タンポポは本当に身近な植物といえる。春から秋まで外に出歩く機会があればほとんど毎日見ることができる。このタンポポについて今月号(2003年5月号)のナショナルジオグラフィック(National
Geographic)誌に面白い記事が載っていた。タイトルは「増える謎のタンポポ」といういう記事で、現在、目にするタンポポが在来種のタンポポ(カントウタンポポ(左写真)など)とも外来種タンポポ(セイヨウタンポポやアカミタンポポ)ともいえないものが多く存在するというものだ。これは外来種のタンポポと在来の種の間にできた雑種。しかし、今まで外来種に似た雑種が多かったが、最近、在来種に似た雑種が増えてきているということである。在来種に似た雑種タンポポは外来種に似た雑種タンポポと在来種との交配でできるそうなのだが、都心部など在来種がほとんどない場所で増えてきていることの不思議さについてふれられている。この点について、ヨーロッパのある種は在来種のタンポポと似ているので、その種が入ってきているのかもしれないという東京学芸大学の小川潔氏の指摘を載せている。
確かに、教科書通りに「ほうが反り返っていればセイヨウタンポポ、ほうが上向きであれば在来のタンポポ」ではない現状はだいぶ前から始まっていた。ほうを見ると反り返りが中途半端なものが多数見つかる。しかもそのほうの反り返り方の中途半端もいくつかのレベルがある。実際に見るとほう以外の部分もタンポポの形態は様々である。頭花の大きさ、ひとつの頭花に含まれる花の数、見た目の派手さ、葉の形や大きさなどいろいろなものがある。特にセイヨウタンポポでは日陰と日向で葉の大きさなどは異なることはよく言われる。日陰のほうが日照時間が少ないため葉が大型化するといわれている。が、さらに、セイヨウタンポポにもいくつかの系統があり、荒地に咲く小型の系統や他の場所にすむ大型の系統があるなどの説もあって話はより複雑になってくる。
セイヨウタンポポは染色体を3n持っており、通常の生殖ではなく単為生殖で増える場合が多いことや、アルカリ性に強いためアスファルトへの対応もうまくいくなど逞しい種であることは確かなようだ。そのため広範な場所でセイヨウタンポポは勢力を伸ばしていったようだ。それに対しカントウタンポポは見ることができる機会が少なくなる傾向がある。ただ、これはセイヨウタンポポがカントウタンポポなどの在来の種を駆逐したというより、在来の種が生息しやすい環境が減った(人間が減らした)と考えることもできる。元来、セイヨウタンポポと在来の種では生息する環境がかなり異なる。話を生殖に戻すと、セイヨウタンポポもときとして正常な生殖を行うことがあり、そのときに、在来の種と雑種をつくるといわれる。そのため、雑種のタンポポが多くなってきたということだ。ナショナルジオグラフィックの記事はこの雑種の形態の近年の変化にふれるとともに、別の種の進出の可能性にまで触れている点で面白い。あらためて、タンポポの多様性に注意しながらタンポポに目を向けてみたいと思わされた。
2004年4月にタンポポに関する記事が新聞紙上に掲載された。内容は交雑に関するものである。近畿地方を中心にタンポポについて、DNA調査も含め、大規模なもののようである(近畿の自然保護団体など12団体が「タンポポ調査・近畿2005実行委員会」(委員長=布谷知夫・滋賀県立琵琶湖博物館研究部長)を組織)。
従来は、外来種は単体で結実し、交配はしないということであったが、外来種の花粉が在来種に受粉しているそうである。それにより雑種が生まれ、純粋な在来種はわずか2%という驚くべき結果も掲載されている。(2004.4付記)