水、米、油、野菜など

  水では苦労した。日本では水と安全はただなので、有り難さが分からないと言われるが、その言葉を中国で実感した。ある夏の吉林の水道の水は、大きなバケツの中に一昼夜ほど溜めておいくと、バケツの底に澱がたっぷり溜まって気味が悪かった。その上澄みはきれいに見えるので、やむを得ずそれを料理に使っていた。冗談半分であるが、日本への手紙の中で、水の中の浮遊物を固める凝縮剤を送ってくれるように頼んだことがある。日本製の水道用のフィルターなどでは一度で目詰まりしてしまう程の濁りであった。原因は上流の大洪水で、その水が松花湖に流れ込んで、その濁りが浄水場で浄化出来ないまま、蛇口からで出てきた。濁りは何と半年以上も続いた。

  米の中に小石が入っていることがあり、これにも困った。いつか歯が小石にぶち当たるかもしれないと用心して食べるのでは料理の味も分からない。手料理の日本の味を楽しんでいると、突然歯にガチンと当たり、本当に頭に来た。うっぷんを晴らす相手がいないので、丹念に米の中から小石を取り出して、セロテープで貼付け、日本への手紙に入れて送ってこともある。暇があったから出来たことではあるが。勿論米屋に行って、"砂子多"と苦情を言ったが、"そんなことはないでしょう"と言われて抗議はそれでお仕舞になった。私の中国語による抗議ではこれが限界であった。確かに中国の米も肉も驚くほど安い。米は日本の値段に比べて10分の1以下ではあったが、安心や安全、衛生や便利の値段を差し引いて比較しなけれならないと感じた。

  里芋とイカを日本の醤油とダシの素で味付けして料理すると、これぞ日本の味といった料理になった。つまり油無しの日本料理である。私は油が嫌いではなかったのだが、脱臭していないままの大豆油料理はほとほと飽きてしまっていたのである。油と言えば、私が中国に来て三年目位になって脱臭された油がやっと買える様になった。それまでは日本から食用油まで持って来ていた。大分経ってから、ようやく透明な脱臭された油を売っているところを探し出した。探すにもかなり苦労をした。大体現地の中国人は大豆油のあの匂いと色が体に良いと思っているらしく、脱臭された油は需要が少ないようであった。大豆油の方は、瓶を持って行って升秤で量って貰っての買うのである。大豆油は家内工業の製品といった感じであった。サラダ油は大豆油の五倍もの値段で超高級品であった。街の中央市場まで行けばこの様な高級品の油や、高級品な魚、野菜も買えたが、いつもの買い物は、道端の野菜売りや近くの副食商店で済ましていた。

  やはり中国では売っているものが夏と冬ではかなり違う。それだけ季節感があるとも言えるが。例えば冬になると野菜がずっと少なくなった。確かにあの寒さでは、ジャガイモなどの野菜は凍り付いてしまう。茄子なども売ってはいたが、凍っていて、これを解凍すると、とろけたようになった。ジャガイモ、白菜や、葱も冬の初めに大量に買い込んで家で貯蔵するものらしかった。しかし最近の市場経済の活発化によって、トマトやキュウリ、茄子などの温室物が冬にも買えるようになってきた。しかし冬になると野菜は相当高くなって、日本の様に冬でも野菜の値段が変らないということはなかった。僅かではあったが、中央市場に蓮根や里芋が並んでいることがあったが、これなどは南の方から運んできた貴重品でもあった。