モツゴは本当に身近な魚だ。印旛沼水系に限らず、網で
すくえばすぐに捕まる。罠を仕掛ければ一番入るといってよいくらい捕れる。川魚料理店で「生(なま)ざこ」として、キロいくらで売られる
魚たちの中でも一番多くいる。もちろん、雑魚の佃煮にもたくさん入っている。ペット店、観賞魚店で餌用として売られる小魚の中でも一番多
くいる。クチボソという呼称もよく知られている。尖って、上を向いている吻、体を縦に貫く黒色のラインが特徴だが、ラインは薄かったり、
ほとんどない個体もある。本当に身近な魚だ。身近なので、クチボソ以外にも地方によっていろいろな呼び名があるようだ。タモロコに似るの
で、モロコがの類が昔から多くいた関西ではヤナギモロコ、イシモロコなど「モロコ」がつく呼び名が多いようだ。確かにタモロコに似ている
が、吻の形状とタモロコと違いひげがないことで区別できる。
モツゴはコイ科モツゴ属の魚で、学名はPseudorasbora parva。全長は10cm程度の小魚だが、水槽で
飼うと大きいものは結構堂々としている。オスは4〜8月の繁殖期には体色が黒くなり、追星でできて迫力がある。モツゴの分布は広く、日本
はほぼ全域にいる。北海道にも進出しているようだ。国外では台湾、中国、朝鮮にもいる。とにかく逞しい魚で、タナゴと同様に近縁種との交
雑の問題が生じている。ただし、モツゴは加害者?で、被害者はシナイモツゴ(東北から中部北部に分布)やウシモツゴ(愛知県に分布)との
ことだ、モツゴに罪はない話だが。モツゴは外来魚のブラックバス、ブルーギルの食害があっても、逞しく生きている。ただし、ブルーギルが
はびこった湖沼では著しく個体数が減少したという報告もある(一時のブルーギルの増殖ぶりはすごいものがあった。)。もともと遺伝子的に
は最低でも2つに分類されるとのモツゴ。だが、さらに、一部の地域では遺伝子的に大陸系のモツゴが存在しているとのことだ。その大陸系の
モツゴも、もともと大陸と同時分布していた系統か、人為的に移植されたものかは判断できない。知らぬうちに純粋な在来のモツゴたちもいな
くなってしまう可能性もある。国外からの移植、国内での移植などなど、このような問題は多くの生物で生じていてなかなか複雑だ。「まだ、
モツゴがいると」と思って見ていたら、いつの間にか過去のモツゴとは違う個体群のモツゴがすりかわっていることもあり得るわけだ。
庭の池にもモツゴがいるが、放っておいても繁殖している。餌をやると水面の餌を摂りに魚たちが上がってくる。天気の良い日はその魚たち
の影が池の底に映る。すると、大人の魚たちの影だけでなく、本当に小さな魚の影が見える。モツゴの稚魚たちだ。繁殖は岩、植物の茎に産卵
床をつくり、行われる。オスは追星ができることから想像できるように縄張り意識が強いようだ。それだけでなく、孵化するまで卵を守るのも
オスの仕事だ。
もともと、流れのない場所を好む魚だが、環境の悪化には強い。そのため、身近な都市部の池や川にも多くい
る。公園の池でも昔から多くいる。はるか昔、小学生のころ上野の不忍池でも、捕まえ、遊んだ(今やったら、子どもでも怒られのだろう)。
どうやって遊んだかというと、公園なので、食べたパンの袋などが落ちている。それに木の枝をさし、池の中へ。袋に残っているパンくずに魅
かれ、モツゴが袋に入る。それを上げるだけだ。貪欲で逞しい性質が仇となって、簡単に捕えられてしまう。
こんなモツゴだが、ちゃんと見るとスタイルもよく美しい魚である。ただ、地域によってはレッドリストに掲載されていたり、保護の対象に
なっているので注意が必要だ。千葉では一般保護生物(D)となっている(環境省のカテゴリーでは準絶滅危惧NTに該当する)。