族誌 秋道智弥著 東京大学出版局