北総の自然再考

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 このサイトでは千葉県北部の北総台地について自然、動植物を紹介している。しかし、その範囲は佐倉市、印西市、八千代市の一部など本当に狭い地域である。しかし、それでも谷津田、里山といわれる雑木林、北部のわりあい平坦な台地、河川・湖沼と地形は変化に富んである。今までこのサイトではアットランダムに自然や動植物を紹介してきたが、少しずつではあるが様々なものが蓄積してきた。紹介した事項も索引上で300近くになってきた。そこで、今までの記録の背景にあるこの北総台地や私の通常の活動場所について再考し、全体像を少し整理してみようと思う。

 北総台地は通常、私の活動している地域よりはるかに広大である。北総台地は日本有数の規模をもつ台地だ。古東京湾の海底に堆積した成田層が隆起したことがベースとなっている。そのため、成田層は日本でも有数の海生生物の化石の宝庫だ。さらに、その上に関東ローム層が堆積している。東端は九十九里平野へとつながる崖だ。40〜50mほどの海抜がある。本サイトで扱っているのは前述のように北部の中央部から西部にかけてのほんの一部の地域である。

 北総の地形の特徴は台地と谷津田(左写真)だ。保水力の強い関東ローム、台地のすそから湧き出す湧水、それによって潤う谷津田。谷津と呼ばれる低地はその水を利用し、水田として利用されてきた。そのために、谷津田という呼称もある。文字通り、日本では自然環境、生物たちと密接な関係にある水田がたくさん形成されているということになる。ただ、現在、谷津田の水田の多くはポンプによる導水で水田を成り立たせている。谷津田の周囲の斜面、高台もそれぞれ独自の生物相を形成する。同じ高台の斜面でも南向きか北向きかで生物も違う。たとえば、カタクリは谷津田の面した北向きの斜面に多く生える。樹木では南向き斜面ではスダジイが多く、北向きではムクノキ、ケヤキ、イヌシデ、シラカシ、シロダモなどが多く見られる傾向にあるとのことだ。高木のまわりにはマント群落といわれる低木の群落が見られる。代表的な植物として、ヌルデ、アカメガシワなどが見られる。縄文海進といわれる海進期のために凹凸の激しい立体的な地形が生まれ、様々な生物環境が形作られたといえる。

 また、北総の自然は人との密接な関係の上に成り立っている。つまり、その多くは自然植生ではなく半自然植生的な代償植生を形作ってきたといえる。里山といわれる雑木林だが、本来は人の手が加わった薪炭林の役目を担っていた。しかし、最近では活用されずに放置されているものも多い。雑木林も気がつくと手入れされずに勢力を伸ばした竹林に変わっていることもある。そのため、特定の生物にとっては生活環境が失われつつある現状もある。反面、田んぼの畦や、川の土手には春に多くの植物の花が咲き競う。これは、昔通り、定期的に人の手で草が刈られるためである。里山、谷津田の生物は自然と人のコラボレーションによって、その生活環境を得ることができていたといえる。除草剤で処理されてしまうこともあるようだが。

 一方、東京近郊ということで住宅地の開発や地元地域の都市化も激しい地域でもある。また、都市が近いこと、未使用の土地が多いことが災いしてか、千葉県内では産業廃棄物が山のようになっているところも多い。また、雑木林の周囲をちょっと歩けば、ラジカセ、炊飯器から冷蔵庫、自動車に至るまで種々の生活廃棄物が捨てられている現状が見られる。徐々に半自然的なものから都会的な代償植生に変わってきているといえる。

