中国の風呂

  風呂といっても正確な意味の風呂は中国には少ない。風呂とは、風呂桶とかバスのことを言っているのであるが、中国にあるのはシャワーだけである場合が多い。それも各家庭にあるのではなく、"単位"といわれる、職場や役所、大学校などの所属機間にあるものを利用しているようである。家族もそこを利用できる。そのほかには公衆浴場の様な設備が有るに有るが、極めて少ない。

  "単位"にある風呂屋や公衆浴場には浴槽があるらしいのだが、あまりにも不潔だからとので、あまり入る人はいないとのことであった。浴槽が不潔であることは相当のものらしい。中国人の二人の人から、どこの浴槽であっても(例えば中国の大都市のホテルや日本のホテルを使用する場合であっても)絶対に入らないと言っているのを聞いたことが有る。一人は農村出身の大学生。もう一人は私が滞在していた大学の副学長である。大学生の方はさもありなんと思えるのであるが、大学の先生でも、浴槽に体を漬けるのは不潔だと信じていたらしい。

  この先生が始めて日本に行く際に、奥さんが、日本に行ってもホテルのバスには絶対に入らないように、とさとしたとの事であった。それはバスのお湯に浸かって、性病に感染してしまうのを恐れてのことである。事ほど左様に風呂のお湯に浸かるのを恐れている人は多いようであった。風呂に入るのを恐れているとう根拠をもう一つあげると、中国の商品で、次のようなものがあった。それはお"風呂の友"という名前の入浴剤であるが、入浴剤のほかにバスの中にすっぽりと収まるビニールが付いていてた。つまりこのビニールをバスの中に敷いて、バスの壁面に直接皮膚が触れるのを防ぐのが目的らしい。

  私の経験でも、中国の安いホテルでは、バスタブはあるがお湯を溜める為の栓が殆どの場合無かった。この事からしても中国ではお湯を溜めて、その中に体を浸ける習慣は無いように思えた。ついでに言えば日本人の様にお風呂で温まるという習慣は無いらしい。日本人と中国人では風呂に入るといっても、その目的は微妙に違うのである。風呂に入る目的が中国式では"洗う"と言うことであり、日本人のそれは暖まるということも兼ねている。洗うのが目的の中国人には、一日に数回も温泉に入ることは理解し難いことかもしれない。

  私が長期に滞在していた招待所では、風呂のお湯が故障で度々出なくなることが多かった。そのたびに何時修理が終るのかと聞きに行ったものだから、そのうち招待所の人は、風呂のお湯の修理が、何時終ると親切にも教えてくれる様になった。風呂好きの日本人の為に、特別に親切に教えてくれた情報であったかもしれない。それにしてもバスのお湯はしょっちゅう故障して、またそのお湯の色は、錆だらけのお茶の色で、おまけ鉄錆びそのものが蛇口から出てきた。

  風呂に漬かると伝染すると恐れられている、その性病であるが、本当にそうなるかは別として、性病は実際にかなり多いのではないかと思えた。毛沢東の共産主義が盛んな時代には、中国には性病が無いと言われていたらしいが、現在の開放経済の中国では、うっかりすると感染する可能性のある病気であるようである。電柱や壁に、コッソリと治すとか、中国式に一針で治すとか、怪しげな性病治療の広告が沢山張ってあった。露地の奥の方には、怪しげな治療院らしき看板がひっそりとかかっていた。やはりこっそりと治したい人が居るらしく、そういった人の為に需要がある様である。