7月下旬から8月にかけて関東は猛暑が続いている。連日、摂氏35度、それ以上の日が続いている。そのような8月の朝、利根川で水面に
ピチピチという音とともにいくつかの魚群を見つけた。ひとつ数百尾のかたまりが3つくらい確認できる。1尾、1尾が口を開き前進している
ようだ。遠くて確認しづらい!ちょっと魚というより両生類の群れのようにも見える。が、ときどき、水上に跳ね上がるものもいるので魚と確
認できる。大きさは水面に浮かぶ木の葉と比べると10cm程度だと思われる。望遠レンズで撮影しておいたので、あとで確認するとボラであ
る。取手市で見たのでかなり遡上してきていることになる。
昼過ぎに川面を見ていると、水面からジャンプする魚たちがいる。利根川でジャンプというと外来魚のハクレンをすぐに想起しがちだが、若干、魚体が小さく、スマートに見える。かなり対岸に近くで目視では確認しにくい。また、望遠レンズのお世話になることとする。とりあ
えず撮影しておいて後で確認することとした。
どうやら、これもボラだ。縦扁な頭部、背鰭がかなり後部についている。胸鰭と眼の位置もボラであることを示している。尾鰭は黄色が目立
ち、湾入もしっかりとしている。ボラもよくジャンプする魚だ。
サイズは朝のものと違い、しっかりと成長しているもので、ボラ・サイズ(30cm以上)はありそうだ。やはり、群れているようで、1尾
がジャンプすると続いてジャンプすることもある。
ボラは身近な魚だ。海は
もちろん、汽水域から淡水域まで、様々なサイズ(成長過程)のものが広く分布している。ボラはボラ目ボラ科に属して学名をMugil
cephalusという。日本だけでなく世界中の熱帯から温帯で見られる。ボラは食用にもなり、全長は大きなもので1m近く
まで成長する。出世魚で、「Wikipedia」によれば、関東ではオボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トドと順に呼称が変わると
のことだ。順番は出世魚の例としてよく出ているが、不思議なことに具体的なサイズがボラに限ってあまり示されていない。一番大きな者が
「とどのつまり」だ。「デジタル魚図鑑」では「海から川に入る3cm以下の幼魚をハク、 川や池で生活する3?18cmのものをオボコ、生後1年を過ぎた18?30cm以上の成魚をイナ、2?4年の30cm以上の成魚をボ
ラ、5年以上の老成魚をトドという。」とある。これによれば、呼称の変化は大きさだけでなく魚齢も関係するということ
らしい。かなり地方毎に差違があるのであろうか?
食用としては関東より関西のほうが食されるようだ。ただ、ボラに限らず淡水域まで入り込む魚は臭みがあることがあるそうで、それなりの処理が必要なときもあるそうである。また、環境、餌によりボラの味が左右されるようだ。卵巣は「唐墨、からすみ」として珍重され
高級品だ。胃の幽門も「ボラのへそ」として珍重される。
ボラはよく同サイズの個 体で群れをつくり、水面に群れている。サイズごとに集まり群れをつくるので、同じ場所でいくつかの群れが見つかっても、同じサイズのものが群れを構成している。食性は底生の堆積物、藻類、デトリタスなどを食べ、植物性の強い雑食性。ボラは環境の悪化にも強
く、東京では都市部の河川で大量発生して、よくニュースになる。かなり汚れた河川や運河でも見られる。海では岸辺や崖下の水面で群れてい
たり、漁港に入り込んでいたりする姿もよく見る。
下左の写真は千葉県銚子市の漁港で捕らえたボラだ。こちらは25〜30cmくらいに育った個体だ。下右は同じく銚子で捕獲した幼魚、全
長でも2〜3cm程度の大きさのものだ。
ボラ科には多くのなかまがいるがボラはボラ属だ。ボラ科の特徴は頭部が縦扁していることや側線がないことだ。
ナメダ属にはやはり食用となるナメダという魚がいる。ナメダはボラによく似ているが、眼がより口に近く、頭部先端が細くなってい
るように見える。また、ボラには脂瞼(しけん、眼の前後から伸びる透明な膜)とよばれる器官がある。コボラという魚もいるが名前は「コボラ」だがナメダ属だ。
下の写真はワニグチボラ属のワニグチボラの幼魚と思われる。漁港などで2cm以下で銀色にキラキラと光り、腰を左右に曲げ泳いでいるこ
とが多い。
「こんなところに...」という感じで見つけることが多い魚がボラだ。しかも、通常、魚は特定の大きさ(成長過程)の姿しか見ることが
できないものが多い中、ボラは色々な大きさを普通に見ることができる。