 ところで、野外で観察しているとこのところ動物、植物を問わず、多くの帰化した生物たちに出会う機会が本当に増えてきた。帰化した生物がどのように自然の中に進入してきたかはわからないことが多い。農地が多いことや、家畜の飼育がさかんなことから、肥料や飼料に紛れて来たものもあるであるし、人為的に移入した植物が野生化したものもあるであろう。また人が増え、ペットが増えたことから、それらが野生化したものも多い。印旛沼周辺ではカミツキガメ、ワニガメ、ミシシッピーアカミミガメ(ミドリガメとしてよく知られるカメ)などが在来種を駆逐している。ワニガメは15年ほど前にはじめてみたが、短い期間にマスコミに取り上げられるほどになってしまった。公園の池、河川等でクサガメ大のカメを発見した場合、多くは大きく成長し、くすんだ色になったミシシッピーアカミミガメであることが多い。現在、これらのカメは駆除する活動が行われているようだ(右写真は駆除され冷凍保存されていたミシシッピーアカミミガメ)。さらには、園芸ブームのため、庭や公園で栽培されていた植物が野生化したものもある。また、たまたま、観察されても仮住帰化に過ぎず、消え去っていくものもあるようだ。それでも、このサイトで紹介したように多くの帰化生物が見られる。もちろん、特に植物では、日本在来のものと思われるような身近な植物も、もとをただせば帰化したものであることが多い。それでも最近はほんの短い期間にこんなものがと思う植物が増え始めているような気がする。

 まさに様変わりの北総の自然だが、これからもありのままの自然や生物を見続けられればと考えている。

 それでは、この北総の自然の状態をいくつかの分類ごとに見ていこうと思う。

<人家および庭>

 北総地域は昔ながらの村落が点在している。農家の庭は広大であるし、昔ながらの日本の庭造りが残っている。洋風の芝中心の庭造りではなく、樹木を豊富に使った庭造りも多く見られる。クロマツやイヌマキ、アラカシ、シラカシ、イヌツゲ、カキをはじめ多くの果樹も植えられている。農家わきの土地にはクリの木がまとめて植えられていることもよく見かける。樹木が特に常緑樹が多いと日影が形成され、それがその他の草本の植生にも影響を与える。また、人為的な除草、与肥、家庭からの排出物も土壌や植生に影響を与える。割合、富栄養な土壌ではニワホコリ(左写真)などが繁茂しやすい。日影ではゼニゴケ、スギゴケのなかまなどのコケ類が繁茂し、日向ではメヒシバ、エノコログサが生育しやすい環境を作っている。

 農家では昔ながらの草花が植えられることも多い。6月であれば、タチアオイが庭先をにぎわしている。ややはやい時期にはハナショウブなども見かける。このような花たちは古くから日本の生活に溶け込んできたもので、まわりの景色に自然に溶け込んでいるように見える。農家の庭でも最近は開発がさかんな新種の園芸種が多く植えられていることが多く。歩いていると色とりどりの花が庭先、道路沿いに見られる。現在、これらがかなり野生化して、農道や人家からかなり離れた場所でも何種類かが見られることがある。

<空き地>

 佐倉市でも整地したが、そのまま、放置されている造成地が結構ある。また、印西市をはじめとするニュータウンではかなり大規模に造成してあるがそのままという土地はかなりある。それらの空き地はどちらかというと全般的には栄養に乏しい土地である。新たに開かれたり手が入ったりした場所では硬く見える土壌にヒメジオンやヒメムカシヨモギなどの一年草が生えていることが多い。このような場所では、ヒバリが囀りながら、飛び回っていることも多い。これらの空き地では年数の経過とともに多年草のヨモギ、セイタカアワダチソウなどが増えてくる。そのような場所では土壌は湿り気を保つようになる場合が多い。栄養が豊かな場合ははじめからセイタカアワダチソウが勢力を伸ばす。湿り気のあるような場所はアメリカセンダングサが生えてくるそうだ。同じ空き地でもその環境によって微妙に勢力を伸ばす植物が違うことがわかる。クズなどがはびこりだすとそれを好む昆虫のなかまもたくさん見られるようになる。空き地の多くは最終的にススキ群落に移行するとのことで、ニュータウンの空き地でもススキ群落になっているところは多い。空き地は特にその初期段階においては帰化植物が勢力を伸ばしやすい傾向があるようで、一部ではシナガワハギが繁茂していたり、ウラジロチチコグサが繁茂していたりするような状況も見られる。

 これらの造成地の多くでは、切り崩した土壌の中、表面で多くの化石が容易に発見できる。成田層の化石たちだ。中には他の場所の土壌を盛り土する場合もあるが、造成中などの場合、現場監督の方や関係者などにたずねれば本来の土壌かどうかはわかる。タマキガイ(左写真)、アサリの類、バカガイは完全な形のものが掘らずにすぐ見つけることができる。イタヤガイ、マガキなど大型のものは割れている場合が多い。アカニシは巻貝のためか大型で完全に近い形のものが見つかることもある。

<道路>

 道路といっても舗装された車道から農道まで様々である。道路自体も植物の生育場所であり、それに付随した昆虫、小動物の生活場所である。しかし、道路があれば道端、道路と他のものの境目もそれぞれの動植物の生育場所となる。

 農道は農村地帯が広がる北総地帯の多くの場所では生物と出会える格好の場所である。多くの農道は偶にしか車が通らないため、道の側部の草地、轍、真ん中の草地、轍、側部の草地という変化が見られる。真ん中の部分の多くはオオバコ、シバのなかま、カゼクサなどだ。踏みつけにつよいイネ科の植物が多い。道路雑草群落といわれるようだ。側部はそで群落の植物たちが占める。ここを占有する植物は場所によってかなり異なる。ススキ中心、ヨモギ中心、ハルジオン、ヒメジョン中心、ホソネズミムギなどとその混生が多い。ニュータウンには通常、車の通りの少ない農道に近い状態の細い道も多い。そのようなところではチガヤ(右写真)が目立つことが多い。道の側部は雑木林のマント群落になっていることが多く、ヌルデ(左写真)はほとんどの場所で見られる。

 住宅地の舗装路では街路樹が植えられ、その間をツツジなどの生垣が整備されていることが多い。その間隙をぬって、ブタクサ、ナガミヒナゲシ、ハルジオンなどが生えていることが多い。特にナガミヒナゲシは近年、著しくその勢力を伸ばしつつある。

<グランド、芝広場など>

 最近は公共の運動公園、運動場も多い。学校はどこにでもある。それらのグランドも立派な生物の活動場所だ。グランドはその整備のされ具合によって植物の植生も変わる。一般的には踏みつけに強いオヒシバ、オオバコ、ニワホコリ、コニシキソウ、カタバミ、スズメノカタビラ、エノコログサのなかまなどが季節によっては勢力を伸ばす。ところが踏みつけに強い植物が踏みつけられなくなるとヨモギ、カモジグサ、メヒシバ、ツユクサ、メドハギなどが生えてくる。前者は踏みつけには強いが生存競争には弱い種といえる。

 芝の広場も公園などには多い。このような場所ではちょっと手入れがされないと芝以外の植物が生えだす。このような場所ではニワゼキショウ、オオニワゼキショウ、ノハラナデシコ(右写真)、コメツブウマゴヤシなどが見られることがある。

 

<水田、畑地>

 水田、畑地周囲には多くの植物が生える。水田の畦は定期的に作り直されたり、草刈が行われたりしている。畦には水田特有の植物が見られる。ケキツネノボタン、マンネングサのなかま、カズノコグサなど見られる。水田ではマルタニシ、タイコウチ、ヒルのなかまなどが見られる。休耕田も含め、トンボは非常に多く見られるが種類はノシメトンボ、シオカラトンボなど数種類がほとんどだ。

 畑地の周囲では捨てられた野菜の類、野生化した農業用品種も見られるので注意が必要だ。チョウのなかまは多く見られる。

 休耕田は神崎川周辺をはじめ数多くある。これらの休耕田は完全に干上がっているものや夏季には水が入るものなど、その状態は様々だ。水が入っている場合は湿地化し独特の植生を見せてくれる(右写真)。ガマ、ヒメガマ、イのなかま、アギナシなど多くの水生植物が繁茂している。

 このように様々な問題を抱えつつ、様々な様相を示す北総の北西部ではあるが、見切れないほどの動植物がそこに生活している。

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